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侵略者

これで月影森編の半分が過ぎたところです。


投稿更新が一切なかった一週間の間、毎日誰かがこの小説を閲覧しに来てくれていたみたいです。

ありがたいことですが、なにぶん仕事と私生活優先で動いているため、どうしても不定期更新となってしまい更新頻度はそれに応じて低下してしまいます。

せめて「月影森編」の主人公置いてけぼり状態をなんとかしておきたいですが、もう少しこの世界から置いてけぼり状態が続いてしまいます。



今回の話の中で言えることは…

どの考え方も正しいと思う。

でも誰もが間違ってるよね。



■登場人物

但野(タダノ) (ヒロシ)

自分の死をきっかけに、謎の存在から正体不明の力を授けられた人間の男。

自分の望む在り方とそれに伴う恐怖に思い悩み苦しみながら、それでも"望む在り方"に手を伸ばす。


『月影森のガラ』

日が照らすことのない暗黒の森、「月影森」で暮らすコボルトの男。

コボルトたちの中では誰よりも正確に未来を見据えて動く、月影森の偉大なる戦士。


『月影森のギナ』

日が照らすことのない暗黒の森、「月影森」で暮らすコボルトの男。

人間に自分の群れを滅ぼされた過去を持つため、人間に対しては激しい不信感を抱いている。


『黒狼の少女/月影森のザイラ』

黒く長い髪を乱暴に一つに束ねている、美しく逞しい人狼の少女。

憤怒と憎悪の塊、言動も行動も極めて攻撃的で、並の戦士では手を付けられないほどに強い。

 怪物の下半身が粉々に砕け散り、石と砂の雨となってバラバラと地面に降り注いでいく。

 チラと目線を送ると、腰部分の崩壊にあわせて反対側の足も自壊してくれたらしい…[観察眼]は対象を捉えてさえいれば割と正確にその状況を捉えることもできるらしく、こういう切迫した状況ではその効果の恩恵を存分に感じることができる。

 しかしまだ、怪物の上半身部分が残っている。

 足の崩壊が本体と切り離されてしまったことによるものだとしたら、本体を打ち砕けば他の部位はなんとかなるかもしれない…だが、そうはいかない、片足を失ったときにこの怪物の重心はすっかり傾いてしまったらしく、そのまま横方向に倒れようとしている。


 このまま倒れようとすれば、次に地面に着地しようとしているのは、その片腕になる。

 次は腕を砕くしか無い…それがわかったとしても、普通に走っただけでは怪物の片腕が地面に着地してしまう前に間に合わず、確実に森の中にその胴体ごと沈んでいくだろう。

 間に合わせるためにも走る速度を強化する特技を探したい、だがそんなものを探している時間すら惜しい。

 今の俺が間違いなく使用できる特技で、物凄い速さで移動できる特技なんて…いや、一つだけ、俺がすでに使ったことがあるもので、間違いなく直線距離を弾丸のような速度で移動できる特技があるじゃないか。


 [超跳躍]…それを使おうと意識すると、両脚に力が込められていき、筋肉がギチギチと軋みを上げる…ほんの一瞬の間に、下半身すべてがまるで一つの強靭なバネにでもなった様子だった。

 両脚の力ではどれほどまで跳ぶのか予想はできないが、今回は着地点が存在する…着地というよりは直撃というべきだろうが、怪物の腕が森の中に突っ込む前にたどり着いて破壊しようと思うのなら、もはや[血肉の鎧]の防御力を信じて突っ込むしか無い。

 怪物の片足を砕いたことでポッカリとくり抜かれた森の天幕の切れ間から、目標の肩の部位を目掛けて跳び移るために両脚に込められた力を解き放つ。


 ドッッッッッッッッッ ズンッッッッッッッッッ


 ぬかるむ地面をものともせず、文字通り弾丸のように、一直線に目標の地点へ目掛けて跳んでいく。

 そして見事に狙いであった怪物の肩の部位に着地できた…できたというより、頭から突っ込んで直撃したという状態だが。

 着地の衝撃で全身ぺちゃんこのミンチになる未来も想像していたが、なんとか上手くいったようだ。

 これは、かなりの防御力だ…[血肉の鎧]を使用していれば、[超跳躍]の着地の衝撃に耐えきることができる…憶えておこう。

 しかし、[超跳躍]の着地による衝撃に俺自身は耐えることができたものの、怪物の肩の部位は耐えることができなかったらしい、そのまま肩部は胴体との繋ぎ目といえる部分が砕けて外れてしまい、本体から切り離される形となってしまった。

 [超跳躍]からの突撃による予想外の破壊力に驚きはしたが、これは嬉しい誤算だ。

 使用時の体力の消耗が激しい[部位破壊]を使用することなく本体から切り離すことができたなら、あとはこれも足の部位と同じく自壊して石と砂になってくれるだろう。

 何よりも[部位破壊]を使わなくても無力化できるというのは、残り体力が限界に近かった俺にとっての一筋の光明だった。

 

