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与えられた力(2)

伝説の大天空ポロリ落とし。


■登場人物

但野(タダノ) (ヒロシ)

自分の死をきっかけに、謎の存在から正体不明の力を授けられた人間の男。

悪運が凄まじく強い。


『月影森のガラ』

日が照らすことのない暗黒の森、「月影森」で暮らすコボルトの男。

力強い見た目とは正反対に、理知的な話し方をする。


『月影森のイズ』

日が照らすことのない暗黒の森、「月影森」で暮らすコボルトの男。

慎重ではあるが基本的に楽観的、責任感は強いがその割に器用な方ではない。


『月影森のギナ』

日が照らすことのない暗黒の森、「月影森」で暮らすコボルトの男。

他のコボルトよりも前頭部から背にかけての毛の量が多く、目元は隠れていてよく見えない。

 凄まじい速度で森の天幕を突き破り、そのまま空へ飛び上がり、途中で鳥の群れの中に突っ込み、そのうち一匹は跳ね上がった勢いのまま足の爪先で突き飛ばしたらしく、視界の中でぐるぐると飛行能力を失ったまま落下していくのが映った。


 [超跳躍]を勢いのままに使用してしまったが、脚力で飛び上がるという説明で間違いないはずなのに、両腕の力で跳ね上がってしまった。それにも驚いたが、あまりにも高く跳ね上がりすぎだ、どのくらい跳ね上がったのかもわからず、あまりの高さに全身を冷気が包む。

 まずい、元の世界なら気圧の変化や地上との温度差で一瞬で高山病を起こしているところだ、というより今すぐ発症しても不思議じゃない。

 発症したら場合によっては一瞬で気を失う、こんなところで気を失ったらいよいよあとはぺしゃんこになるだけだ、すぐになんとかしなければ。


 病気や怪我の治癒に使えそうなもの…あった!

 [超治癒]、生きている限りすべての生命力を取り戻す、魔法…?

 魔法…は、まだ使いたくない。

 そもそも魔法ってなんだ、魔法って。どんなふうになるのか想像もつかない、やるなら特技だ…いや、特技の[超跳躍]でこんな事になっている以上は特技であっても油断ならないが、それでも魔法という自分のこれまでの常識にかすりもしないものに今この状況で頼るよりはずっとマシなはずだ。


 特技でなんとかなりそうなものは…これか?

 [チャクラ]、精神を集中することで、生命力を練り上げて怪我や病気を治癒する。これなら[超跳躍]のような予想以上の効果を発揮するなんてことはないだろう、少なくとも病気が治療できるなら高山病もなんとかなるかもしれない、意識のあるうちに[チャクラ]を使うべきだ。

 [チャクラ]も、使うことを意識すればやり方が分かる。

 丹田に力を込め、全身に生命力を回す…おお!体が暖かい!寒さが和らぐ…それに、コボルトと出会ったときにタックルを受けたときの背中の痛みがなくなったし、肩こりや腰の痛みや目の疲れや眠気も吹き飛び、頭の中がめちゃくちゃクリアになった感覚がする。

 なんか、社畜時代に飲んでいた栄養ドリンクを万倍パワーアップしたみたいなヤバイ効果を感じる。これを使ったことで身体に反動はないのだろうか…一度目の死因が栄養ドリンクを過剰摂取したことによる心筋梗塞だったこともあるし、ちょっと怖い。


 しかし、思考がクリアになったおかげで改めて冷静になることができた、この森林はめちゃくちゃに広い上に、周りを険しい山岳に囲まれているようだ。

 自分の体が向いている正面方向には、森を切り開いた人工的な集落のようなものが見える。距離は少し遠いが、[超跳躍]をうまく使えばひとっ飛びで行けそうだ。…いや、うまく使えるかどうかは謎だが。


 地理を確認していたところ、次第に自分が減速していることがわかった、雲にまでは流石に届かなかったようだが、雲は氷の粒の塊だし、黒雲だと天然のミキサーのような状態になっている場合もあるらしい。

