第四十四話奴隷7
服屋から宿へと帰り、1日が終わった
ユリィは宿の食事が感動だったらしく、泣きながら食べていたほどだ
さらに、部屋に感動し、ベッドに感動しと少し感情の移り変わりが忙しく、疲れたのかすぐに寝てしまった
ちなみに部屋は六人部屋であり、一人ずつベッドがある、とても広い部屋だ
染み一つない床や壁、内装は豪華だが、けっして派手すぎずむしろ奥深い感じだ
天井にはシャンデリアのようなものが部屋を照らしている
もちろん、この世界には電気がないためこれは魔法の光だ
魔法の込められた道具のことを魔道具という
魔道具は魔道具職人という職業の人達がつくった物のことであり、この世界に広く浸透している
ただし、魔道具はかなり値のはるものが多く、庶民にはおいそれと手を出すことは難しい
そんな魔道具を使っているのがこの宿の格式の高さを物語っている
庶民には最低でも、数年はお金を貯めないと買うことが難しいのだ。
そんなものを買うよりも、畑を耕すことのほうが大事だ
閑話休題
「みんな、おはよう。さて、朝ごはん食べたら早速噂の奴隷商に行こうか」
《はい!》「にゃ~」
夜をしっかり寝たことでみんな(チコ含む)朝から元気いっぱいだ
鐘がなり、朝のはじまりを告げる
朝ごはんを食べ、外にでると人々があわただしく歩を進めている
「たしか、こっち方面だったよね…」
ワークルに教えてもらった場所を思い出しながら道を進んでいく
数分歩いて行くと今までいた雰囲気とは違う空気を感じる
ここが貧民街と呼ばれる治安の悪いところだ
ここはその名前の通りに住民は貧しい者が住んでいるところだ。
ただし、ここは他の都市や町と比べて犯罪が多発するようなところではない
そのため、治安は悪いとは言えないが……まぁ良いとも言えないのだが
貧民街に入ったところで視線を感じるようになった
こちらを値踏みする、あまり好ましくない視線だった
ただし、ハクト達に絡もうとする者はいなかった
(てっきり、誰かしら絡んでくると思ってたんだけど……)
シルフィアのような美人を連れているため難癖をつけて絡んでくる人がいるかと思っていたがそんな面倒ごとに巻き込まれなくてよかった
これには理由があり、何故かというとハクトが有名人だということだ
たった1日でSランクになり、先日『雷神』に勝ったということはこの都市では知らぬものがいないほどだ
そんな圧倒的実力者に絡むような勇気、いや蛮勇は持ち合わせていなかったということだ
「お!あれがワークルの言っていた店かな?名前もあってるね」
『ボンゴレ奴隷店』という看板がある店にきた
ワークルの店とは違い、清潔にはなっていないのは一目瞭然な店だった
もともと、この貧民街が決して綺麗とはいえない場所のため、まあこの光景は不自然ではないのだが
ちなみにワークルの店の名前は『ワークル奴隷店』だ
この都市では、店主の名前をそのまま店名にする場所があり、実際そうしている店も多い
店と店主の名前を分かりやすく知ることができるためだ
例に漏れずこの店も店主の名前が店の名前になっているとワークルに聞いたので間違いはないだろう
「ハクト様、このお店は大丈夫なのでしょうか?」
「まぁ店として営業してるんだから大丈夫だろう」
シルフィアが不安そうにハクトに訪ねるがその心配もわかるほどワークルの店と落差がひどかった
「さて、では入ろうかな」
ハクト達が店のなかへ入ると、こちらに気づいた人がこちらへ来る気配がする
「ようこそいらっしゃいました。ボンゴレ奴隷店へようこそ」
「あなたが店主のボンゴレかな?」
「その通りにございます。本日はどのような奴隷をお求めでしょうか?」
店主の言葉づかいが丁寧だったことに少々ハクト達は驚きつつも、今日の目的を告げる
「あなたの店に素晴らしい才能をもった子がいるという噂を聞いてきたんだよ」
「ハクト様!あいつを買ってくださるのですか!?」
「あいつ?」
「あっ!失礼しました。それでは……ハクト様だけこちらへついてきてくださいますか?お連れの方々はこちらの部屋でお待ちください」
そういってハクトだけを連れてボンゴレに案内される
「ハクト様、今からその奴隷にお会いになってくださいますがその奴隷は少々…いや、かなりいわくつきの奴隷となっています。」
「その子は呪いでも受けているのかい?」
「それが…わかりません。あいつを買った者達はみな死んでおります。まるで、呪いを受けたかのように。ただし、あいつは呪いをもっていないと判断されました。なので、なぜこのような惨事が引き起こされるのか検討もつきません」
「その死因は?」
「……まるで、寝ているかのように息をひきとるといったものです。」
「ふむ……それに、なにか特徴とかはなかったかい?」
「特徴…ですか……あっ!死んだ者達の特徴は魔力が一つも残っていなかったようです」
「魔力が無くなっても死ぬほどのことにはならないはずだよね?いや、そうなると……もしかしてその奴隷は人間種じゃなかったりする?」
「獣人では外見からみて、ないと思いますが……なぜ、そんなことを?」
「いや、その奴隷が魔人ではないかと思ってね」
「魔じっ!いや、ですが鑑定したときには人種だったはずなのですが……」
「鑑定したんだね……それを偽装した可能性は?」
「偽装ですか…それはレアスキルだと記憶しております。ですがそんなスキルをもっている者は……」
「いないとは限らないよね?」
「たっ確かに…っと!この部屋にあいつはいます。おい!お客様だ!」
店主の声に反応してこちらへと人がくる気配を感じる
部屋は真っ暗であり、店主であるボンゴレがあかりをつけることでようやく部屋の中が見えることができた
と言ってもハクトは実はどれだけ暗くてもあたりを昼のような明るさで見ることができる『暗視』のスキルが『神の目』に備わっているため明かりは必要ではないのだが
「こちらがその奴隷でございます。名前はございません。」
「ずいぶん痩せているね?」
そう、今目の前にいる奴隷はひどく痩せ細っていた。
「それが…こいつはなにを食わせてもずっとこんな状態なんです」
「ふむ、鑑定しても?」
「ええ、構いません」
「それでは、『鑑定』!」
(本当は『解析』だけども…)
鑑定の上位スキルである『解析』をもっていることはわざわざ言わなくてもいいだろう
(さて、彼女の正体は…っと)
「なにかわかりましたか?」
「ああ、彼女がいつまでも痩せ細っている理由と種族がわかったよ」
ハクトの答えを聞いて驚いたのか奴隷はハクトへと目を向ける
「おお!それはいったいどのような!?」
店主も長年の悩みがこれで解決するのでは?と期待をこめてハクトへ訪ねる
「君の正体は、ヴァンパイアだね?」