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#1 異世界?


「ん…」


 温もりの中、俺は意識を取り戻した。

 何があったのかは、だいたい覚えている。

 大学に落ち、事故を目撃し、救急車を呼ぼうとして…


 あぁ、車が爆発したんだっけか。

 完全に油断していた。

 どこかからオイルでも漏れていたのか、はたまたトラックの積み荷がやばいものだったのか。

 原因は分からないが、何やら不運が重なったらしい。

 でも、あの爆発の中よく生きてたな。

 我ながらしぶとい奴だよ全く。


 「ぁ…」


 まず気が付いたのは、声。何かがのどに詰まったように、上手く発音ができない。

 次に、手足。どう動かそうとしても、まるで動かし方を忘れてしまったようにピクリとも動かない。

 そして、耳。意識を取り戻してから、ずっとどこからか優しい歌声が聞こえていた。

 聞いたことのない声。でも、どこか懐かしいとも思える声だ。

 歌もそうだ。初めてのはずなのに、どこかで聞いたような歌で、

 これを聞いていると、勝手に意識が――


『タスケテ…』


 ――意識をなくす瞬間、人工的な声が耳の奥で消えたような気がした。



 端的に言おう、俺は転生した。

 いやいや、どこの主人公だよって思う気持ちは分かる。俺もそうだったし。

 でも、そうとしか考えられないんだから仕方ない。

 現実にあったラノベたちの主人公のように、こんな俺にもチャンスがあったのだ。

 大丈夫、もし夢だってかまわない。だってどうせ現実にいたってこの先良い事があるとも考えられないし、新しい人生をやり直した方が良い。



 で、こっちに来てから約三年。俺は周りの話と見たものからだいたいの世界観は掴んだ。

 

 三年は長いって?

仕方ないだろ。俺にはどっかの主人公みたいに生まれた瞬間から大人の真似事なんてできなかったんだよ。

 心では理解しているのに頭と体が上手く動かない。

 まずこの感覚に慣れるまでに一年かかった。

 考えても見てくれ。何かを話そうとすると喉が勝手にギャン泣きに変換し、同時に訳が分からないほど涙が出てくる。周りの大人の話から色々なことを知ろうと頭を働かせたと思ったら、ほぼ一瞬で寝落ちする。こんな状況で何ができるっていうのだ。

正直、おはようの挨拶が泣き声として響き渡った瞬間、俺は自分の意思で話すことをやめた。腹がすいた、おむつが汚れた、何か無性に気分が悪い、そんな時にはおとなしく流れに身を任せて泣き続けた。

一番泣いたの? 最初の予防接種だよ。今まで受けたどんなのより痛くて、正直死ぬかと思ったよね。こりゃ注射嫌いになるわ。

何かしようとするとすぐ寝るのも問題だった。ミルクを飲む、歌を聞く、何か手足をもてあそばれる。その度に尋常じゃない睡魔が襲ってきた。

それでも起きてろって? 無理無理、給食食べてすぐプール、からの社会の時間よりも強い眠気が一瞬でやってくるんだぞ。抵抗しようとした時にはもう寝てるっての。



そんなこんなで一年は棒に振った。

で、ようやく自分の力で色々できるようになってきた二年目。

まず変わったのは体だった。誰かにされるがままだった手足を、ようやく自分の意思で動かせるようになってきた。でも転んだ時の衝撃が半端ないから要注意。

言葉もだんだん話せるようになった。ほぼ発声はできないけれど、自動的に鳴き声に変換されることがなくなった。

でも、活動時間が増えて分かるようになった問題が一つあった。周りで話す声は日本語だし、文字だって同じ。でもなぜか、意味が理解できない。「ママ」とか「パパ」をみたいな簡単な言葉でさえ、ずっとモヤがかかったようにしか聞こえず、何度も聞いてようやく理解できるのだ。耳のせいか脳のせいかは分からないが、そう聞こえているのだから仕方ない。


 そして三年目。発音するにはまだまだ難しいが、ようやく大人の話している内容がクリアに聞こえるようになってきた。痛みに対する恐怖はまだ拭えていないが、体も思い通りに動かせる。


 ここにきてようやく、俺はスタートラインに立てたのだ。


 まず、俺の住んでいる場所。これは日本に間違いない。文字や人種、生活環境は今まで俺がいた世界とほとんど同じだ。

 そんな中で、決定的に違うのは、創造神イヴの存在と文明の発達。

 まず、この日本、いや、世界の多くが唯一の神である創造神イヴを信仰している。そのため、宗教を理由とした争いは今ほとんどなく、新しい宗教の勧誘もない。崇める者が唯一だと、世界は平和なのだ。

 次に文明について。この世界は、古くは魔法なんてものもあったようだが、今は完全に機械の世界になっている。データネットと人工知能の開発が進み、人そっくりのアンドロイドが町中を闊歩し、国民にはコンタクトレンズ型のデータ端末が支給され、いつでもどこでも誰とでも簡単にやり取りができる。

特にこのデータ端末、網膜から脳に向かう電子信号を利用し、頭で考えるだけでメッセージの受け渡しやクラウドに保存されたデータを閲覧することができる優れもの。ゆくゆくは電話や電子通貨の利用も検討されており、いつかスマートフォンと同じ感覚で使えるのではないかと、全世界で研究がすすめられているらしい。

残念ながらこのデータ端末は小学校にあがる時に支給されるらしく、俺はまだつけたことがないのが悔しい。


俺の家族は両親と兄の4人で、郊外にある一軒家に暮らしている。

父の小林一馬かずま。例のデータ端末の研究・開発をしている科学者。ほとんど家に帰ってこないので、正直まだあまり顔が分からない。

母の小林花はな。多忙な父に代わり、ほとんど一人で家を任されている専業主婦。いつも長い髪を後ろで束ね、家中を走り回っている。怒るとめちゃくちゃ恐い。

兄の小林誠まこと。高校二年。有名な進学校の科学部部長。開発した何とかっていう装置が大企業の目に止まり、既に将来を約束されているイケメン。

そして俺、小林優すぐる。まだ何もできない3歳だが、なんといっても元は大学受験までした年齢の転生者。このパターンは、絶対何か特殊な能力を持って生まれたに違いない、将来が楽しみなやつ。


こんな、ちょっと変わった日本の小さな家で、俺の新しい人生は幕を開けたのだった。


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