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よく分からないまま疎ましく思いつつも、きっと惹かれ続けていたんだと思います。

そうじゃなきゃ会話もメールも断ち切って関わらない。

我ながら僕は不器用な男だと思い知りました。

自分の考えていることの半分も彼女には伝わっていなかった。

だからすれ違っていた。

でも、きっとそれ以前に彼女には家庭があるから、僕はその部分に逃げていたんです。

本心を伝える術さえ持っていないのにひねくれている僕はいつでも彼女から去るつもりだった。

なのにこの僕は……僕の気持ちはいつしか彼女に執着してしまったのです。

彼女は、はっきり言って賢いのか鈍いのか分からないつかみどころがない人です。

基本的には優しいのですが、時に冷たい。

突拍子もないことを言ったりして僕が驚いたり困ったりするのが特に好きだったようで、根は意地悪な女なのかもしれません。

でも、その意地悪な笑顔がとても良く……腹を立てているはずの僕も胸が空くようでついつい笑ってしまう。どうしても憎めない人なのです。

初めて彼女に触れたのは僕の兄と彼女と三人で出掛けた時でした。

三人の共通の趣味であるバイクでツーリングに行きました。

さすがに僕と彼女の二人で行くとなるとお互いに躊躇が生まれ、いつまでも計画は進まず仕舞いでした。

しかし、兄が一緒ならば言い訳が立つ。

世間的にも、僕と彼女の心にも。

それにその頃はまさかこんな事になるなんて思いもしなかった……いや、心のどこかでは気づいてはいましたが、まったく現実的ではなかったのです。

男女の友情なんて儚いものだと笑ってください。

確かに僕と彼女は誓ったはずだった。お互いの友情を。

しかし目が合えば吸い込まれそうな引力を感じ、心底楽しい会話が終わればその余韻に日々の生活が彩られる。

滅多にない友情だと疑ってはいました。

それが純粋な友情ならば人間はほんとうに素晴らしい生き物ですよね。

そして、僕と彼女の友情が壊れるのは簡単でした。

彼女は涙をこぼし、僕が抱きしめたから。

それは好きだからです。

彼女の何もかもが、僕の何もかもが。

どうしようもなくなった。

行き場がなくなった、と例えることがしっくりきます。

もう友情では容量が足りなくなったんです。

それからは大変な幸せが二人を襲いました。

触れ合える喜びはもちろん、愛されていること愛していることが僕を満たしては枯渇させ、彼女のすべてが彼女という人間はもうどこを探しても代わりのきかない異星人になって、僕は安定と不安定と繰り返しました。

彼女は家庭を捨てませんでした。僕もそこまでは怖くて求められない。

なのに彼女を独占してしまいたくて、でもできなくて。

結局は彼女がこの世から存在しなくなることでしか僕は救われないって気づいたんです。

そうでしょ?

僕はそのことを彼女に伝えました。

彼女は微笑んで、そうだね、と言ってくれました。

僕はようやく時間制限のない消えない幸せを手に入れたように感じました。

そして同時に彼女がもう笑ったり怒ったり意地悪して喜んだりできなくなることを悲しみました。

涙が止まりませんでした。

彼女はずっと抱きしめていてくれました。

彼女が本当は優しいことを知っています。冷たく感じるのは僕がさみしいからです。

彼女の涙は僕のために流れ、彼女の笑顔は僕に笑ってほしいからで、彼女の意地悪は僕が好きだからすることだと、今さらながらに何度も何度も納得するのです。

僕はこのぬくもりや匂いや感触を忘れないように出来るだけ長い時間、彼女に抱きしめてもらっていました。

彼女は最後に、こんなに好かれてるとは知らなかった、と意地悪そうに言い満面の笑みで手を振ってくれました。

僕は初めて彼女に対し、すごく大好きだよ、と笑って言い返しました。


彼女は今、どうしているのでしょう。

僕は知りません。

死んだのか生きているのか。

でも僕はそんなことすら知らないまま彼女を偲んでいます。


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