無茶
この時点でコボルトとも人間とも敵対してしまい、どちらの勢力にも馴染むことができないまま、それでもずっと逃げ続けたり我慢し続けたりしてきたことへの苦悩から、自分の心に従うという生き方にひたすらにこだわろうとする…というルートが、どうあがいても胸糞すぎたので大幅な改変を行っていたために、更新に時間を要しました。
生物として故障している男、朽ち果てることなき欠陥品、何度でも再利用できるが制御はできない核弾頭。
はじめからぶっ壊れていた人間が、異世界に転生したからといってぶっ壊れていることがなかったことにはならないんだよなぁ…。
作者もドン引きするくらいにはあまりにもぶっ壊れすぎていたので、これから徐々にマイルドにしていこうと思います。
このタイトルを連載していて気付いたのですが、書いていて精神がめちゃくちゃ疲弊していく。
読み手にとっても嫌なことばかり起こるし、思い通りにならなくてイライラするし、でもこういうのは読んでいて嫌いじゃないのでやっぱり書く。
書くけど、自分の心の平穏のためにも、一区切りついたらもっとスカッとする都合のいい連載小説でも書こうかなと思います、今書いているこのタイトルと同時連載で。
タイトルは「そして世界は平和にならない(仮)」みたいな、ずっと平和にならないけど、だからといって不満はない生活がずっと続く異世界日常系を書きたい。
戦争や縄張り争いや人身売買や迷宮探索が巻き起こる世界で、割と不満のない日常を送るだけ、みたいな。
癒やしをくれ、癒やしを。
■登場人物
『但野 宙』
自分の死をきっかけに、謎の存在から正体不明の力を授けられた人間の男。
今の所は「走るド畜生&ド変態」以外の何者でもないのだが、そのことに本人は気づいていない。
『✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕』
立ちふさがる男に[悦びの拳]、振り向きざまに武器を振りかざす男に[悦びの拳]、体当たりを仕掛けてきた男に[悦びの拳]、樹上から飛び掛かってきた男に[悦びの拳]。
次から次へと現れる男たちを続々と気絶させ、無力化していく。
[悦びの拳]による攻撃は相手を殴ったり急所を突くというようなことはしないが、相手の身体を揉むように撫であげて、そのときに[献身なる転身]を使用したときのようなエネルギーを流し込んでいる感覚がする。
おそらくこれが相手の身体にダメージを与えずに気絶させるなにかなのだろう、流し込まれた相手は「よろこび」に満たされて気絶するのだ…と、自分でもなんでこれで気絶するのかいまだにわかっていないが、多分そういうことなんだと思う。
しかし、少しずつとはいえエネルギーを流し込んでいるためか、俺の方もかなり体力を消耗している感覚がする。
最初は走りながら使用しているから余計に疲れているだけかと思ったら、[悦びの拳]を使用したタイミングで明らかに疲れの度合いが増していくのを感じて、特技の使用と体力の消耗は関係があることに気付いた。
特技は体力を犠牲にして使用することができる…そして、体力の減少はそのまま全身への疲労感や肉体的な不調となって現れる。
体力の減少量は特技によって大きく差があり、[縄抜け]や[鑑定眼]は減ってるのかどうかすらわからない、自動で発動している様子の[堅牢]や[言語理解]もだ。
だが、明確に使用していることがわかる[悦びの拳]から始まる多くの特技は、体力を消耗するタイプでまず間違いないだろう。
さらには[爆熱闘魂]などの、効果を発揮するためには特技の維持が必要なものに関しては、使用中は体力を消耗し続けるという可能性がある…あのときは限界まで体力を使ってしまったから、二度目の[爆熱闘魂]が発動できなかった、というのが今の所の予想だ。
…まぁ、その場合は、結局なぜ[堅牢]が発動してくれたのかがよくわからないままとなる。
うーん…もっとしっかりと、この世界の特技というものがどういう仕組みなのかを理解しておきたいが、どうやって理解を深めていけばいいのだろうか…。
特技という能力への理解…与えられた力への理解は、少しでも深めておくべきだろう。
未知の力というものは、本来は検証に検証を重ねて、比較的安全な使用方法というやつが確立されてから俺のような一般人の目に触れ、実際に扱うことができるようになるはずのものだ。
ところが、俺に与えられた力というのは、使い方そのものは確立されているようだが、それが安全に仕えるかどうか、安全に使うならどうするべきなのかという、検証の部分が完全に不足している状態だ。