 これなら行ける。そう思い、もう一度[超跳躍]を使用して次は胴体へ跳び移ろうとする…だが、弾丸のような速度で移動するどころか、全く移動することはなかった。

 焦りながらもなんとかもう一度[超跳躍]で飛び付きを試みようとするが、それも上手くいかない…慌てて足の方へ目を向けると、いつのまにか本体から切り離した腕部が自壊を始めて空中で石と砂になってしまっており、もはや足場として機能しておらず踏ん張りが効かない状態となっていた、これではいくら蹴りつけても石と砂を吹き飛ばすだけとなってしまう。

 結局、踏みつけた両脚は宙空に舞う砂粒と空気を蹴りつけ、ほんの少し前進するだけに留まる。


 もう少しなのに、届かない。

 どうする、ほんの少しずつでも[超跳躍]で繰り返し空中を蹴り抜いて前に進めるか試すか?

 しかし、この進み具合では移動している間に残っている巨岩が地面に着地してしまう、実行するにしても移動力があまりにも足りていない。

 残りの体力も少ない、他に使える特技を探す時間もない、[チャクラ]で体力を回復したとしても、今の高さではおそらく回復している最中に着地してしまう…。

 あと少し、せめて怪物の胴体を砕くことさえできれば、他の部位は自壊してくれるかもしれないというのに…あと少しなのに…!

 考えろ、俺にできる最善の方法を、俺にできることは…この手があの怪物に届く方法は…


『おい!!なにをもたついてるんだ、あほ人間!!』


 打つ手のないまま思考だけを巡らせていた俺の真下から、怒声にも似た声が放たれた。

 その声の方へ視線を落とすと、あの黒狼の少女…ザイラが黒狼の姿となって、自壊して石と砂の集まりとなってしまっているはずの怪物の腕を足場にしながら、こちらへ向かってほぼ垂直に走ってきていた。

 どうやって石と砂の集まりとしか言えないこの足場をものともせず駆け上がってるというのだろうか…しかし現にこうして残りの巨岩が落下する速度の何倍もの速さで駆け抜けて、そのまま空中に身を投げだしている状態の俺の元までたどり着いてしまった。


『あほ人間、あとは届かないだけか!!』


「は…何…!?」


『早く答えろ!! もう逃げるしか無いのか、それともまだアレに手が届けばどうにかできるのかって聞いてるんだ!!』


「で…できる!! あとは届くだけで、届きさえすれば!!」


『よし…これで貸し借りは無しだ、掴まれあほ人間!! …もし失敗したら今度こそ殺すからな!!』


 どうして今ここにあの黒狼の少女が現れたのかはわからない、だが今はそれを考える必要はない、俺は黒狼の背中に急いでしがみつく。

 黒狼の足元には黒い炎のように見えるものがぼうぼうと噴き上がっており、その黒い吹き溜まりを蹴り抜いて一気に空中を駆け出した、黒狼の足から離れた黒い吹き溜まりはすぐに空中に霧散して掻き消えてしまうが、そのはまた後すぐに黒狼の足元に黒い吹き溜まりが噴き上がる。

 おそらく、これもなにかの特技の力なのだろう…実際には脆く崩れやすい石と砂の塊と化したものを足場とせずに、この黒い吹き溜まりのような何かを足場の代わりとすることで、空中でも全力で駆け抜けることを可能としているのだと見てわかる。

 …これがあれば、もしも俺にもこういう特技を使用できることをきちんと理解できていたら、こんな中途半端にならずに、焦らずに怪物の身体を駆け上がりながら[部位破壊]を使って回れたかもしれない。

 やはり、どの特技がどのような効果を発揮するのかを色々と確認しなければ…だが、それについては後で考えればいい。

 もはや巨岩の落下までもう一瞬たりとも時間は余っていない、俺の体力も残りわずか…あと二発も[部位破壊]が使えるとは思えない…決めるとするなら、これが正真正銘たった一度の絶好の機会だ。


 この拳が届く距離に近づいたその時、俺はあの怪物を砕く以外にはない。

 せっかく掴んだチャンスを、みすみす逃したりはしない。

 決意を固めて巨岩の怪物を睨み、拳を握る。


『いっけええええええええええっ!!!!』

「うおおおおおおおおおおおおっ!!!!」


 その巨岩の胴体へ[部位破壊]を放つべく、拳へ力を込める。

 殴るべきポイントは進行方向にそのまま、まっすぐ。

 あとは拳を打ち付けるだけ。


 ドスッ


 だったというのに、それなのに、なぜ。


『ガッ…』


「おわっ!?」


 二人は何かの衝撃を受けて、空中でバランスを崩してしまった。

 打ち出そうとしていた拳は軌道をそれてしまい、巨岩の急所を打ち抜くことが叶わなかった。

 それどころか、拳を打ち付けようとしていた速度をそのままに巨岩の胴体に全身を打ちつけられ、その衝撃で黒狼の背中からも身を投げだしてしまい、またしても空中に放り出される形となった。

