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与えられた力(1)

最強主人公の受難の始まりです。

ポロリもあります。


■登場人物

但野(タダノ) (ヒロシ)

自分の死をきっかけに、謎の存在から正体不明の力を授けられた人間の男。

あまり運が良い方ではない


『月影森のガラ』

日が照らすことのない暗黒の森、「月影森」で暮らすコボルトの男。

並のコボルトの倍以上の体格を持ち、力強い眼光と巨大な両拳が特に目立つ。


『月影森のイズ』

日が照らすことのない暗黒の森、「月影森」で暮らすコボルトの男。

人間の成人男性ほどの体躯で、その立ち振舞にはどこか気品を感じる。

・・・・・・・・・・


 ジリジリと、皮膚に熱が伝わる。

 それは夏の日差しの暑さではない、もっとダイレクトにジリジリと熱い。

 具体的に言うなら、俺は今、めちゃくちゃ燃え上がってる炎に炙られているのだ。


『✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕』

『✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕』


 二足歩行する犬みたいな奴らがなにか言ってる。

 何を言っているのかは全くわからないが、少なくともこの状況が改善するわけではないだろう。


「あぁ…理不尽だ…」


 ここに至るまでに、もう何度思ったかわからない言葉を、なんともなしに呟いた。


・・・・・・・・・・


 時は少し遡り、転生直後。


 一瞬意識を失った俺は、次に目を開くと全く見覚えのない景色の中にいた。

 生い茂る背の高い草と、視界を埋め尽くすほどの大木が立ち並ぶ。

 空が見えないほど隙間なく埋め尽くされた木々の葉が、不気味な暗闇を作り出している。

 なんでそんなものが日の差さない暗闇で見えているのかと言うと、光源が近くにあったからだ。

 見れば一発でここが普通の世界じゃないとわかるほど、巨大で蛍光グリーンに発光するキノコや、水そのものがほのかに青白く発光する小さな池、その池の周りに小さな花弁が淡い白色に発光する鈴蘭のような花…など、それらがそこら中に生えているからこそ、どんな場所だかは見てわかった。


 多少驚きはしたが、それらはとにかく幻想的で綺麗だ、生前の趣味で廃墟探索に行ったこともあったけど、アレと似たような感動が胸に湧く。

 感動はするが、結局は俺の胸の内を満たすことはなかったがな。


 しばしばその景色に見とれていると、近くで生い茂る草を無理に動かしたようなガサリという音がした。

 そういえば、ここは見るからに森の中だけど、なにか危険な獣がいたらどうすれば…そう思って音のする方に振り返る。

 そこには二足歩行する犬のような生き物がいた。


「………あ、あの」

『✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕』


 ヤバイ、なにか言ってる。しかし、なんて言っているのかは全然わからない。

 二足歩行する犬のような生き物は、明らかにその手に武器を持っている、原始的だが石器の槍だ。

 対してこちらはほとんど丸腰…しかもこれ、死んだときと同じ服装じゃないか…。

 革靴・ネクタイ・スーツという社畜三種の神器を装備して、相対するは獣の皮で作ったような簡素な服と石器槍、まるで陳腐な恐怖映画のような絵面になった。


『✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕』

『✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕』


 …ヤバイ、そうこうしているうちにもう一匹増えた、しかもめっちゃこっちを見てる。

 言葉はわからないけど、とりあえずは敵意がないことは示しておいたほうがいいかもしれない…。

 両手でも上げれば大丈夫だろうか?武器は持ってないし、持っていても取り出すこともないよ!…というアピールになるだろう。


 だが、俺はその行動の直後に自分が判断を誤ったと理解した。

 俺が静かに両手を上げたところで、二足歩行する犬のような生き物たちは半歩身を引き、槍を構えてきた。

 おそらくだが戦いの合図だと判断したようだ、まずい、マジでヤバイ、違う違うと首を横に大きく振るが、その意味が相手に伝わることはなく…さらにはすぐさま背中から強い衝撃を受けた、背後にも仲間がいたのだ、その仲間がタックルをかましてきたのだろう。

 俺はそのままうつ伏せに地面に沈み、三人掛かりで組み伏せられた。


 おそらく年中暗闇の森なのだろう、地面はベチャベチャで、スーツは上から下まで完全に泥だらけ…あぁ、こんな世界にクリーニングなんてないだろうな…と、現実逃避のごとくのんきなことを考えてしまった。