同じような効果だと思っていた[嘆きの拳]と[悦びの拳]は、結果こそほとんど同じだったが過程が恐ろしいまでに異なっている…それだけじゃない、今回は命までは奪わなかったが、使い方を間違えれば[八腕組手]のように簡単に取り返しのつかない状況に持ち込んでしまうという特技があることも容易に想像できる。
相手に与える効果もそうだが、自分自身が逆に死の瀬戸際に立たされてしまった[超跳躍]や[爆熱闘魂]などの特技だってある…確かに確認した効果通りの結果が現れたが、あまりにも過剰に効果を発揮してしまうために、対策なしではまともに使用できない。
この短い期間で、自分の持つ力に対して色々と意識できることが増えたのは良いことだと捉えるべきだろう。
自分の持つ力だといっても慎重に慎重を重ねて実験のようなことを繰り返し、問題なさそうだとわかってからやっと新しい特技を本来の目的通りに使用する…そのくらいがちょうどいいのかもしれない。
…どうやって実験するかは特技にもよるだろうし、結局は実験などを行っていなかろうともその場の勢いで使うしか無い場面だってあるだろうし、そのあたりは後々考えていこう。
『✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕』
『✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕』
…やばい、いい加減かなりの体力を消耗してしまっている、どこからともなく集まってくる人間たちに次々の[悦びの拳]を使っていったが、俺はその間に一度も自分の体力を回復させることはできていない。
そろそろどこかで落ち着いて、[チャクラ]で体力を回復しないとまずい…本当は走りながらにでも[チャクラ]を使いたいところが、それはすでに一度試しており、走りながら使おうとしても上手くいかなかったのだ。
それどころか、身体を動かしながらでは[チャクラ]を使おうとしても集中が乱れてしまい、逆に余計な体力を消耗しただけに終わってしまった。
おそらくだが、[チャクラ]を発動するためには「集中を乱さない」「身体を動かさない」というような条件があり、発動に失敗するとごっそりと体力を持っていかれるだけで終わる…そのかわり、発動に成功すれば消耗した体力を上回って全快するほど劇的な回復力を発揮するというところだろうか。
もしかしたら特にリスクもなく物凄い効果を発揮してくれる最高の力なんじゃないかと思い始めていたのに、やっぱりそう甘くはいかないものだ。
そして[チャクラ]も例に漏れず体力を消耗する特技だということは、やはりどんな特技であっても大なり小なり体力の消耗は発生していたと考えていいだろう。
その体力の消耗そのものも、[チャクラ]なら発動にさえ成功すれば諸々回復することができるというだけで、これも[悦びの拳]を使用しているときと同じように体力を消耗して発動していたということだ。
[チャクラ]は使えない、だが今は[悦びの拳]を使う以外に有効な無力化の手段はない。
防御や回避の特技はあるにはあるが、結局どういう効果を発揮するのかを実践して確かめることができていない…自分自身に影響を与える特技は[爆熱闘魂]のように逆に死の淵に立たされる危険性がある、便利そうな効果に見えても今はそれに頼らずに確実な手段を選ぶべきだ。
…しかし、そろそろ…本当にまずい…無力化した人間の数は二十人以上だろうか、それでもまだ湧いてくる様子だ。
これじゃあガラに追いつく前に…
『✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕』
『✕✕✕✕✕✕✕✕、退避ーーーー!!』
…お!?
今、一瞬だけだが何を言っているか聞き取れた気がした。
確か、レマリア語だったか…ズーラ語のときも、いきなり聞き取れるようになってからは、それ以降その言語で話すこともできるようになっていたが…おお!わかる、わかるぞ!喋ろうと思えば、どんな言葉なのかつらつらと頭の中に思い浮かぶ!
これで、ここにくるまでにゴチャゴチャと耳に届いていた彼らの大声が何を意味するものなのか、今の俺なら理解できるようになった。
俺は、この場所が今どういう状況なのかを少しでも確認するためにも、相変わらずワラワラと集まってくる彼らの言葉に耳を澄ませ……いや、なんだ、散り散りになっていく?
彼らはいつの間にかに、俺に向かってくるのではなく、森の何処かへ散り散りに逃げ出すようになっていた。
まずい、せっかくやっと理解できるようになったのに、いったいどうしたっていうんだ…!?