 空に浮かぶのは仄暗い灰色のやや黒雲といったところ、全裸で飛び込めば間違いなくいろいろとズタズタにされるだろう。

 回復に役立つ特技や魔法があることはわかったが、天然ミキサーでボロボロになることで試したいとは微塵も思わない、ギリギリで減速してくれて少し安堵した。


 だがその安堵もつかの間、空高く飛び上がったら、当然ながら今度は、同じ高さだけ地面に向かって突き進む。

 耳の穴に吹き荒ぶ風が轟々とうるさい、今度はこの状況を切り抜けなければならないのか…。

 飛び上がった時間は体感で三十秒ほど、飛び上がったあとで速度は減少し、今度は落下するときに速度はどんどん増していく。

 結果として、飛び上がる時間と地面に落下するまでの時間は誤差程度しか発生しないはずだ。


 制限時間は三十秒、ソレまでに役立つ技能を探さなければほぼ確実に死ぬ。


 [堅牢]は攻撃の無力化だったはずなので、落下のダメージを防いでくれる気はしない、運任せで生き延びるのは不可能だと考えたほうがいい。

 なにかないか…[飛行]、空中を自在に飛び回る魔法…クソ、魔法か…試したくはないが、特技で良いものがなければぶっつけ本番で使うしか無い。

 他には…まてよ、そういえば俺は全裸で生い茂る森の天幕をぶち抜いたはずなのに、全身が擦り切れるようなダメージは負っていない。

 枝もいくつかぶち折った感覚があったけど、ソレによって痛みは何も感じていなかった、もしかしたら[超跳躍]の効果が継続している間はダメージを受けないのか…?


 いや、違う、あまりにも速すぎて痛みを感じていなかった可能性がある。

 瞬間的についた傷や、それこそカマイタチのような風の力によってスパッと切れたときは、痛みは殆ど感じないことがあるらしいし、今回は上空に飛び上がる速度がまさにソレだった、凄まじい速さで飛び上がったせいで痛みはないまま全身に怪我を負っていた可能性は否定できない。

 [チャクラ]のおかげで全身の痛みや疲れが吹き飛んでいるが、そのせいで飛び上がった勢いによって怪我を負ったかどうかをすっかり確認できなくなってしまっていた、しくじった。


 そうこう考えているうちに、飛び上がるときに突っ込んでしまった鳥の群れがいる高さが目前となっていた、鳥の群れは実は地上からそれほど高くない位置にある、特技で切り抜けようとするならあそこが実質デッドラインだ。

 もはや[飛行]を使うしか無いのか…いや、まてよ、鳥か!彼奴等をクッション代わりに利用できないか?空中で捕まえるのは普通なら無理だろうけど、特技なら…これだ!

 [飯綱落とし]、どのような状態であっても近接している相手を捕縛し、地上なら飛び上がり、空中ならそのまま落下することですべての落下ダメージを捕縛対象にのみ与える絶技。


 捕まえられれば、最大の懸念である落下ダメージがすべて鳥の方に移せる。

 これも[縄抜け]と同じだ、使おうと思うとそうなることがわかる。

 鳥の群れの中に突っ込み、一匹を[飯綱落とし]で捕縛する。

 鳥の大きさは大鷲よりさらに大きい、というより元いた世界の鳥で言うなら、ダチョウより更にでかい鳥が両翼で飛んでいるといった感じだ、俺の身体よりも遥かにでかいが、[飯綱落とし]による捕縛で相手の動きが封殺されている、巨大鳥に抵抗も許さぬまま自分が飛び出してきた森の穴へめがけて垂直落下する。

 頼む、[飯綱落とし]よ、成功してくれ…!!