 何が起こったんだ…俺自身はなんともなかった、衝撃を受けたというのも、どちらかと言えば黒狼の方だったのだと感じる。

 いったい何が…そう思い、黒狼の方に目を向ける。

 槍だ、黒狼の胴体には、身体を貫通するほど深々と突き刺さる槍があった。

 この槍は、間違いなくコボルトの戦士たちが持っていたものだ。


 どういうことだ、なぜ、なぜなんだ…

 俺は…俺は、コボルトたちを助けたくて…


 そして、巨岩の落下に巻き込まれる形で…俺と黒狼は、そのまま深い森の中に轟音とともに沈んでいった。


・・・・・・・・・・


 森の中から現れたのは、あのとき確かに逃げるように促したはずの、あのヒロシ殿だった。

 俺とギナに襲いかかろうとしていた周りの人間達も、ヒロシ殿が近づいてくるに連れて徐々にその場から離れていく…明らかに、ヒロシ殿の到来とともに逃げ出すように散っていっている様子だった。

 目を疑うような光景ではあったが、ヒロシ殿は間違いなく人間たちを蹴散らしながら現れ、それによって俺達に襲いかかろうとしている人間たちはその場から姿を消していく…それはつまり、ヒロシ殿は人間たちの敵として…もしかすると、俺達コボルトの味方として、人間でありながらこの場に現れたということだ。


「ギナ、ヒロシ殿だ…ヒロシ殿が、人間たちを倒し、この場にやってきた!」


「なにっ…?」


「見ろ! 人間たちが、ヒロシ殿に蹴散らされて、続々と逃げ出していく!」


「なんだ…どういうことだ、まさかアイツは人間じゃなかったのか…!?」


「わからん、俺の目にはヒロシ殿は人間のように見えている…だが、そうだとしてもきっと、俺達の加勢に来てくれたんだ!」


「……」


 だが、そう思ったのも束の間だった。

 巨大な地鳴りがヒロシ殿の立っているすぐ近くから響きを上げた。

 ヒロシ殿の真後ろに近い場所に、その地鳴りの主…巨大な岩石が突如として森の大木どもを押し潰しながら現れたのだ。

 巨岩の到来に合わせて、そこかしこの森の中から人間たちの叫声が上がるが、その言葉が何を意味するものなのかは俺には理解できない。

 しかし、その声に含まれる焦りのようなものは感じ取ることができる…ただの勘でしか無いが、おそらくこの場にいる人間たちにとってもあの巨岩の到来は意図していなかったものなのだろう。


「ガラ…アレはなんだ?」


「わからん…だが、人間たちもアレに対して焦りのようなものを見せている気がする。

 どうやってアレほどの巨岩をこの森に投げ込んできたのかは不明だが、アレはどの味方でもないだろう、おそらくは俺達にとっても敵となる物のはずだ…」


 様子をうかがっていると、すぐに信じられないことが起こった。

 どれほど大きいのかもわからないほどの巨岩が宙に浮き、まるで意思を持っているかのようにヒロシ殿を押しつぶそうと前進し、大木を薙ぎ倒しながら再度地面に着地した。

 方法は不明だがその巨岩は投石によって現れた物なのかと思っていたが、そうではない…この光景を正しく解釈するならば、あの巨岩そのものが意思を持ってこの場に現れたということだ。

 ヒロシ殿が危ない…役に立てるかわからないが、俺も加勢せねば。


「ギナ、俺はヒロシ殿に加勢する!

 イズとガジとザイラのことを頼む!」


「待つんだガラ!!」


「むっ…どうした?」


「ガラ、あの人間は放っておこう」


「なっ、なんだと!?」


「落ち着け…冷静になれ、ガジはすぐ近くにいるだろうからまだいいが、イズとザイラは行方がわからないままだ。

 ガラ…お前は今、たとえ口では命を捧げると誓ったであろう人間であっても、その人間と俺達コボルトの族長を比べて、人間を選ぶと言うつもりなのか?

 そうじゃないはずだ…俺達にとっては新たに族長となったイズこそが絶対に死守しなければならない存在だ、今は人間に構っている暇はない」


「ヒロシ殿のおかげで人間たちの攻勢は既に失われている、ならばイズとザイラの発見も、俺がいなくてもなんとかなるはずだ。

 ギナ、イズや群れのことはお前たちに任せると言ったはずだ、俺はヒロシ殿の加勢に向かわなければ…」


「…ガラ、いい加減に目を覚ませ!!

 あれは…あれは人間だぞ!!」


「なっ…」


「人間だ…人間なんだよ!!

 俺達をここまで苦しめた、人間なんだ!!

 たとえそいつが悪いやつじゃないと言うのだとしても、そいつはここまで人間たちを一人で蹴散らしてきた凄い人間なんだろ!!

