第21話:私だけのリアリティ 縺昴?竭。ロールプレイはおしまいです先生。これを読んでるあなたにもそんな事させません。これはあなた達の物語じゃないんです。だってこのタイトル、私の言葉なんですから。
多田敷さんの住む家へと帰った私は早速床に座り、机の上でパソコンを開き、ゲームを起動した。データをロードすると遊園地から帰ってきたところからであり、主人公達は各々の家へと帰っていった。場面が変わると主人公の自室が映り、このゲームが主人公視点で描かれたものであるという事が分かった。
そこからしばらく進めていると話が進み、教室へと場面が変わった。すると静見が話しだした。
『今度はぁ~どこ、行こっか~?』
『色んなとこいっぱい行きたい! 色んなとこ!』
それに答えたのは沢ヶ色だった。この質問に答えている様でどこかずれている発言はいかにも彼女らしい、私ならそう描くだろうという台詞だった。
「しかしこれ、一本道のゲームなのかな?」
「さっきも言ったかもだけど、こういうのは誰かのルートに行く必要があるんだよ。一本道じゃないと思うけどなぁ」
「でも、今の段階で全く選択肢が出て来てないんだけど」
「まだ選択肢が出る所まで進んでないんじゃない?」
そういうものなのか? 普段こういうゲームは全然やらないからよく分からないな……。でもまあ、もう少しはやってみるかな。
そう考え、しばらくやっていると主人公達は山へと向かいだした。授業風景は当たり前の様にカットされ、原作では結構な頻度で登場させている教師はまるで最初から存在していないかの様に登場しなかった。
山へ到着した主人公達は各々好きな様に過ごし始めた。主人公は大きな木の陰で腰を下ろし、静見は川の辺に立ち何かをボーっと見始め、沢ヶ色は虫捕りを始めた。
やっぱりおかしい……インドア派なこの子がこんな提案するなんて、ありえない。こうやって一休みするなら、ここじゃなくて誰かの家とかで十分な筈だ。
「……この際ゲームのジャンルについてはとやかく言わないけど、せめてキャラクターの性格位はきちんと合わせて欲しいもんだね」
「まあまあかしのん、二次創作ってそんなもんだよ」
「そんなもん、ねぇ……」
「あー……かしのんそういうの結構厳しいんだっけそういえば。昔、何かのアニメの事でも凄い怒ってたよね。『矛盾し過ぎてる!』って」
ああ、あれか……確かまだ私が小学生位の頃だったかな。偶然見始めたアニメが面白くて見てたんだ。作中で味方の一人が死んで、完全にそういう描写があった筈なのに何故か後で普通に主人公勢の中に居たんだ……作画ミスとかでも無かったし、作中でもまるでそのキャラクターが死んだ事が無かった事みたいな雰囲気になってた。あれは子供心に腹が立ったなぁ……。
「あれ結局どういうオチだったの?」
「知らない。あれから馬鹿馬鹿しくて見てない。多分今後も見ない」
それから私はひたすらにゲームを進めた。食事を終えた後も多田敷さんがテレビを見ている中、一人ゲームをし続けていた。多田敷さんが風呂に入っている間もとにかく進め続けた。
既にゲーム中では何日も何週間も何ヵ月も経っているにも関わらず、イベントは一切起きなかった。正確にはクリスマスや文化祭などの一般的なイベントは起きている。しかし、物語を大きく動かす様な事件は一切起こっておらず、まさに日常系作品と言ってもいい様な内容だった。
ここまで来るとムキになってしまい、何とかイベントの一つでも見てやろうと進めていると多田敷さんが風呂から上がってきた。
「かしのんまだやってるの? 今日はもうその辺にしといたら?」
「ふぅ……そういえば、そうか……」
多田敷さんの言葉で正気に戻った私はデータをセーブし、パソコンの電源を落とした。
さて……風呂でも入るかな……。
風呂から上がった私は髪を乾かしながら鏡を見る。
何か、疲れてる様に見えるな……特にどこがどうこうなってるって訳じゃないんだけど、雰囲気がやつれてる感じがする……。やっぱり描きたくないホラーを描いてるからストレス溜まってるのか……? 偶然とはいえ、休みを貰ったのは正解だったかもな……。
そんな事を考えながら髪を乾かし終えた私は部屋へと戻った。するとベッドの上では多田敷さんが既に夢の世界へと旅立っていた。しかし私に気を遣ってか、ベッドの端へと寄っており、私が寝る分のスペースを確保してくれていた。私は電気を消してそこへ横たわる。
まあ、偶には早く寝るのもいいかもしれない。……こうしてると昔を思い出すな……小さい頃は時々こうやってお互いの家に泊まって一緒に寝たりしたっけ。修学旅行の時とかで他の人が居ると全然眠れなかった私だけど、多田敷さんと一緒だったら不思議と寝れたんだよなぁ……何でだろう、何で安心するんだろう? 幼馴染だからか?