 ズドムンッッッッ!!!!という凄まじい重低音で地面をならし、足元には巨大鳥、その上には巨大鳥を両手両足で器用に捕縛して直立姿勢をたもつ全裸の男…。

 全身に痛みはない、落下の衝撃で足がしびれるやも、と思ったがソレもない。

 どうやら[飯綱落とし]は完璧に決まったようだ、あの高さからの落下ダメージをすべて巨大鳥に肩代わりさせて、無傷で生還したわけだ。


 よかった、本当に死ぬかと思った、天空に全裸で飛び上がってそのままフリチンで落下して死ぬなんてマジで嫌だ…。

 生死の境をさまよい、九死に一生を得たことですっかり安堵していたが、ハッと思い出した。

 そもそも飛び上がる前にはコボルトの戦士に命を狙われていたはずだ、急いであたりを見渡し状況を確認する。


 すでにそこには三人のコボルトが揃っていた、俺が飛び出した穴を囲むようにして、周囲にぐるりと揃っている。

 まずい、完全に危機的状況を脱する機会を失った、いやまだチャンスはあるかもしれない、考えろ、使える特技を全力で見繕え。


「に、肉だ…」


 まずい、食料が降ってきたと思われている。

 もう一度[超跳躍]を使って1分ほど時間稼ぎをするのはどうだ、今度は飛び上がる高さやダメージの回避手段が用意されている、悪い判断じゃないはずだ。


 現状をなんとか打開しようと考えているうちに、爪で襲いかかってきた戦士のガラが話しかけてきた。


「お、おい…そ、その鳥…」


「…と、鳥?…あ、そうか、鳥、とっさに掴んだんだ」


 落下ダメージから助かりたい一心で掴んでいたから、着地に成功してからは鳥のことなどすっかり頭から抜け落ちていた。

 そういえば、飛び上がるときにも一匹仕留めていたような…と思ったら、タイミングよくガサガサと森の天幕から滑り落ちてきたようだ、ドサリと巨大鳥が力なく焚き火の近くに落下した。


「もう一匹!?」


「嘘…信じられない…俺たち、助かるかもしれないぞ、ガラ」


「なんと…なんということだ…」


 三匹のコボルトはヘナヘナと力なくうなだれた、急にどうしたと思ったら、改めてよく見ればその瞳の生気は薄く、小さく息切れしている。

 槍を手放したその手は小さくプルプルと震え、全身で「もう限界だ」と訴えているのがわかる。


 コボルトの戦士・ガラが、残り二人に変わって話しかけてきた。


「先程の非礼を詫びよう…頼む…俺達に食料を分けてほしい…」


 俺は、どうやら、色んな意味でギリギリのところで助かったようだ。


・・・・・・・・・・


 鳥は二匹ともコボルトたちに渡すことにした。

 交換条件としては、俺を襲わないことと、俺の持ち物をすべて返してもらうこと、そして襲ってきた事情などを隠さずに話してくれることとした。

 コボルトたちはその条件で特に渋ることもなく、大喜びで了承した。

 今度の交換条件なら、流石に騙し討ちなどしないだろう。


 巨大鳥のうち一匹は[飯綱落とし]によるダメージを受けたせいで内蔵や頭などが潰れまくっていて、すぐに食べなければ傷んでしまうということでこの場で食べることに決めたようだ。

 もう一匹、[超跳躍]で跳ね上がるときに仕留めた方は、運良く綺麗に首の骨が折れているだけだったので、ここでは羽をむしって血抜きだけ行い、別の場所で食べたいと言った。


 コボルトたち三人と、そこに俺が加わり全員で焚き火を囲みながら、串に刺した巨大鳥のぶつ切りが焼けるのを眺める。

 俺の目の前には巨大鳥の串はない。

 俺自身はお腹が空いていないことと、襲われたとはいえ三人の事情や体調のことを考えると、俺に分けないほうが断然良いはずだと思い、俺の分も用意するというコボルトたちの申し出を断ったのだ。


 静かに焚き火を囲んでいると、ガラが話しかけてきた。


「改めて、先程の非礼を詫びたい。

 俺の名はガラ、この森のコボルトたちを束ねる者の一人だ」


 コボルトの戦士・ガラ、戦士というより、武士と言えるようなその口ぶりや佇まいは、歴戦の戦士を思わせる。

 他の二人ではなく、積極的にこのガラという戦士が話すというのは、おそらくこの二人もガラには一目置いているからなのではないだろうか…とも思う。


「えっと、はじめまして。

 俺は但野宙って言います…ちょっと事情があって、色々とよくわからないままこの森にいました」


「タダのヒロシ…?