 人間たちが俺達コボルトに対しての攻勢を弱めたというのなら、だったらなおさら俺達があの人間に加勢なんてする必要はない!!

 人間が俺達とは関係のない理由で争ってくれているというなら、それでいいだろうが!!

 今俺達がやらなきゃならないことは、イズの安全を確保して、群れのみんなの無事を確かめることだ!!

 そうだろう、ガラ…!!」


「だ、だが…」


「…ガラ、お前はコボルトと人間、どちらの未来を取るっていうんだ。

 まさか、お前は…人間たちのように、俺達を滅ぼそうとでも言うつもりなのか?」


 …ギナは、元は別のコボルトの群れで生きていた者だ。

 今でこそこうして俺達の群れに加わっているが、人間たちに自分の群れを滅ぼされることさえなければ、今も本来いるべきだった群れの中で生活していたはずだろう。

 そう…ギナの群れは一度、人間の手によって滅ぼされてしまっている。

 人間への理解を示そうとするイズがいる手前ではその感情を顕にすることは滅多にないが、内に秘めた憎しみの炎はザイラに勝るとも劣らないほどのはずだ。


「…いいや、俺が間違っていた。

 ヒロシ殿にはあの苦境を自力で切り抜けるほどの力があると信じよう…俺達はまず、ここにはいないイズとザイラを見つけ出し、散り散りに逃げ出した群れの連中を探し出し、皆の無事を確認することだ。

 すまない、ギナ…お前のおかげで目が覚めた」


「…ガラ、俺はガラならわかってくれていると思っていた、だがこの際だからはっきりさせておこう。

 群れの連中は、人間たちへ理解を示そうとするイズとガラのことを、心の奥底では不安に思っているんだ。

 ガラはそのことに気を使ってくれていると思っていたが、さっきのようなことを群れの連中の前で言うようなことだけは絶対にしないでくれ。

 …本当はお前にだってわかっているはずだ、俺達と人間はわかり合うことなんてできないんだ。

 古き時代の頃には手を取り合って生きていたのかもしれないが、今はもはや手を取り合うどころじゃない…生存圏をかけての殺し合いをしているんだよ。

 あの人間は、確かに俺達に食料を分け与えてくれた…だがそれだけだ。

 偶然俺達が困窮したタイミングに現れて、偶然俺達が探していた獲物を仕留めてきて、偶然ただ一度だけ食料を分け与えただけだ。

 そんなことで、たったそれだけのことで、俺達の受けた恐怖が…奪われ続けてきた生存圏や仲間たちの命が、踏みにじられた誇りが、無かったことになるはずがないんだよ。

 あの人間は、もう俺達の群れに関わらせるべきじゃない…ここですっぱりと忘れるべきだ」


「……」


 ギナの言っていることに間違いはない、俺達は人間たちからひたすらに侵略を受け続けている状況だ。

 今の俺達の群れが拠点を築いているこの周辺では、地理的にろくな獲物を狙うことはできない。

 飲水として使うことができるような水源からはかなり遠い位置にあるため、多くの者はこの周辺に住み着くことがないのだ。

 水そのものはあるが、その殆どはただ雨水などが窪地に溜まっただけの泥水のようなもの…それでも、俺達はそれを飲水として使うしかなかった。

 いつから溜まっていたのかわからないような、その水底に何が溜まっているのかもわからないような、そんな水を口に含みながらもなんとか命をつないできた。

 それに、水が確保できるなら野菜や果実を育てるという選択だってあった、この森の中では腹の足しにもなるかわからないような小さな実のなる草しか育てられないだろうが、それでも食い繋げるならと皆で協力して農作に力を注いだこともあった。

 だが、結局そんな水では野菜や果実を育てることなどできなかった、その水は草土を腐らせてしまうような毒水だったのだ…そんな水を飲み続けるということは、たとえ命を繋ぐことができたのだとしても、生きながらにして骨肉を腐らせていくようなものでしかなかった。


 それからは、たった数年で俺達の群れはボロボロに疲弊してしまっていた。

 病魔に苦しみ、飢えに苦しみ、人間たちの恐怖に苦しみ…それでも俺達は生きた、誰もが生きることを諦めなかったからこそ、今までなんとか群れとして保つことができていた…。

 だが、それではダメなんだ。

 俺達は、今のままで生きているだけでは人間たちに蹂躙されるしか無い…それではいつか必ず、遠くない未来に全滅してしまう。

 俺達が本当に生き残るためには、俺達のうちの誰かが人間との架け橋となって、人間と手を取り合って生きる未来を繋ぐしか無いのだ…。

 あの人間なら…ヒロシ殿なら、きっと俺達の架け橋となってくれる気がする…俺達にとって、失っていい存在などではないんだ。


 だが、その思いを今のギナに伝えても逆効果でしか無いだろう。

 人間への架け橋がヒロシ殿であるなら、コボルトへの架け橋はやはりイズ以外では成り得ない。

 群れの連中も、イズへの不安を募らせていることは承知している…だが、それでもイズの実力は認めているはずだ、群れに対して多少の混乱を与えることもあるだろうが、それでも群れが維持できなくなるということは無いと信じていい…そのはずだ。