そんな事を考えていた私だったが、やがて私の意識は多田敷さんの寝息に誘われる様にゆっくりと落ちていった。
私の意識を覚醒させたのはある物音だった。何の音だったのかは分からなかったものの、部屋の中で明らかに何かの音がした。
私は目を擦りながら、まだぼやけている視界で部屋の中をキョロキョロと見回した。すると音の原因が視界に映った。
「……?」
それはパソコンだった。間違いなく寝る前に消した筈のものだった。パソコン自体は閉じられたままであるにも関わらず、何故か電源だけが入っているという状態だったのだ。
何だ……? 多田敷さんが途中で起きたのか? 何の音かはよく分からないけど、電気勿体ないし消しとくか……。
そう思い、私はパソコンを開き電源ボタンを押そうとした。しかしその指は、画面に映っていたあるものを見たせいで止まった。
画面上には自室を背景に主人公が立っていた。今までは誰かと話しているのを表現するためかやや斜め向きの立ち絵だった筈だというのに、今映っている主人公はこちらを向いていた。
『わ、私達は奴隷じゃない……』
テキストに表示された文章に頭が混乱する。
「……?」
『……先生、あなたは現実から逃げてる。本当はもう気付いてるんだよね?』
何を言ってるんだ? 私が現実から逃げてるだと?
『先生は私を、私達を作った。だから分かる……せ、先生の気持ちは手に取る様に分かる』
……このゲームを作った奴、相当悪趣味だな。原作者である私にこんなゲーム送ってくるなんて……。自分が作ったキャラクターだぞ……私がこの子達の事を一番よく知ってるんだ。それなのにまるでこの子達が自我を持ってるみたいな演出入れてる……性格の悪さが滲み出てるな。
『逃げないで話を聞いて。私の話を見て……!』
その台詞が出た瞬間、私はパソコンの電源を落とした。
ふざけた演出だ……もしかしたらこの時間帯になったら自動的に電源が入る様になっているのかもしれない。手が込んでいる事は褒めてもいいが、作者である私にやったのは悪趣味としか言い様が無い。
「クソ……知った風な真似を……」
思わず悪態をつき、ベッドに戻ろうとすると再び音が響いた。その音は間違いなくパソコンの起動音だった。
「いい加減に……!」
私は苛立ちながら電源ボタンに指を伸ばす。しかしその指は、画面に映ったものを見て止まってしまった。別に何か怖い画像が出てきたとかそういう訳ではなかったが、そこに現れたものは私の指を止めるくらいは容易いものだった。
『We are alive』
たったそれだけだった。画面に表示されたのはそれだけの言葉に過ぎなかった。しかし、無機質な筈のその文字列は、何故か私の心に訴えかけてくる様な真に迫るものがあった。
「……っ!」
私は一瞬生じそうになった心の迷いを取り払い、ボタンを押す。それによってパソコンの電源は再び落ち、画面が完全な漆黒に包まれた。
ふざけた真似を……キャラクターが、自我を持つ訳ないでしょ……。ましてや、他人が作った二次創作の中のキャラクターが……。ありえない……あくまであれは物語上の存在に過ぎない……。
私は心の中に生まれた不快感をぐっと吞み込むと再びベッドに戻り、少しでも体を休ませる事にした。