 耳慣れない名だ、あのような凄まじい技は初めて見たが、どこか名のある冒険者というわけではなかったか」


 冒険者。

 この世界には冒険者というものがいるのか、そして冒険者なら[飯綱落とし]のような技を使ったりもできるのか…いや、どうだろう、そもそも冒険者が何なのかわからない、彼らは職業でいうと戦士だが、冒険者ならこういった技を使えるとすると、戦士と冒険者は何が違うのだろうか。


「すみません…冒険者というものも、実はよくわかりません。

 あなた達は、えっと、コボルトの戦士みたいですが、冒険者と戦士だとなにか違うのですか?」


「む?冒険者を知らない…いや、すまない、この辺に来る人間といえば冒険者がほとんどだ。

 ヒロシ殿の身なりを見るに冒険者とは思えなかったが、しかしそうなると貴族か名家の者だったのか。

 ならば重ねて非礼を詫びよう…その御身分を知らなかった無知、話も聞かず矛先を向けた恥、共に俺の命と御首を差し出すことで許してほしい。

 そしてできることなら、この二人だけは見逃してやってほしい、図々しい願いだとは思うが、何卒…」


「ガ、ガラ!? それは…!」


「待ってくれ! ガラの代わりに俺の命を貰ってくれ…頼む、ガラがいなくなってはもはや俺たちの群れは…」


「イズ、ギナ、やめろ。

 大丈夫だ、お前たちも若いとはいえ、俺に勝るとも劣らぬ立派な戦士となった。

 俺がいなくとも二人でなら俺を超えることもできよう、群れを頼む」


「ガラ…」


「う、うぅ…」


 なにか壮絶な勘違いをされている。

 しかし、なるほど…この世界には貴族や名家といった、なんだかヤバそうな職業もあるのか。

 逆らったらまずいと…覚えておこう。

 しかし、その前に、彼らの勘違いは正してあげなければ、雰囲気が一気に重くなった。


「待ってください、俺は貴族でもないはずです。

 それに、確かに襲われこそしましたが、ガラさんは俺との交換条件をしっかりと守ってくれました。

 俺は確かに、槍を置いてくれとは言ったけど、戦うなとは言わなかった。

 それに、俺はあのとき、森に火を放つと言い放ったんだ、無力化しようとする判断は正しいと思う。

 襲いかかってきたことは確かに恐ろしかったけど、でも約束を破ったわけじゃない、今度の交換条件を破らずにいてくれるなら、ガラさんは戦士として立派に約束を守っただけになる。

 それなら恥じることも、詫びることもないはずです、お願いです、顔を上げてください」


「………」


 ガラは静かに目を伏せて、ゆっくりと頭を上げた。

 よく見るとその眼には涙が溜まっているように見える、なんだ、なにかまずかったか。


「なんという…なんという器の広いお方だ…。

 俺には、この命を繋ぐ食料をいただくというのに、詫びとして差し出すものも、礼として差し出すものも、もはやなにもない。

 この首が要らぬと言うなら、せめてヒロシ殿、戦士の誇りにかけてこの命はいつでもお前に捧げよう。

 イズ、ギナ、今の話を聞いたな。

 俺の心はもはや揺るがぬ、生きている間はお前たちを導く戦士として戦うが、お前たちにはこれまで以上に戦士として鍛えてもらう。

 俺の命はすでにないものと思い、それぞれが俺が生きている間に俺を超える戦士となるよう励んでほしい、わかったな」


「「はい!!」」


 なんだろう、彼らはいたく感動しているように見える。

 というか、命を捧げるとか、すでに死んだものと思えとか、結局物騒な方向で話が纏まってしまった。

 いや、コボルトの戦士には、コボルトの戦士なりの矜持みたいなものがあるのかもしれない。

 思えば、イズというコボルトが、ギナというコボルトを連れ戻しに行こうとしたときにも、「戦士の誇りにかけて」と言い合っていたはずだ。

 襲われたとはいえ、彼らの誇りを踏みにじっていいとは思わない。

 そうしたいと言うなら、別に俺が彼…ガラに死んでほしいと思わない限りは、平穏な解決となるわけだし、ここは口を挟まないでおこう。


 それにしても、さっきも少し思ったが自分の職業はなんなんだ?

