第六十話ヒトの強さ2
ヒトの強さは他にもある。
前回の話とも関わってくるのだが、ヒトという種族の数の多さによってより引き立つものがある。
〝『可能性』だ〟
この可能性は伸び代と言い換えると分かりやすいかもしれない。
ヒトという種族は他の亜人種や魔物と比べても特に強さという面である特徴を思っている。
それはなにかというと強さの上下の差があまりにも開いていることだ。
まず、ヒトは生まれたときから強者であるというケースはあまりにも稀だ。
竜や龍を例にすると、生まれたときの竜は最低でもCランク、龍に至っては最初からAランクに至っていることが多い。
では、ヒトの赤子はというと一律最低ランクのEランクだ。
これは、このユグドラシルという世界の法則に則って決まっている。
それは、何故かというと以前話をした『魂の定着期間』というものが関係している。
魂と肉体は3歳ほどになるとほとんど定着するということだ。
言い換えればそれ以前は定着していない、つまり、安定していないということだ。
そのため、赤子はとても不安定な存在であり、そのような状態で強さを発揮できる者などいないという考えからEランクとなっている。
もし、5年以上魂と肉体が定着をすることができずにいると肉体は崩壊してしまい、死に至る。
だが、定着が3歳を越えてもできないというのは稀なため、ほとんど起こることはないが…
このように、不安定な存在が生きることができるのはヒトくらいなものであり、成長と共に強さが上がることに差が開く、いや、開きすぎていることもヒトくらいなものだ。
ヒトはこの世界では、弱者であり、強者であると言ったが、そこには、ある注釈がつく
大多数のヒトは弱者であり、少数のヒトは強者であると
この少数の強者というのがヒトという種族の特異性を表している。
まず、亜人種や魔族、魔物といった種族は産まれてから成長し、強くなることはヒトとは変わらない。
が、亜人種や魔族などの種族は共通して、満遍なく強くなっていく。つまり、落ちこぼれは全てとは言えないがあまりでないと言える。
だが、ヒトは落ちこぼれがあまりにも多い。
ここでいう落ちこぼれというのは、飽くまで戦闘力のことを指しているため、学力や生産力といった非戦闘力は加味していない。
それでも、他種族の非戦闘要員と比べても、ヒトは弱いといわざるを得ない。
それでも、ヒトは他種族を圧倒するほどの伸び代と多様性をもっている。
この伸び代がヒトが他種族から強者と認識されるまでに至ったのだ。
以外かもしれないがSランクに至る実力をもつものは、亜人種や魔族よりもヒトの方が多い。
現在、冒険者にはSランクがハクトも含めて6人いるが別にそれだけがSランクの実力をもった者全員と言うわけではない。
ガレフのように引退したSランク冒険者はもちろんだが、冒険者になればSランク確実と呼ばれている現役の実力者は何人かいる。
それを含めれば二桁は確実にSランクの実力者がいるということになる。
この二桁というのは種族でみるとこの世界ではかなり多い。
そして、ヒトの底知れないところは、世に出ていないだけの実力者というのもいる可能性だってあるところだ。
このようにヒトは世界の中でも有数の実力者がいる種族となっているのだ。
さらに、これからも実力者となる者はでてくる可能性は他の種族よりも高い。
そのため、ヒトを侮ると痛い目に逢うという認識をされている。
それが顕著なのは魔族であろう。
魔族は、優秀な種族だ。
魔法に長けていて、戦闘力も平均して高い。
そして、彼らを統率し、世界を征服しようと他種族を相手に戦争を仕掛けた者が現れた。
〝魔王デュスタフ〟の出現だ。
このユグドラシルの中でもここまで規模の大きな戦争は無かったと言えるほどだ。
前回話した、100年戦争が霞む程の規模だった。
もちろん、被害は大きく、ヒトも亜人も滅んだ国はいくつもあった。
それでも、魔王は無事に討伐された。
〝勇者タカシ〟によって。
この勇者タカシはユグドラシルで最初の勇者とされている。
伝承によっては、地球というところから召還されたみたいだ。
このタカシは最初から魔王を倒せる程に強かった訳ではなかったが、それでも特別なスキルを持っていたとされていて、訓練を重ね、実戦経験を積み、多大な犠牲を払って見事に魔王を倒したのだ。
これには、世界に大きな影響を与えた。
ヒトという種族が当時最強だった魔王を倒したのだ。
それによってヒトという種族の認識がガラリと変わった。
ヒトは弱者というものからヒトは強者であると。
その後、優秀タカシは地球に帰還したと言われている。
だが、タカシがなし得たこの功績やヒトへの影響は計り知れない程だった。
それでも、魔王が倒されたからといって全ての危険が無くなったということではなかった。
魔物の存在だ。
魔王は倒されたが保有していた莫大な魔力はこのユグドラシルに大きな変化をもたらした。
魔物の数、そして、強さが増したのだ。
魔物は未だに解明がされていない部分は多いが魔力と密接な関係をもっているということは認識されている。
高ランクの魔物ほどより大きな魔力を保有していることは知識のある人々の間では常識だ。
そのため、魔王の魔力がその肉体から解き放たれたことでユグドラシルにより魔力が満ちたのだ。
もちろん、世界中の全ての魔物に対して影響を与える程、魔王は魔力を保有していた訳ではない。
それでも、かつて、魔王が本陣としていて、倒された場所。
魔大陸には、大きな影響をもたらした。
そして、勇者が去っていったがまだまだ危険があることを知った者達は今度は自分達がやる番だと実力をつけるために様々な魔物との戦闘を重ねた。
これが冒険者の前進になったと言われている。
冒険者と呼ばれる職業が生まれたのは実は魔王と勇者が関係していたのだ。
そして、ヒトが魔王を倒したことは、後に伝説として語り継がれヒトのもつ底知れない強さというものをより引き立たせることになった。
今は魔王のような魔族を統率する者というのは確認はされていないが、それでも、魔族単体でも強いということもあり、ヒトは魔族に恐怖を覚える者がほとんどだ。
エメラに怯えたボンゴレがよい例だろう。
実は、それは魔族も同じではある。
魔族は大多数のヒトは恐れてはいないが、そこに突出した少数の実力者がいることは学んでいるため、それらに恐怖を感じている。勇者に魔王を倒されたのだから当然と言えるが。
そして、魔王との戦争が終わったあと、ヒトは飛躍的に発展を遂げ、今やユグドラシルで最も多い種族となり、その脅威は言うまでもない。
だからこそ、今でもヒトは他種族から恐れられている。
そして、ヒトに実力者が生まれやすいというのは、言わば確率の話だ。
母数が他の種族と比べて圧倒的なヒトから少数とは言えど実力者が生まれるというのは言ってしまえば当然の話だ。
そのため、結果的に見ればヒトに実力者が生まれやすく、数打ちゃ当たるという言葉がまさに的を射ている。
ヒトは大多数は弱くても、少数は強者がいるというのはそういうことなのだ。
長い説明に付き合って頂きありがとうございました!
次回は会話文を入れ、話を進めていきたいと思っているのでこれからもこの作品をよろしくお願いします!