 …ならば、今はヒロシ殿の実力を信じて、イズの発見に努めるのが最優先ということか…。


「ガラ、あの巨大な岩は、あの人間だけを狙っているようだ」


「…そのようだな」


「イズとザイラは、このあたりに姿は見えないがそう遠くにいるわけでもないはずだ。

 あの岩の移動…押し潰しに巻き込まれないともわからない、急いで探しに行こう」


「……」


「…ガラ、どうした?」


「…いや、すまない…急いで探しに行こう。

 ガジには申し訳ないが、ここから離れて散り散りになってしまった群れの連中の目印となるように動いてもらうことにしよう」


 ひとまず、俺達はイズとザイラを探すべく、すぐさま行動に移した。

 巨岩の行く先…ヒロシ殿の走り出した先にイズとザイラが居た場合、押し潰しに巻き込まれかねないと考えて、ヒロシ殿の先回りをする形で捜索を行った。

 この行動には二つの利点がある。

 一つは、人間たちもあの巨岩を相手取りたいとは思わないらしく、とにかく行く先々で人間と出くわさないため、無駄な応戦などで余計な体力を消耗せずに済むこと。

 もう一つが、途中で群れの連中に出くわすようなことがあるならば、その危険な存在の放つ地鳴りの正体を伝えることで、群れの連中も巨岩の移動による被害を極力避けることができるようになることだ。

 あの地鳴りの音が気になりはするだろうが、よもやとてつもない巨岩が意思を持って移動するなど想像できるはずがない…鳴り響く地鳴りの音の付近は危険だと伝えておかなければ逃げ遅れる者も現れるかもしれないが、先回りしながら伝えることができたならその被害も避けられるようになるはずだ。

 それから…もう一つ、これは個人的な利点だが、ヒロシ殿に対して常に先回りしているということは、翻ればいつでもヒロシ殿の加勢に向かえるということでもある。

 ヒロシ殿は絶対に失ってはならない、イズも探し出さなければならないが、それによってヒロシ殿を見失い、どうすることもできないような状態だけは避けなければならかなった。

 ギナには先の二点だけを伝え、熟考の余裕はないと判断したのか、すぐにこの方法で了承してくれたのが幸いだった。


 そして、実際にこの方法は功を奏した。

 イズとザイラを発見することに成功したのだ。

 イズは人間たちとの戦いによって今のギナと同様に大きな傷を負ってしまっており、更には意識を失ってしまっていたようだが、ザイラが人狼の扱う狼化の術を行ってその背に乗せることで、なんとかイズと共に逃げながらこの森の中を走り回っていたらしい。

 その後しばらくしてから、人間たちがどういうわけか逃げだしていったため、いったん息を整えるためにその場で休憩しつつ、その後にコボルトの戦士たちと合流するつもりで居たらしい…ここで合流できたのはまさしく絶好のタイミングだったというわけだ。

 合流を果たした俺達は今後の方針を決めるためにも、ひとまず巨岩の進行方向…ヒロシ殿を先回りする形での移動を続けながら話し合いを行う。


「イズは気を失っているだけか…二人共、なんとか無事なようでよかった」


「ガラ、イズとザイラを発見できたんだ、急いであの巨岩の進行方向から逸れて、俺達もいったん休憩しよう。

 それにザイラは走りっぱなしだったのだろう、俺達よりも体力の消耗はずっと激しかっただろうし、イズの怪我の具合も心配だ」


「…いや、まだ進行方向に逃げ遅れた群れの連中が居ないとも限らん。

 それに、あの巨岩の進行方向には人間が居なかったが、その進行方向から逸れた周囲からは微かにだが人間の叫声のようなものが聞こえる…巨岩の移動速度も俺達が全力で走り抜ければ余裕で逃げられるほどのものだ、今はまだこのまま進行方向に移動しつつ様子をうかがうのが良いかもしれない」


『私は別にどちらでも構わない。

 体力に関しては問題ない、なんならいつもよりもずっと調子がいい…チッ、あのあほ人間め…。

 それよりも、今は御主人のことが心配だ、このまま移動を続けてなんとかなるのか?』


「あの巨岩は、おそらくだが人間たちにとっても想定外の物のようだ、そのため進行方向にいる人間たちはほとんどが逃げ出してしまっている、このまま移動を続けるならほぼ間違いなく人間に出会うことはない。

 しばらく巨岩の進行方向に移動を続けたあと、人間たちの声が完全に聞こえなくなったタイミングで俺達も進行方向から逸れて、どこか落ち着ける場所に留まり、そこで体力の回復や怪我の治療を行うのが良いだろう」