せめて最後になんて言っていたのかだけでも知りたい、そう思い俺はいったん立ち止まった。
落ち着いて耳を澄ませると、遠く離れていく彼らの大声が、なんとか俺の耳にまで届き、俺はその言葉を聞き取ることに成功した。
『 ガーネット様がすでに近くにいるぞ!! 退避だ、退避ィーーーーっ!! 』
…なんだ?ガーネット様…?
敬称をつけて呼ぶということは、誰かの名前なのだろうか。
待てよ、今なんて言ったんだ……たいひって…「退避」か?
ズズンッ
地鳴りがする。
しかも、割と近い。
割と近いどころじゃない、真後ろから音がしたというか、振動がするというか。
俺はバッと後ろを振り返り、そこに何がいるのか確かめる。
巨大な岩石だ。
俺の後ろに、巨大な岩石の壁がある。
いやいや、ここはさっきまで俺が走ってきた道なき道があったはずだ、こんなもの絶対になかった。
どのくらいの大きさなのかは全然わからない、森の天幕を突き破るほどの高さ、しかもここに来るまでに大木をなぎ倒してきたのだろう、よく見ればいたるところに巨大な丸太が横たわっている。
いや、まさか…この岩石、動くのか!?
「ガーネット様!! 進行方向やや右・半歩先に目標が行動を停止!!」
「ガーネット様!! 目標は未だこちらの呼びかけに応じていません!! 停止ください!!」
森の中から何人かの人間の声が聞こえてくる。
巨大な岩石はズルリと宙に持ち上がり、そのままこちらの方へ宙へ浮いたまま前進しようとしてきた。
並び立つ大木もお構いなしに、文字通り根こそぎ倒しながら突き進み、俺のいる地点目掛けて着地しようとしてきた。
「うおおおおおおおお!?」
俺は踵を返して、全力で岩石の突撃を背に走り出す。
背後から「ズズンッ」という着地音の後に、また人間の声が聞こえてきた。
「目標は元の進行方向へ逃走を再開!!」
「ガーネット様!! このままでは第二班・第三班・第四班と合流してしまいます!! 停止ください!!」
「ガーネット様!! この辺り一帯の隊員の退避が終わっていません!! 停止ください!! 停止ください!!」
『 うるさいうるさいうるさい!! ここで逃したら、私はっ…進め、ガーディアン!! アイツを踏み潰せ!! 』
巨大岩石よりはるか上方から女性のものらしき声が聞こえてきた。
だがその声の主が何者なのかを確かめる余裕はない、すぐにまた真後ろから巨大な地響きが鳴り、確実に俺の方へあの巨大な岩石が追いかけてきていることがわかる。
周りの人間が急に散り散りになって逃げていったのは、間違いなくコイツが原因だ。
一体どんな理由があって俺を追いかけてきているのかは知らないが、それを考えるほどの余裕を与えてはくれない。
相手は岩石だ、人間サイズの相手を組み伏せることができた[八腕組手]や、ダメージを与えない代わりに衰弱させるという[悦びの拳]がコイツを相手に通用するとはとてもじゃないが思えない。
宙へ浮いて大木をなぎ倒しながら進んでくるせいで動いている間は近づくことすら難しい、しかし着地地点は的確に俺の立っていた場所、走っていた場所だ…無力化ができるかどうかを考えているどころじゃない、逃げなければ確実に踏み潰される。
「う、うおおおおおおっ!!」
俺は走りながら、なんとか今この状況を打開できる方法は無いかと思考した。
[チャクラ]が使えていないために体力は消耗しっぱなし、下手な特技を使って身体が動かせないほどの体力を消耗してしまえばそれでアウトだ…せめて[チャクラ]を使用できるだけの時間がほしいところだが、どうすれば…。
そうだ![超跳躍]で上空に飛び上がって時間稼ぎを…いや、初めて使ったあのときは本当に運が良かっただけだ…空には雷雲、次こそ雷鎚の餌食になってもおかしくはない。
[超跳躍]が飛ぶ高さの調整ができればいいのだが、まだ一度しか使ったことがない上に両腕の力だけで雲に届きそうなほどの高さまで飛び上がってしまったのだ、脚の力で跳び上がったときにどこまで調整ができるのか予想もできない。
それなら[飯綱落とし]をこの巨大岩石に試してみるのはどうだろうか、自分の身体の倍以上はある巨大鳥相手には使用できたし、黒狼の少女を相手に使用したときのように、相手の位置さえ掴めていれば振り向きざまだろうが技そのものは使用できるはずだ。
…しかし、使用した感覚としてはあくまで「相手を両手両足で拘束できれば技を仕掛けられる」といった様子だった。
巨大岩石は自分の体の倍以上どころじゃない、森の天幕を突き破り大木をなぎ倒してしまうほどの大きさだ。
その体格差もそうだが、地面を鳴らすほどの重量がある相手にまともに使用できる技とも思えない。
まてまてまてまて、なにかいい方法はないか…なにか、なにか…。
そうこう考えているうちに自分の体力も限界に近づいてきている。
疲れもすでにピークに達しており、徐々に逃げる速度も遅くなってしまっている。
いや、そうだ、相手が生き物じゃないっていうなら…あの特技なら無力化できるかもしれない。
「このまま逃げ続けてもいつかは追いつかれるだけだ…それなら、無茶でもやるしか無い…!」
俺は自分がこれからやろうとしていることに対して、無理やり自分を納得させるように声を絞り出す。
俺は逃げるのをやめて立ち止まり、集中する。
丹田に力を込め、全身にエネルギーが満たされていくことを感じる…。
すぐそこまで巨大岩石が迫ってきている、もう逃げる余裕はない、また使えると信じて試すしか無い…!
