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序章

 くだらない。

 気が付いたらそう思っていた。 

 何が身分だ。何が「奴隷」だ。あんなもの、ゴミの考えることだろう。

 くだらない奴のために、くだらない事に付き合う。

 死にたい。


 この世界には、可笑しいぐらいに身分が分かれている。

 大きく分けて三つ。一つはそこら辺に溢れかえっているだろう、「人間」。二つ、軽い罰を起こした者を「罪人つみびと」。三つ。「ザイニン」。過去に、騒がれるような大量殺人を起こした人間。選ばれた人間にしか与えられない。ザイニンは一生、罪を背負って生きていく。

 ()()()()()()という罪を背負いながら。





 足音が五月蝿うるさい。

 人に使える奴隷という身分の俺には、音には良い思い出がない。

 例えば、あるじの趣味で、拾われてきた女たち。毎晩、楽しい夜を明かしている。その音が聞こえて来るのだ。

 今となっては、「楽しいことしてますね。」程度で済むけれど、当初は眠りを妨げる物として、トラウマでしかなかった。 

 少しイライラしながら歩いていると、一人の女性にぶつかってしまう。

 「あっ。すいません。」

 その透明な声に引かれて、顔を上げる。

 握れば折れてしまうのではないかというぐらい、白くて細い手足に、綺麗な黒い髪から香る、優しい花の匂い。

 これだけジロジロ見ていたら変態ではないか。

 急いで目線を下げる。

 「あのぉ…。」

 「へぁ?!……何でしょうか?」

 焦って変な声が出てしまった。正直、恥ずかしくて死にたい。

 「大丈夫?でしょうか。」

 そうだ、気にしてはいなかったが、尻餅をついていた。 

 彼女は、白くて細い手を差し出してくれた。

 「お怪我はないですか?もしよかったら、汚してしまったお洋服も洗いますよ。」

 「大丈夫ですよ。これぐらいの汚れどうってことないです。」

 「でも………そのアザ。……………きつく叱れてしまうんじゃあないですか?」

 奴隷というものには解りやすく、見分けのつけやすい()()がついている。

 普段は隠しているつもりだが、転んだ時に見えたらしい。

 「ぶつかってしまったのも、俺の責任だし。それに、こんな奴隷と一緒にいるのも嫌でしょう?」

 「そんなことないですよ!あっ。名前ぐらいお聞きしても良いでしょう?また今度あったときに何かしてあげたいと思って!」

 「名前………?」

 「?」

 生まれたときからこんな生活の俺には、名前なんてないのだ。

 彼女は、考え込んでいる俺に気をきかせてくれたのか、こう言った。

 「私。一ノ瀬 椿(いちのせ つばき)っていうんです。」

 「いちのせ つばき…。」

 下を向き、頭の中で何度も唱えた。彼女の名を忘れないように。

 「あっ。あの!」

 お礼をしようとして顔を上げるが、彼女はいない。

 当初の目的を思いだし、歩く。

 歩きながら何度も唱える。頭の中で彼女の名を。


 もう、こんな形で()()()()()()()()()()()()()()


 頼まれた物はこれぐらいだろうと、帰っていた。

 目新しくもない、いつもの帰り道。

 そんなつまらない風景に、少し違和感があった。

 こんなところに扉なんてあったのか。

 扉を少し開けてみると、中からは不協和音ともいえるような音が飛んでいるレコードの音がする。

 中には、地下へと続く長い階段があった。

 地下へと、引き寄せられるように足が動く。

 ここには行かなきゃいけない。そんな気がして。

 階段を下りていく足音だけが響く。

 下りながらさっきの事を、思い出す。

 本来、奴隷という身分にあんなに優しくしてくれるというのはありえないのだ。奴隷は、金もなく、住む家もない。そんな、何もない人間が連れてこられて、金持ちの元で塵のように使われて、塵のように捨てられる。

 そんな、人間たちに誰が優しくしてくれるだろうか。

 そんなことを考えつつ階段を下りていくと、扉があった。

 恐る恐る(おそ おそ )扉に、手をかける。

 もう、戻れない。

 ゆっくりと扉を開ける。

 本。

 本棚だけでなく、床までに敷き詰められた大量の本。

 そして、異様なまでに蒼く輝く蝶。

 「あれ?お客様?」

 声のする方へ向くと、一人の男がいた。

 パツンと切り揃えられた前髪に、刈り上げられた右側の紫色の髪。耳だけではなく、口までついているピアス。洋服もそれなりに良いセンスをしている。自己紹介をするなら特徴的な丸眼鏡がチャームポイントだろうか。年齢は二十代前後。身長は170~180cm前後。

 椿さんに会った後だと、多少のイケメンでも薄れて見える。

 いや。ましてや、こいつはイケメンなのか。

 外見からは、悪いやつのオーラが半端じゃないほど出ているが……。

 ここは来ない方が良かったな。

 「おーい。聞いてるんすか?もしもーし。」

 もちろん、聞こえているさ。

 逃げるルートを考えつつ、適当に返事を返す。 

 「はいっ!聞いてますよ!」

 焦りすぎた。声が裏返る。完璧、頭の可笑しい奴がやることだぞ。

 「んふふっふっ。どうせ俺のこと怪しい奴だと思ってるんすよね?ふっ。んふふっふっ。声が裏返ってっふっ。」

 初対面の人間の失敗を笑うことは、人間のやることではない。

 「すみません。」

 笑いに耐える男に話しかけてみる。

 「ここって………?」

 「んあぁ。ごめんね。ここは見た通りの古書室っすよ。ただ………」

 「?」

 男が棚にある本に、手に取る。

 ガタッと音をたて本を取り出した瞬間。


 無数の蝶が宙にまい、光となって分散して消える。

 

 「ここにある本は、普通の本じゃないっすけどね」

 男はニヤリと笑いながら本を開いて見せた。

 確かに読めない。普通の本でないことがわかる。

 「君は何故ここにいるんすか?」 

 「えっ。ここの扉が開いていて、それで…」

 「違うっすよ。」 

 話を遮るように男は言った。 

 「そんな下らないことを聞いて誰が得するんすか。」

 そんな話どうでもいいと言うように、男は言葉を口にする。

 


後に続きを公開するので待っててください!


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