「ガラ、さっきも言ったが、あの巨岩は人間たちにとって想定外の物…俺達に対して攻撃を仕掛けるのをやめて逃げ出すほどのやつだ、今の状態で人間たちと遭遇しても俺達のことを無視することだって十分考えられる。

 今はなによりもイズの怪我の具合を確認して、体力の回復や怪我の治療に専念するほうが重要なはずだ」


 本当なら、このままヒロシ殿を見失うことのない距離を保ち続けたい。

 だが、ギナにその思いを語っても通用しないだろう、なによりイズの容態については俺も心配するところだ。

 ヒロシ殿の実力については、ここまで一人であの巨岩の移動による被害を掻い潜っているというのなら、もはや疑う余地はない。

 だが、それでも万が一ということもある…イズが確保できたなら、ヒロシ殿の確保にも移らなければならない、それこそが俺達が本当に生き延びることのできる道であるはずだ。


 意を決して、今度こそヒロシ殿の加勢に向かうことを告げようとした、その時だった。

 後方から…ヒロシ殿がいるであろう方向から、何かの破砕音が響き渡ったのだ。


「今の音は…!?」


『なんだ…?

 おいデカブツ、私があのあほ人間の様子を見てくる、私の代わりに御主人を背負ってくれ』


 今ここでイズを背負う。

 それは、同時にヒロシ殿を確保するという目的の達成が困難になることを意味するはずだ。

 …いや、ここで迷ってはいられない、今はあの破砕音の正体が気になる、ひとまず背負わせてもらおう。


「…そうだな、頼んだぞザイラ。

 それと俺の名はガラだと何度も言っているはずだ、群れの仲間として馴染みたいというのなら、皆のことを名前で呼べとあれほど…」


『うるさいぞデカブツ、今はそれどころじゃないだろう。

 いいか、御主人に何かあったらお前であろうと殺してやるからな、任せたぞ。

 ヒョロモジャ、お前も少しは御主人の役に立て、絶対に守りきれよ』


「…待て、ザイラ。

 あの人間はもう放っておこう、俺達の群れとは関係ない争いに、これ以上巻き込まれる謂れはないはずだ。

 音がどんなものだとしても関係ない、今はイズの安全と、群れの皆の安否の確認が最優先だろう」


『ふんっ…御主人以外、何があろうと誰も私に手を差し伸べはしないだろうし、私からの思いだって誰一人として汲む気が無いくせに、仲間だの群れだのと…つらつらとよく口の回ることだな。

 文句があるなら私の仕留めた獲物を、群れの皆とやらで食い、すぐにでも飢えを凌げばいい…お前らよりも私のほうがずっと上手く狩りを行えるのだからな…群れの皆とやらも、名前で呼んでやるだけで本当に私を仲間と認めてくれるというのなら、これほどまでに御主人が頭を悩ませることなど微塵もなかっただろうにな。

 …無駄話が過ぎた、見てくる』


「ザイラ、それは…」


 俺の言葉を待たず、ザイラは人狼の特技による移動方法で駆け出していってしまった。

 ザイラは群れで孤立してしまっている、今では正真正銘イズ以外に頼れる者は居ないと言っていいだろう。

 それは、ザイラの普段の態度が悪いからというわけではない、ザイラも始めの頃は自分にできることを精一杯こなし、群れの仲間であることを示すかのように尽力してくれていた。

 俺もイズも、あの頃はまだザイラもすっかり群れの中に上手く溶け込んでくれていると信じていたが…ザイラが初めて単独で狩りを行い、大物を仕留めて帰ってきたときのことだった。

 あの日、俺とイズはそのことを本当に我が事のように喜んだものだ…だが、群れの皆はそうではなかった、当時の族長でイズの父親でもあるザも含めて、誰もザイラの仕留めてきた獲物に関心を示さなかった。

 理由は至極単純だ、ザイラがコボルトではない…更に言うなら、人狼と言えど普段は人間と変わりないような姿を持つザイラのことを、群れの仲間と認めることもなく未だにただの余所者としてしか見ていなかったからだ。


 それからというもの、ザイラは誰の名を呼ぶこともなくなった。

 イズのことも、当初は名前で呼んでいたのだが…それも群れの中心人物となるはずのイズにはいつか迷惑になるかもしれないと案じたのだろう、「御主人」と呼び改めるようになり、イズにのみ付き従い、イズの意思を汲み取るためだけに動き、今では群れの連中を「御主人に迷惑をかける奴ら」程度にしか思っていないのだろう。

 それに、自分の仕留めた獲物に誰も手を付けなかった…次期族長となるためにも手を付けるなと当時の族長であるザに止められてしまったイズも含めた全員が手を付けなかったことが余程ショックだったのだろう、あれからイズの狩りについてくる事はあっても、もはやザイラ自身の手で獲物を仕留めるようなことはなくなってしまっていた。


