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怖いことなんて知らなかった。

自分が生きてる実感すらなくて、ただただ景色が人が私の周りを変えていった。

ついて行けない私は誰かに嫌われたり好かれたり無視されたり。(好かれることはあんまりなかったけど。)

共感できないことだらけで、でも、反発することもなくて、どうしたらいいのか途方に暮れる。

自分の心すら見えてなくて、まるで頑丈な要塞が私の奥にあるみたい。

きっと私は人間にむいてないんだ、とか、人間ではなくて別の生き物なんだなぁってなんとなく感じてた。

夫はそんな私を大事にしてくれてる。

大事にして自分の一部にしようとしてる。

すごいね。

私でさえ私を持て余しているのに。

毎日毎日一緒に居たら私は夫の所有物になったようで安心する。

依存すること、生きるのが楽になるって初めて知った。

楽になるし、夫も安心しているみたいだ。

人間はつがいが必要なのかもしれない。

優しい夫が最初は自分でも驚くくらい大好きだったけど、一緒に居ることが日常になればなるほど私の空っぽはどんどん広がっていく。

なんで?

こんなに安定してる時間、幸せって名前が付くんでしょ?

それなのに私の居場所はここじゃないって空っぽがささやく。

夫や子供が私が手に入れるはずのなかった普通の暮らしをくれているのに。

私はそれすらも馴染まない欠陥品だ。

もう早く一刻も早く死なないといけない。

夜空を見上げ静かに考えて、それでも今の暮らしを長く続けないといけないと思う。

それは私のためなんかでは絶対にない。

夫と子供が私みたいになるのが一番怖かった。

怖いことがあるのは生きることを頑丈にする。

でも、突然の出会いは日常を少し狂せた。

彼は私を気にかけてくれた。

無垢な青年だった。

私の冗談に困り固まる様子がとても好きだった。

あんまり純粋に優しいからある日、涙が勝手にこぼれてとまらなくなる。

私は彼に抱きしめてもらった。

華奢だと思っていたんだけど、私は簡単に彼の腕の中に収まって馴染んだ。

すべて忘れて私も彼の背中に手をまわす。

それから彼と居る時は何もかも忘れることにした。

彼の笑顔が仕草が話す声が私を幸せにしてくれる。

どうしてだろう。

なんで彼は私を楽しくしてくれるのだろう。

私には縁の無かった友情とはこういう感じなのかな……

彼は私によく触ってきたけれど一線は越えることはしないし、私もしてはいけないことだと自分に言い聞かせた。

ずっとずっと仲良くしていたかったけれど、彼は私に死んで、と言ってきた。

言われた時、なぜか私は自然と微笑んで頷いていた。

彼に言ってもらえて嬉しかった。

彼は子供みたいに泣いて泣いて私の胸をぐしゃぐしゃに濡らす。

私も泣きたかったけれど泣いてはいけない気がして彼を離さないことに徹した。

楽しくて忘れることができた彼との時間はもう戻らない。

心が痛くて、頑丈な要塞がガラガラと崩れた音が確かにした。

やっと彼が泣き止むと、私は冗談めかして、そんなに好かれてるとは知らなかった、と手を振ると……彼は、ほんとうにきれいな晴れやかな笑顔で、すごく大好きだよ、と……

彼はもう私の冗談に困ってくれないくらい大人になっていた。


私は、私はやっぱり、なんにも理解できない出来損ないの人間もどきだった。

夫は彼との付き合いに気づき人が変わったように怒り狂って、今は不気味なほど穏やかな目で私を見ている。

私は彼とは友達だった、とはとても言えなかった。言えばよけいに夫を傷つけてしまいそうで。

私は友人を失い、家族の平穏も壊し、それでもまだ生きようとしている。

そろそろ潮時なのだろう。

今までよく無事で生きてきたと我ながら感心する。

誰のことも幸せにできないこんな私はもういらない。

庭で洗濯物を干している私を縁側で眺めていた夫に微笑めば、曇った空からやっと迎えのUFOがやって来た。

私は彼方から人間の彼女を偲んで小さく手を振った。

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