 そして、時は戻って火炙りの真っ只中。

 もうおわかりだろう、俺はコイツらの食事として無事に認定されたわけだ。

 服は脱がされ全裸にされ、その状態で丸太に縄でくくられている。

 直接火が当てられているわけではないが、火炙りによる死因は熱ではなく呼吸困難や衰弱死がメインだ。

 煙で肺が潰れるし、そもそも酸素が薄くなるせいで呼吸が殆どできなくなるだろう。

 直火じゃないだけマシとは言え、轟々と燃え盛る炎は確実に俺の体力を奪っていく…。


 俺は二度目の人生でもうすぐ死ぬ。

 短い生だったが、それでもいいと思っている。


 元々望んで転生したわけではない、好きに生きていいと言われているが、こんな訳のわからない世界で好きもなにもない。

 生前に自分にできる範囲のことであらゆることを趣味としてやり潰してきた、そのどれにも満足できず、どれほど研鑽しようとも無為を感じ、つまらない毎日を過ごすだけだった俺に「好きに生きろ」というのは、結局の所「何をしても無駄だけど」という前置きがつく。

 そんな味気ない生にしがみつく程の未練は、俺には少しも残っていないのだ。


「あぁ、でも…せめて痛いとか苦しいとか、そういうのとは無縁な方法で死にたかった…」


 …というのは、いくらなんでも諦め過ぎか。

 生きていても意味がないとわかっていたのに、それでも俺は社畜として生きていた。

 それは少なからず、俺がいつか満足感を得られるなにかに出会えるんじゃないかという儚い希望もあったからこそのはずだ、そうでなければわざわざ激務に追われて働くなんて選択を取らずに、なにもせず自堕落に野垂れ死んでいればいいし、俺がそういうたぐいの希望を抱いていたことを否定したりはしない。

 なにより、一度目の俺の死因は突然死だ、これも別に望んで死んだわけじゃない、ある意味理不尽そのものに殺されたみたいなものだ。

 そして今の状況もまさしく理不尽に殺されているような状況だ、二度目までもそんな死に方をするなんて思うと、流石にムカついてきた。


 まだこの世界がどんなものなのかも知らずに死ぬのも、そう考えるとちょっともったいないかもな。

 そう考えてから、ふと「貸し与える」と言っていた力のことを思い出した、あのジャンボカカシの権能だかなんだかの力だ。

 なんだか思うままに自由に使えとか言われていた気もするが、そもそも使い方が…いや、()()()

 なんだ、頭の中に使い方が湧いてくる。

 だが…多い、多すぎる。漠然と自分にできる技術や魔法?の名前が次々と頭の中に溢れてくるし、使い方もなぜか分かるが、なんだか漠然としたことしかわからない。炎の魔法とか、星の魔法とか、槍を投げる攻撃とか、足が早くなる特技とか…。


 あ、[縄抜け]がある。効果も縛られている状況で使うものみたいだし、まさしく今使えるんじゃないか?使い方…は、念じればいいのか?それとも[縄抜け]の特技を使えるなら、実は縄抜けの仕方がわかるようになっているとか…あ、そうっぽい、縄抜けの仕方が()()()

 スルリ。と、縄が手から抜けた。

 縄抜けをしようとすると、体が動かし方をわかっている感じだ。


 犬っぽい奴らは…そういえば、幼い頃に少しだけ遊んだことがあるゲームでは敵の情報を調べる魔法みたいなものがあったはずだ、こっちでそういう魔法や特技は…お、なんだこれ、[神眼]?

 効果は、情報吸収…って、どういう意味だ?これは[縄抜け]と違って、発動条件があるのがわかる。

 相手を視界に捉えて、[神眼]を使うことを意識する…だけか?

 [鑑定眼]という特技もあるみたいだけど、こっちは情報解析を行うらしい、[神眼]という仰々しい名前と微妙に嫌な予感がする効果も気になるが、今使うなら名前も相まってわかりやすい効果をしている[鑑定眼]でいいだろう。

 使い方は[神眼]と同じだ、とりあえず手前の犬っぽいやつに使おう。


 [鑑定眼]を使うと、一瞬でその効果を理解した。

 コボルトという種族の戦士、名前は「月影森のイズ」といい、扱う言語まで理解できるようになった。

 「ズーラ語」という言語らしい。しかも、今になって何故かその言語を理解できる。

 つい先程までは間違いなく「ズーラ語」なんてものは知らなかった、だが実は何を話していいかわからなかっただけで、この世界の言語そのものは習得済みということなのだろうか…?


