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瑕疵症候群  作者: 鯉々
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第6話:幽鳳様が見てる その③

 明らかに異常な物が現れているにも関わらず、ここの信者達は歓喜の声を上げていた。

 何なんだこれ……何でこんな変なの崇められるんだ……おかしいだろ……。

「かしのん! 凄いよあれ!」

 隣で多田敷さんが興奮した状態で話す。

 確かに凄い……でも、こういう凄さは私は望んで無いぞ……。ただの宗教団体だと思って甘く見ていた。これは……マジのやつだ。これは……これは……。

「フレンド達! 幽鳳様は今日も全員の善行を見守ってくれている様ですよ!」

 教祖の言葉を聞き、信者達はその場に跪き、何やら感謝の言葉の様なものを発しだした。

 私は隣にいる多田敷さんの服を摘まむ。

「……帰ろう。こんなの……おかしい……」

「え? でもこれ結構なネタになるよ? 雑誌のネタとしてもかしのんの漫画のネタとしても」

 相変わらず彼女はこういうのに対して耐性が強すぎる。幽霊とか見ても普通に友達になろうとする事もあった位だ。

「そういうのいい……とにかく出よう。無理、もう……」

 私の様子を見た多田敷さんはいつもと違う様子に気付いたのか、静かに立ち上がり、他の者達にバレない様に外へと連れ出してくれた。



 外に出てあの異常存在がいた場所を見上げて見たものの、どこにもそれらしいものは見当たらなかった。

 いつもの私なら、立体映像か幻覚剤の類を疑うところだったが、今回ばかりはそうは思えなかった。

「かしのん、大丈夫?」

「……大丈夫じゃない。多田敷さんも気付いてるんでしょ?」

「まあ、気付いてるっちゃ気付いてるけど……」

 彼女はそれがどうしたという顔をしている。

 何故そこまで落ち着いていられるのだろう……気付いているのなら、普通は取り乱すと思うが……。

 私は空を見上げる。

「……今、見られてるよね?」

「うん」

 私が感じていた違和感はこれだった。

 さっきあの赤い何かが現れてから、ずっと私は異常な視線を感じていた。

 明らかに見られているのだが、どこにもその視線の主が見つからず、時にはどこから見られているのかすら分からなくなっていた。

「これ、さ……あの赤い奴が原因って事でいいの……?」

「だと思うよ? 見守ってくださるとか言ってたもんね?」

「……多田敷さん。ちょっと場所移そう……ここは駄目だ……」

 私は多田敷さんの手を引いて歩き出した。

 理由は一つだ。少しでも視線を感じる場所を減らしたいという事だ。

 この場所はさっきの建物の入り口や近くにある山にはいくつもの木が生えている。

 つまり……視線を感じる場所が多いという事だ。隠れる事が出来る場所が多い程、視線の数を感じるのだ。

「あはは。何か変な感じだね~?」

「……笑い事じゃないよ。ただでさえ、監視社会なんだ。これ以上監視されて堪るか……」

「いやそういう事じゃなくてね。いつもは私がかしのんを引っ張る事が多いじゃん? でも今は逆だなーって」

 言われてみればそうだ。今までは私が引っ張られる側だった。

 多田敷さんはいつでも私の味方でいてくれて、彼女の側は居心地が良かった。だからなんだろうか……彼女には側に居て欲しい……。

「そうだね……たまにはこういうのもいいでしょ……」

 私は震える声を抑えながら返事をする。

 こうしている間にもまだ見られている感覚がある。だが、どこから見られているのか分からない。確かに視線は感じるのだが、場所が分からない。


 しばらく歩いていると、近くにコンビにがある事に気が付いた。

 私は多田敷さんの手を引いたままコンビにへと入っていく。

「いらっしゃいませー」

 いつもの様に店員が挨拶をしてくる。軽く会釈をしてもいいのだが、今はそれどころではない。

「……トイレどこですか?」

「え? トイレでしたら、あちらの奥にありますよ」

 私は必要最低限の会話を済ませると、そのまま二人で一緒にトイレへと入っていった。

 コンビニのトイレという事もあってか個室は一つしかなく、二人で入るには少し狭かった。

「ちょ、どうしたの?」

「……ここなら、視線の方向を制限出来る。目の前の扉にだけ気を付けてればいい……」

 両サイドと後ろが壁に囲まれているここなら視線の方向をある程度は制限出来る。そう考えてここに入ったのだ。

 しかし、問題はこれからどうするかだ。このままだとずっと視線を感じながら過ごさないといけない。そんなのは絶対に無理だ。ノイローゼになってしまう。

 やはり、あれの正体を調べて対処するしかないのだろう。

「多田敷さん。頼みたい事があるんだけど……」

「何?」

「編集部に電話して、あれについて調べてもらえる……? 何か関連した資料とかあるかも……」

「幽鳳様の事を? じゃあ聞いてみよっか?」

 多田敷さんは携帯を取り出し、編集部に電話を掛け始める。

「……あ、もしもし多田敷です。はい。……はい。ちょっと調べて頂きたい事があるんですが……」

 多田敷さんは事の経緯を話し、あの異常存在の事を説明した。

「はい。はい。じゃあこのまま携帯つけたままにしときますね?」

「……どうだった?」

「うん。調べてくれるって」

 よし……これで少しは対処するのが早くなるだろう。一応こっちでも対処法は考えておかないとだけど……。

 まずあれの正体についてだ。

 あれは不気味な程に真っ赤で、完璧過ぎる程に丸かった。ただその時に少し気になったのが、あれには立体感が無かったという事だ。

 普通は離れた位置にある物でも立体感はある筈だ。だというのに、まるでその空間に貼り付けたかの様な存在感だった。

 いったいどうなってるんだろうか……映像を映写してる感じでもなかった。

 その時、鳥肌が立った。

 明らかに視線が来る場所は前の扉位しか無い筈なのに、天井や便器の中からも誰かが見ているのを感じた。

 初めからここは安全ではなかったのだ……。

「多田敷さん……」

「うん?」

 私は多田敷さんの手を掴むと、飛び出す様にトイレを脱出し、コンビニを出て行った。

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