『 追いついた…!! 踏み潰せ、ガーディアン!! 』
俺の頭上に浮かんだ巨大な岩石は、容赦なく俺を叩き潰そうと突き進んでくる。
念のために先に[血肉の鎧]を使用して防御能力を向上させようと試みる。
使用すると、いきなり全身の皮膚に痛みが走り、すぐに全身が赤黒く染め上げられた。
そのまま全身を血の膜で覆われ、体力が物凄い消費されてしまったことを感じる。
[血肉の鎧]は、つまり自分の体力と血を犠牲にして鎧のようにする特技ということか。
血の膜はかなり薄い、効果を信じるなら肉体が鎧のように強化されているはずだが、本当にこれで巨大岩石の突進を受け止められるかどうかは不安が残る。
やはりもう一つの特技の効果に期待するしか無い。
俺はすぐ頭上にまで迫ってきていた巨大岩石に向かって[部位破壊]の特技を使用する。
巨大岩石のある一点が、俺が拳を突き上げる場所だと確信した。
拳を握りしめ、全力で頭上の一点を目掛けて振り上げる。
「ここだっ!!」
拳が岩石に直撃すると同時に、俺の体力がまたしてもごっそりと持っていかれたことを感じた、[血肉の鎧]の維持が解けてしまうほどではなかったが、この技の連発は難しそうだ。
[部位破壊]の効果は、相手の能力を著しく低下させる急所攻撃を行うというものだ。
どんな結果になるかは予想もできないが、名前がその特技の効果の現れ方に直結しているというなら、この特技によって能力を低下させる方法というのは、つまり…
ビキッ ビシビシビシッ
巨大岩石が俺を踏み潰す直前に動きを停止し、拳で撃ち抜いた一点から断裂音と共にクモの巣状に亀裂が広がっていく。
ボロボロと小さな石の欠片となって少しずつ崩れていき、風船が破裂したように崩壊して、一帯には石と砂の雨が降り注ぐ。
巨大岩石が崩壊すると、森の天幕に空いた大穴からついに巨大岩石の正体が見えるようになった。
不格好だが、それは岩石でできた巨大な人型…両腕や頭にあたる部分が存在し、俺が今攻撃を仕掛けたのは、この巨大な人型岩石の片足だったということだ。
片足を失ってしまった巨大人型岩石ともいえる怪物は、そのまま大きくバランスを崩し、その場に…俺の頭上に崩れ落ちてくる。
ただの巨大な岩石だと思ったが、まさかその更に上に岩石の塊があるなんて流石に…いや、巨大岩石の更に上方から誰かの声が聞こえてきていたのだから、何かがあると想像しておくべきだった…それでも巨大な人型岩石だったなんて想像できたとは思えないが。
相変わらず、俺の想像力はこの異世界に馴染めていない…だが、それを悔やんでいる暇もない、今は目の前の状況を切り抜けることに集中しなければ…。
『 ガ、ガーディアン!? そんな、私のガーディアンがっ…イヤァアーーーッ!! 』
怪物の肩の部分だと思われるところから、女性の叫び声が聞こえてくる。
この巨体がバランスを崩して倒れるならば、当然その肩の部分にいたであろうその女性は怪物の転倒にもろに巻き込まれる…下には森が広がっているとは言え、あの高さから落下してしまえば、さらには怪物の下敷きになるようなことになれば絶対に無事ではすまないだろう。
それだけじゃない、あの巨体が森の中に倒れ込んでしまえば、上空がどんな状況なのかを森の天幕のせいで確認することができない人たちには逃げる時間すら無いまま下敷きにされてしまうだろう。
この森の中には、俺が[悦びの拳]によって無力化した人間たちや、今もまだ戦っているコボルトの戦士たち、逃げ遅れた戦えないコボルトたちがいるかも知れない…。