 いや、そんなはずはない、さっきはコボルトたちが何を話しているかわからなかったが、今はあの二人の会話をきちんと理解できる。

 だが[鑑定眼]のいう情報解析というのは、確かめてみないとはっきりとわからないが、別に言語を習得できる技能というわけではない気がする…他になにか特別な技能が勝手に働いた可能性が高い。

 [縄抜け]と同じく「縄抜けをしたい」と意識することで体が動き方を理解したように、「その言語を知りたい」と理解したときに自動でその言語についていつの間にか理解したような、そんな感覚だ。


 情報が湧き上がり続ける自分の頭の中を探ると、それっぽいのがあった。

 [言語理解]だ、少ない情報から未知の言語を完全に理解する事ができるようになる特技らしい、おそらく先程まで聞いていた少ない会話や、どんな言語で話しているのかを[鑑定眼]で理解したことで、やっとコボルトの扱う言語を習得したということか。


 いろいろと思考を巡らせていると、コボルトの会話が耳に入ってきた。

 今度は何を話しているのかわかる。


「なぁ、絶対にやばいって、いくらなんでも人間の肉って…」


「でも、俺達が生きるにはもうこれしか無い…狩りをするにも体力が残り少ない…少しでも体力を取り戻して、次こそ大物を狩らなければ間もなく全滅だぞ」


「そりゃ、わかってるけど…ギナだって人間は食べたらまずいとわかってるからこそ、一人でも狩りに出ていったんだ、やはり俺達もソレに続くべきだと思う」


「イズ…ギナは焦りすぎだ、俺達の残りの体力は、すでに連携してやっと一匹の獲物を狩れるかどうかといったところなんだぞ、狩りに出たところで獲物が取れなければ体力を消耗しただけで終わる…皆、もう体力が残り少ない、長く狩りを続けることができないとさらに獲物が捕獲できるかどうかわからなくなる…今は体力を取り戻すべきだ、わかってくれ、イズ…」


「ガラ…だが、ギナのことはやはり心配だ、人間を食うことは…ギナを連れ戻してから、もう一度話し合わないか?

 そのためにも、俺はいったんギナを連れ戻してくる、狩りに出始めたばかりだから、今ならすぐに連れ戻せるはずだ」


「………わかった、俺はここで火の番をしよう。

 ギナのこと、必ず生きて連れて返ってくれ、お前も無事で戻ってくるんだぞ」


「あぁ、戦士の誇りにかけて連れ戻そう」


 どうやらコボルトたちは出会った当初から危機的状況の中にあったようだ。

 「人間はまずい」っていうのは、食べることがまずいのか、味がまずいのかによって意味が異なるだろうが、どちらにせよ今すぐ食べる意志は無いようだ。

 今なら会話ができるだろうし、うまく行けば生き延びることができるかもしれない。


 コボルトの戦士、イズと呼ばれたほうが森の中へ消えていった。

 タイミングを見計らって足の方も縄抜けし、自由の身となったところで残った方のコボルトの戦士…ガラに声をかけた。


「あの、はじめまして。

 言葉がわかりますか?」


「は?…な、なんだと!?どうやって縄を、貴様!!」


 コボルトの戦士・ガラは携えていた石器槍を構えてこちらに向けた。

 だが今度は会話ができる、戦う意志がないことをまずは伝えてみよう。


「待ってください!戦う意志は無いです!お願いです、話を聞いてください!