 しかも、それが俺達の群れの飢えを更に酷いものにしてしまっていた。

 生存圏を脅かされて逃げた先では、地上で仕留めることが可能な獲物は腹の足しになればまだいいと言えるような小物ばかり、樹上にその身を置く草食動物や、森の上空を飛び交う月影雷鳥などは、狩りの行える戦士の数が減ってしまった俺達だけでは仕留めることは難しくなっていた。

 それでも、樹上に簡単に登ることができ、枝葉の隙間を掻い潜りながら高速で移動できるザイラであれば、それらの獲物を仕留めることも苦ではなかった。

 群れで狩りを行う場合、誰が仕留めたかなど狩りに出たもの以外にはわからない…ザイラが単独で獲物を仕留めて帰ってくるその日まで、群れの皆はザイラが仕留めたものではなくコボルトの戦士の誰かが獲物を仕留めたと信じてそれらを食べていたということだろう。

 生存圏を脅かされている俺達にとって、ザイラが単独で狩りを行ったその日が来るまで命を繋ぐことができていたのは、間違いなくザイラのおかげとしか言えない。


 そして、ザイラがイズ以外の群れの皆に心を開かなくなってしまったもう一つの理由…それはおそらく、ギナにある。

 ザイラと違って、ギナも余所者という条件は同じであったはずなのに…同じコボルトだからというだけで、ギナは群れの仲間として受け入れられつつあったからだ。

 ギナとて、何もせずに受け入れられたというわけではない…イズと共に文字通り血の滲むような努力を続け、立派な戦士となるまでに成長し、群れの仲間に加わろうとあらゆることを惜しまなかった。

 どちらも群れの仲間として努力は惜しまなかった者たちだ…だが、ザイラは受け入れられず、ギナは受け入れられるようになった。


 ザイラにとって、その差はあまりにも酷だったろう。

 二人には共通点が多い、イズを拠り所としてみているところ、今の群れから見ると余所者であるということ、人間に対して激しく憎悪していること…だからこそ、余計に、仲間として受け入れてもらえなかったという差だけが浮き彫りになり、ザイラはこうしてイズ以外には心を閉ざしてしまったのかもしれない。


 それでも、コボルトだけで生き延びるには、今のこの環境は劣悪過ぎる。

 生存圏を取り戻すことにも、生き延びることにも…コボルトだけの力ではなく、他の種族の者と協力していく必要があるのは間違いない。

 ザイラが受け入れてもらえていなかったというのは本当に予想外だったが、それは当時の族長であるザの意志が絡んでいた可能性がある…イズを族長に置く今の群れであるならば、新たな可能性が切り開けるかもしれない。

 ザイラを群れの仲間として皆に受け入れてもらい、俺達と言葉を解することができるという稀有な人間…ヒロシ殿の協力を得て人間たちと和解の道を進み、今より住みやすい生存圏を得て…そうして俺達は初めて、繁栄の道へ進み直すことができるはずだ。


 いや、いかん…今は物思いに耽っている時間はない。

 やはり俺もヒロシ殿の安否を確認しに行くべきだ、ザイラではヒロシ殿を助けるどころか、下手したらその場の勢いで殺しかねない。


「ギナ、俺達も様子を見に行くぞ」


「…何を言っているんだ、ガラ。

 俺達はこのまま群れの皆と合流しに行くべきだ」


「ダメだ、ザイラも群れの仲間だ、ヒロシ殿の件はいったん置いておくにことにしても、ザイラを見捨てるわけにはいかない」


「ザイラは群れの皆に受け入れられていない、仲間として見られていない。

 いい機会だ、ここでザイラとも別れて、俺達は正真正銘コボルトの群れとして団結を強固にして行くべきだ」


「ギナ、ザイラのことは誰よりもイズが仲間として認めているんだぞ。

 ザイラを見捨てていくというのは、イズの思いを裏切ることになる」


「……」


「…大丈夫だ、イズに危険が及ぶようならすぐに引く…行くぞ」


 俺達はザイラの後を追いかけるようにして、謎の破砕音が響いた地点に向かって駆け出した。

 少し走ると、ここに来るまでほぼ一直線に大木が薙ぎ倒された、もうもうと砂埃が舞う拓けた空間が見えた。

 砂埃が舞う中で目を凝らしてみるが、どこにもヒロシ殿もザイラも姿が見えない…ふと、空が見えることが珍しく思い、上方を仰ぎ見た。

 そこにいたのは、岩の巨人とでも言うべき、山のような大きさの巨像だった。

 それがあまりにも巨大すぎて一瞬自分が何を見ているのかすらわからなかった、しかしその形状は歪んでいるものの屈強な人間の男を模しているようにも見えたため、何かの像だとなんとか判別できた。

 その巨像が、今まさに横転しようとしている…俺達がいる場所から予測される着地点はやや逸れてはいるが、着地の衝撃によってはこの付近も危険かもしれない…ヒロシ殿とザイラは一体どこにいるのか、急いで引かなければ本当に危険だ。


「ザイラ、アイツ…!」


 ギナがザイラを見つけたらしく、その視線は一点に固定されていた。

 ギナの視線の先を追うと、巨像の腕と思われる部分…反対の腕と違って、砂の柱とでも言うべき物になっているそれを駆け上がっているザイラと思われる黒い狼を発見した。

 何故あんなところに…そう思い、ザイラの目指しているであろうその場所に更に視線を移す…そこには、空中にその身を投げ出す人間が居た、その珍しい服装には見覚えがある…アレは間違いなく、ヒロシ殿だ。


「ヒロシ殿、何故あんなところに…!?」


「ははは!

