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瑕疵症候群  作者: 鯉々
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第3話:生誕放送 その③

 多田敷さんがスマホで調べ始めてからどれ位経っただろうか?

 私の耳には相変わらずあの声が聞こえ続けている。このままでは気が狂いそうだ……怖すぎる……こんなの耐えられない……。

「あったよ! これだ!」

 多田敷さんがスマホの画面を指差す。

「近くに水子を祀ってる古い神社がある! もう大分前に管理する人がいなくなったみたいだけど……」

 それだ。多分それ。

 理由は分からないが、恐らくそこに祀られている魂達がこういう事をしているんだ。

 私の右手の中指は先程よりも欠けた部分が大きくなっており、ジワジワと体を上って来ているかの様だった。

 もうあまり時間が無いかもしれない。事態は一刻の猶予も無い。

 私は震える足を何とか抑えながら立ち上がり、声を絞り出す。

「たっ、多田敷さん……行こう……車あるよね?」

「えっ? 今から、そこに行くの!?」

「もう今の情報に全てを賭けるしかない……これ以上放置したら、何が起こるのか……予測出来ない」

 それを聞いた多田敷さんは跳ね上がる様にして部屋を飛び出していった。

 古い付き合いだから分かる。彼女は車を用意しに行ったのだ。

 彼女はいつだって、私の味方でいてくれた。どんな時でも私の味方だった。

 私は一応必要かもしれないと考え、ラジオと仕事道具を鞄に突っ込み、後を追う様にして家を飛び出した。



 車に乗り込んだ私達はスマホの地図を確認しながら、件の神社へ向かっていた。

 幸い夜中という事もあってか、通りに人の姿は無く、途中で車を止めて地図を確認しても怪しまれなかった。

「かしのんは、この現象は水子が起こしてるって考えてるの?」

「そ、それしか思いつかない。とりあえず、今はそれに賭けるしかない……」

 私は震える手を抑える。

 大丈夫……何とかなる……何とかなる筈……。



 しばらく走り続けた私達は街から少し外れた場所にある神社に辿り着いた。

 神社は長い間管理されていないためか、そこかしこが酷く痛んでおり、見るも無残な姿であった。

 私の右腕は手首の辺りまで欠け始めていた。そしてその隙間からはあの不気味な目がこちらを凝視していた。それも一つや二つではない。確実に10個以上は確認出来た。

 私は急いで車を飛び出し、神社へと進む。

「あ! ちょ、ちょっと! 一人で行ったら危ないって!」

 多田敷さんは少し遅れながら車を出て、私の後へ付いてきた。

 私は鳥居を見上げる。

 ボロボロになっている神社そのものと比べると、不気味なほどに綺麗だった。

 まるで、これだけ誰かが管理しているかの様な……。

 いや、そんな事を考えていても仕方が無い。

 私はこの身に纏わりつく現象と恐怖を取り除くべく、鳥居を潜り、神社の敷地内へと侵入した。

 しかし、その時だった。

 ゆっくりと進行していた筈のあの現象が、突然進行スピードを上げたのだ。

 予想外の事態に私は反応が遅れてしまい、パニックを起こしそうになる。

「っ!!? あっ……!」

 脈が跳ね上がるのが分かる。呼吸が止まりそうなのが分かる。頭が真っ白になるのが分かる。私が……消えそうになるのが分かる。

「かしのんっ!!」

 多田敷さんが私の腕を掴み、声を上げる。

 その声のおかげか、私は何とか意識を保つ事が出来た。

「こっち!」

 私はそのまま引っ張られ、神社の奥へと移動していった。彼女は何に気付いたんだろうか?


 多田敷さんに引っ張られた私は拝殿の前に辿り着いた。

 なるべく冷静になって見てみたが、特におかしい所は見当たらない。よく見る普通の神社だ。

 ただ、少し気になるところといえば、境内にゴミが落ちているというところだろうか。

 誰も管理する人間が居なくなったという事もあって、勝手にゴミを捨てる人間が増えたのだろう。別に珍しい事でも無い。住んでる人間の人間性が悪いだけだ。

 ここで私の頭に小さな電流が走る。

 もしかして、これが原因だろうか? このゴミが原因……?

 私は試しに近くにあった空き缶を拾い上げる。

 すると、私の腕を上ってきていた現象が少し遅くなった。

 これだ。管理されなくなった事によって神社の神性が無くなって、外に出ようとする水子達を抑えきれなくなったんだ。

 そうと分かれば、やる事は一つだ。もう迷う必要は無い。

「かしのん、大丈夫?」

「……多田敷さん。ここの掃除をしよう。多分……それで大丈夫な筈」

「え? あ、うん。分かった」

 多田敷さんはよく分かっていない様だったが、私に言われるままに掃除を手伝ってくれた。



 それからしばらくの間、私達は掃除に専念し、散らかっていたゴミを車に運び込んだ。

 時計を見る暇も無かったため、どれだけの時間を使ったのかは分からなかったが、何とか全てのゴミを片付ける事が出来た。

「これで……全部かな……」

 ふと右腕を見ると、あの現象は完全に止まっており、元通りになっていた。

 私は助かった安心感からか足の力が抜け、その場にへたり込んでしまう。

「ちょ、大丈夫!?」

「あ、ああ……うん……大丈夫……」

 私は拝殿に目を向ける。

 やはり相変わらずボロボロだ。

 ……これじゃあ、水子達も報われないな。

 何故この神社は管理者が居なくなってしまったんだろうか? 普通は誰かが管理するものだが……。

 気になるところではあったが、これ以上は関わるのは止めておこう。私は一度標的にされたのだ。もうマークさているだろう。

「ごめん。ちょっと肩貸して……」

 私は多田敷さんの肩を借り、車へと戻り、そのまま家へと帰った。




 今になって私は考える。

 あの時私に起こっていたあの現象……あれがもしあのまま進んでいたらどうなっていたのだろうか。

 これは推測に過ぎないが、恐らくあのまま進行すると、私の体は全く違う存在……つまりは、あの神社に祀られていた水子達の誰かになっていたのだと思う。

 この世に産まれる事が出来なかった彼らにとって、私達は相当羨ましい存在だろう。それこそ、入れ替わってしまいたい程に……。

 しかし意外なのは、ラジオを使ったという点だ。

 これはつまり、彼らはこちらの事を何らかの方法で見ているという事だろう。そうでなければ、ラジオを使う方法なんて思いつかないし、私達の名前を知る事も出来ないだろう。

 ……いや、これ以上考えるのはよそう。また怖くなってきた……。

 あれからというもの、私はラジオのスイッチを入れない様にしている。

 本当の事を言うと、ラジオを身近な場所に置くのも嫌なのだが、あの現象を起こした重要な道具という事もあってか、多田敷さんが手放させてくれない。

 まぁ、元からラジオはそんなに聞く方じゃないし、そこまでの痛手でも無いかな。


 さて、と……そろそろ仕事を始めよう。

 折角だし、今回体験した事を題材にして描こうかな。

 題名は……そうだな……彼らに敬意を表して、『生誕放送』というのはどうだろうか……。

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