俺だけが助かる方法ならあるかもしれない…でも、それじゃダメなんだ。
それじゃダメだと思ったから、俺はここまで走ってきたんだ。
俺はコボルトたちを…俺の手に届く範囲で良い、俺に助けることができる人たちを助けるために、ここまで自ら望んで来たんだ。
自分にできることはわかっている。
できるかどうかじゃない、やるしか無いんだ。
俺は拳を握りしめ、怪物が倒れ込んでくる真下へ潜るようにして走り出した。
頭上を見上げ、その巨体に向かって拳を突き上げるべき一点を見抜く…そのまま押しつぶされそうになる直前に、力を込めた拳を突き上げて[部位破壊]による急所攻撃を放つ。
急所を突きぬかれた岩石は少しの間だけ中空にとどまり、クモの巣状にひび割れて怪物の腰部分といえる部位が風船が破裂するかのように崩壊する。
またしても崩壊した岩石が石と砂の雨となって頭上に降り注ぎ、そして間もなく地面へ向かって転倒を再開した。
怪物の転倒による被害を防ぐためには、俺がコイツの全身すべてを砕くしか無い。
体力の消耗にその身を蝕まれながら、俺はさらに崩れ落ちてくる巨大岩石を打ち砕くべく走り出した。
たとえそれが無茶だとわかっていても…俺にはそれが、俺が本当にやりたいことだとわかっていたから。
◆モンスター紹介
『守護魔像』
特殊技術[魔像作成]によって使役が可能となる使い魔。
作成者の思いのままに動かすことが可能で、形や大きさは作成者のセンスや作成のための材料によって大きく異なるが、使用目的の殆どは戦闘であるため材料が安価で現地調達しやすく破壊されづらい「土」や「砂」で作られることが多い。
人型、獣型、建物型、想像上の生物型やそのへんに生えていた普通の木をそのままに…など、どんな形であっても条件さえ揃えば「守護魔像」として使役が可能。
通常の魔法や技術とは異なり、使い魔として使役している最中に自分の持つ体力や魔力を継続して消費する必要がなく、代わりに可動させる前に魔像の核となる魔力石にどれだけの魔力を込めたかによって稼働時間が決められるという一風変わった特徴を持つ。
魔力を込めてさえいればいつでも可動させることが可能であるため、事前に魔像へ魔力を込めておき、後日に自身が消費した魔力を回復し終えた後で可動させることで、かなり有利な状態で戦いに挑むことができるという優秀な存在。
ただし、「守護魔像」にはその可動に対して多くの欠点があり、魔力の消費量がそもそも尋常ではないことが真っ先に挙げられる。
「守護魔像」一体を半日使役し続けるために消費される魔力量があれば、同程度の使い魔を十体以上同じ時間だけ使役することができる…単純に十倍以上も魔力の消費量が違うということになる。
魔力石の質によってこの消耗量や稼働時間が改善されるとは言え、それほどの魔力石を大量に用意するのは極めて困難であり、戦力増強という目的を達成するためにはあまりにも非効率的すぎる。
結果として、「守護魔像」とそれを使役可能とする特殊技術[魔像作成]は無用の長物として認識されるようになっていき、今ではごく少数の者が何かの拘りを持って使用しているという程度の認識に落ち着き、歴史の流れから失われつつある。
長い年月をかけて魔力を込め続けた魔力石を核として動くような「守護魔像」は過去には最強の兵器として重宝されていたが、それほどの魔力を蓄えることが可能な性質をもつ魔力石は今となっては資源としてはほとんど枯渇してしまい、戦力として扱うに足りるほどの「守護魔像」を作成することができなくなってしまっていることも[魔像作成]の評価が落ちている原因となっているようだ。