 ザイラめ、あの人間を殺したがっていたからな…どうしてあんなところにあの人間がいるのかはわからないが、ザイラはアイツにとどめを刺しに行ったんだろうさ!」


「ば、馬鹿な…やめろザイラァッ!!」


「ガラッ!!

 あの人間のことはもう忘れろと言っただろうが!!」


「ギナ、ヒロシ殿は…俺達がこの森で生きるために必要なんだ、絶対に…!!」


「もういい!! もう何も言うな!!

 お前が何を言おうがもう変わらないんだよ!!

 見ろ、今にザイラがあの人間にとどめを…っ!?」


「ザ…ザイラ…」


 ザイラがヒロシ殿にとどめを刺すことはなかった。

 それどころか、空中に身を投げだしたヒロシ殿を助け、巨像の胴体に向かって共に空を走り出していた。

 あれほど人間を憎悪していたザイラが、人間と協力している…やはり間違ってなんかいない、ヒロシ殿は俺達にとって必要な存在となる…!


「見ろ、ギナ…俺達は、今からでも人間たちと手を取り合えるはずなんだ」


「…ガラ、そこで見ていろ」


 ギナはそう呟くと、その手に持った槍を構え、大きく振りかぶった。

 目線の先には、空を駆け抜けていくヒロシ殿とザイラの二人が…


「おい、何を…」


「目を覚ませガラァッ!! 俺達にとって、人間はァッ!!」


「ギナッ!!」


 未だ意識を取り戻さないままの重症のイズを背負っていた俺は、その行為を止めようと動き出すのに数瞬出遅れてしまった…たったそれだけの間に、その槍はある限りの憎悪と残ったすべての力を込められたかのように、この拓けた空へと放たれてしまった。


「ただの侵略者だろうがァアアアアッ!!!!」

「やめろ、ギナァアアアアアアアアッ!!!!」


 放たれた槍は空を裂き、何者の邪魔を受けることもなく、まっすぐに目標へ突き進み…

 一つとなった二人の元へ届き、二つに別れて落ちていった。


 巨像が森の中へ沈んでいく、けたたましい轟音を上げながら、大木をへし折り森を破壊しながら。

 二人の叫びを掻き消すように、二人の言葉を遮るかのように…大きく、大きく響き渡った。


・・・・・・・・・・




◆ワールド・トピックス

『帝国騎士団第三軍』

八つの軍団からなる精強なる帝国騎士団、その第三軍。

第一軍が精鋭部隊、第二軍が国防部隊…そして、第三軍は遠征とゲリラ戦に特化した特殊部隊の集まりとなっている。

主にその任務としては国外遠征…環境調査や魔獣討伐の他、野党や魔獣などに対しての商隊の移動経路や安全の確保、その地域に蔓延している病気の研究・治療など、国外という括りで幅広い分野の任務をこなす。

野戦に特化しているものが集まっているというのも、その任務の特異性からなるもので、任務地の殆どは劣悪な環境だったり人間が住めるような環境ではない場合がほとんど。

そういった環境でも難なく任務を遂行し、そしてその任務の解決は直接国民やその地域の住民の安全や健康などに繋がるものであるため、目に見える活躍という意味では最も人々に愛されていると言える帝国でも指折りの花形部隊である。

しかしその特異性からか、地位や権力になびかず人々にために力を注ぐというような扱いづらいものが集まる部隊でもあるため、貴族や権力者から見ると「彼らは粗野で粗暴でガラの悪い『三流』」などと渾名され、忌み嫌われている。

現皇帝は第三軍の…特に、魔獣に関する知識や、代わりの効かない特殊な特技や技術を持つ者たちが集まっているという意味で、さらには磨き抜かれた連携の術なども踏まえて軍団としての能力を高く評価している。

帝国騎士団第三軍の軍団長には世界でも数少ない聖騎士として選抜された超人「アストライア=アルバ・アーレイア」、副長には世界でも数えるほどしか居なくなってしまった特殊技術を扱うことができる「ガーネット・オストルグレア」がそれぞれ就任している。

かの軍団長は世に「帝国にアストライア有り」と言わしめるほどの有名人で、存命でありながら既に数多くの英雄譚が綴られているという人気っぷり…しかしそれが貴族や権力者からしてみると「さらに扱いづらい奴ら」という印象を強くしてしまっているため、更に第三軍の風当たりが強くなっていく…という、あまり良くないスパイラルが発生している。

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