 もし会話がか叶わないなら、こっちはこの焚き火の火を森に撒いたっていいんですよ!」


 とっさに脅してしまったが、逆に相手を興奮させてしまうかもしれない、こういう局面では落ち着きが大事だ、ちょっと焦りすぎてしまったな…。


 だが、目の前のコボルトには実に効果てきめんだったようだ、驚いたような顔をして、ついにはやりを収めてくれた。


「…わかった、話を聞こう。

 だが、もし火を撒こうとするなら、そのときは容赦なく殺す」


「話ができるなら撒かない、槍を足元においてくれるなら、俺も焚き火から離れる。

 頼む、本当に話がしたいんだ」


「………槍を置こう」


 コボルトの戦士・ガラは槍を足元に置き、そのままこちらを見据えた。

 その眼は「早く焚き火から離れろ」と暗に訴えてくる。

 約束は守るべきだ、こちらも焚き火から三歩離れた。


「驚いたな、本当に離れるとは」


 次の瞬間には、ガラはドンッと跳ね上がり、勢いよくこちらに切迫していた。

 両手には鋭い爪、頭は犬なのだから当然牙も武器にできるだろう。

 対してこちらは全裸で、丸腰…「しまった」と思うにはあまりにも遅すぎた。


 爪はもうすぐそこだ、冷静になれ、特技か、魔法だ。

 何かできるはずだ、俺には何ができるんだ…?

 クソ!使い方くらいやっぱり教えてくれても良かったんじゃないか!?

 焦るな、落ち着け、攻撃はまずい、話がしたいんだ、爪がもうすぐそこだ、ヤバイ。

 [堅牢]、これはなんだ?使えるのか?迷ってられない、とりあえず使ってみるしか無い。


 [堅牢]と意識する。

 ほぼ同時に、ガラの爪が俺の体に到達する。

 全力で叩きつけられた爪撃は、その勢いのままに俺の体を宙へ押し出した。

 ゴロゴロと地面を転がり、今度こそ死んだかと思ったところで、自分の体が全くの無事であったことに気づいた。

 成功したっぽい…[堅牢]、確率で敵の攻撃を無力化する…確率!?

 危ない、これは本当に運が良かっただけだ。


 待て、まだ戦闘は終わってない、ドンッという跳ね上がる音が聞こえた、次の攻撃が来ているはずだ。

 [堅牢]じゃ駄目だ、それに[縄抜け]と違って使ったときに使ったとわかるような感覚はなかった、おそらく[言語理解]と同じような常時発動型の特技だったんだ。

 他になにかないか…そういえば、跳ね上がる?というのに似たようなやつがあったはずだ…。

 …これは、[超跳躍]?瞬時に凄まじい脚力で直線的に移動する特技、試してみるしか無い。

 森の中で横に飛ぶのはまずい、遮蔽物が多いし直線移動なら必ずどこかにぶつかるだろう。

 横移動ではあの瞬発力じゃ結局いつかは追いつかれてしまうだろうし、今は上に飛ぶ以外に思いつかない…どれほど飛ぶかはわからないが、ええいままよ!


 [超跳躍]を使おうと意識した、今度は使い方がわかる、全身がバネとなり、倒れた姿勢から両腕の力で倒立し…え、両腕の力で倒立して、全身をバネに…跳ね上がった。


 ドッッッッッッッッッ


 遠く、遠く、遥か下に、俺がいたのであろう「月影森」とやらが広がっている。

 あぁ、広大な森だ、そんな中で俺は、フルチンで垂直落下して死ぬのか。


「フ、フフフハハハハハ…」


 もうこの状況に理解が追いつけないとか、そういう次元をこえてしまって、もう笑うしか無いと脳が判断したのか、大空を逆立ちの姿勢で弾丸のように飛び上がりながら、俺は勝手に笑いが溢れた。




◆キャラクター紹介

『月影森のガラ』

コボルトの戦士。

通常のコボルトは山賊の職業なのだが、勇敢で逞しく、一匹でもグループを纏め上げるに足りる存在は戦士となり、「ハイコボルト」と呼ばれるようになる。ハイコボルトでも種族的にはコボルトのままだが。

冷静な判断力と大胆な行動力により、どんなコボルトでも一目を置く切れ者。

コボルトは弱いというイメージをもたれやすいが、戦い方を理解しているコボルトだとそもそも種族的スペックがスピード系の戦士に偏っているため、相乗効果で劇的に強くなる。

ガラはコボルトという種族の中では特に頭がよく合理的だ、人間を食べることを忌避される理由は、種族的に人間の病気にはコボルトも感染しやすく、食べることでその病気が移されてしまう危険性があるためであるが、そのことをほとんどのコボルトは理解していない。

「食べると災によって全滅する」と考えられているが、ガラはそれがコボルトのグループ全体に病魔が移ったことだと理解し、健康な人間の肉なら問題ないはずだと判断して「今回は人間を食べよう」と決断したようだ。

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