 貴族だか冒険者だか、いい加減にはっきりさせておきたい。

 そう思い自分の職業についてどうやって調べるか確認しようとしたところ、職業について思い浮かべただけで直ぐに判明した、特技や魔法が頭の中に湧き出てくるような感覚で職業もわかるみたいだな。

 職業は、無職。

 え、無職?いや、確かに、職に就いているわけがない、思えば一度死んでるし、それに異世界で職業が会社員とかだったらソレはソレでどうしたら良いんだって感じだ。


 しかし無職…無職か…無職とは言いづらいし、適当にごまかそう…。

 そういえばあのジャンボカカシが、俺のことをこう呼んでたな。


「俺は貴族ではなくて、えっと…多分、旅人だと思います」


「旅人…なるほど、旅人か」


 えっ、納得されてしまったぞ…旅人っていう職業もあったのか…。


「しかし、なるほど、旅人であるならあのような技も体得していることもあろう。

 この辺では憶えのない技だったし、どこか遠くから来られたというわけか。

 それならば、もしやこの森には、なにかの事故で意図せずたどり着いてしまったということだろうか?

 竜騎か飛行艇の墜落か…このあたりは年中曇天で、いつでも雷鎚が轟く…そうと知らずに空を往こうとする者は、ほぼ確実に雷鎚の餌食となる。

 この地域のものなら当たり前に知っていることだが、なにぶん山に囲まれたこの森のことを詳しく知るというのは、山の外では冒険者程度だろう。

 旅人であるなら、むしろ耳に入れることが叶わなかったのではなかろうか…」


 雷鎚…少し濁った雲だったけど、やはりあれは雷雲なのか。

 つくづく運が良かった、雲に届きそうな高さまで飛び上がっておきながら、その雷鎚とやらには襲われなかったのだから。

 本当に、ギリギリのギリギリで生還したということらしい、嫌な事実が発覚するごとに嫌な汗をかく。


 そして、飛行艇の墜落事故か…。

 竜騎というのはなんだろう、まさかと思うが竜に乗るってことか?

 どちらにせよ、そういう方法でこの森に不時着することがあるようだ。

 転生しました!などとは、言わないほうが良い気がするし、事故で記憶があやふやになったとでも言えば知識の面はごまかせそうだ。


 しばらくはソレを言い訳にして、この世界のことについて色々聞いておいたほうが良いだろう。

 そんな事を考えているうちに、巨大鳥の肉は美味しそうに焼き上がったようだ。

 ガラを筆頭に、イズ、ギナの三人が串を手に取る。

 三人は再び俺に礼を言うと、最初は一口かじり、次には涙をぼろぼろこぼしながら目の前の肉に貪りついた。

 本当に切羽詰まっていたというのが伝わってくる。


 食べ終えたら、まずは彼らの事情を聞くことにしよう。

 別にそれで俺になにか得があるかと言うと、そんなものはないと思う。

 でも、話せばわかりあえる相手だ、ソレを失うというのはこの深い森の中では避けるべきだと思う。

 なにより、俺は彼らの助けになってやりたいと、何となくそう思っているのも理由にあった。


 あのジャンボカカシからはやりたいようにやっていいと、そう言われたはずだ。

 別にこの世界でどうやって生きようかなど、目的や理由なんかは全然決まっていない。

 むしろ勝手に飛ばされて、勝手に生きろと言われて、困惑しっぱなしだ。

 あてもなくさまようくらいなら、とりあえず眼前のことを気にしても良いはずだ。


 右も左もわからぬ世界で、俺はとりあえず、この世界でどう生きるか決めなければならないのだから。




◆キャラクター紹介

『月影森のイズ』

コボルトの戦士。

戦士になってからは年月がまだ浅く、成熟したてと言ったところ。

まだまだ成長の余地があることや、すでにかなりの実力を有していることから、先輩でもあり大戦士であるガラは特に気にかけているようだ。

少し優柔不断なところが玉に瑕で、次期族長としての自分、一人の戦士として自分、一匹のオスとしての自分、それぞれの立場に苛まれて判断に迷ってしまうこともしばしば…。

苦労性である分ガッツは凄まじく、そのおかげか地道な特訓や技の研鑽には、大戦士ガラを除けば誰よりも時間を費やしている。

ガラの持つたくさんの知識も少しずつ受け継いでおり、ガラよりも偉大な大戦士となるのも夢ではないだろう。

今回の件で、いっそうガラを越えようという強い志を抱くようになり、優柔不断も少しずつ改善されていくようだが、それはまだ先の話。

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