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瑕疵症候群  作者: 鯉々
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第2話:生誕放送 その②

 噂の真相を確かめるため、私達は夜まで待ち続けた。

 正直言って今にもこの場から逃げ出したかったが、恐らく彼女がそれを許さないだろう。

 私がしようとする行動は全て彼女にはお見通しだ。

 ちらと時計を見る。

 現在の時刻は深夜の2時。

 何故こんなオカルトのために食事を抜かなくてはならないのか。

 一度キッチンに行こうとしたものの、多田敷さんに腕を掴まれ止められてしまった。

 どうやら私が逃げる可能性を考慮しての事だったのだろう。

「そろそろだね」

 多田敷さんがラジオのスイッチを入れ、ダイヤルを捻る。

 こんな深夜だというのにまだ放送している番組があるらしく、時々人の声が入った。

 別にこれは大した事では無いのだが、オカルトが苦手な私にとっては苦痛でしかなかった。

「えっと……この番号かな?」

 多田敷さんは周波数を444に合わせた。

 444……死死死か。

 普通なら安直だなと笑う所だが、もしかしたら本当なのではないかという考えが浮かんでしまって、酷く恐ろしく感じてしまう。

「絶対ガセだよ……」

 私は自分に言い聞かせる様に口に出す。

 そんな私を見て多田敷さんはクスクスと笑う。

「もー怖がりだなーかしのんはー」

 笑い事じゃない。下手したら寝れなくなるんだ。酷い時には食事も喉を通らなくなる。

 私にとって、オカルトはそれだけ苦手なものなんだ。


 多田敷さんが周波数を合わせてから数分ほど経っただろうか?

 突然ノイズが途切れ、人と思しき声が聞こえ始めた。

 私は噂が本当だったという事に恐怖を覚え、ゆっくりと立ち上がり、多田敷さんの横に座った。

『明日の生誕者は以下の方々です。時任未来ときとうみらいさん。田畑耕介たはたこうすけさん……」

 次々と人名が読み上げられていく。やはり噂は本物だった様だ。

 何と厄介な事をしてくれたのだろうか。

 私は漫画家だ。

 霊能力者でも祈祷師でもオカルトハンターでも無いんだ。

 こんなのネタ云々以前の問題だ。いくらなんでもヤバ過ぎる。

「凄いね、かしのん! 本当だったみたいだよ!」

 多田敷さんが興奮を抑えきれないといった様子で喜んでいる。

 何故ここまで喜べるんだ。

「よし本物だったねじゃあ切ろうそうしよう」

 ラジオに伸びた私の腕を彼女が掴む。

「だーめ。最後まで聞こうよ」

 冗談でしょ?

 もう分かったんだからいいじゃん。

 何で危険な領域に足を突っ込もうとするの?

『……さん。樫野優さん。皆様に幸多い人生があらん事を』

 な……に……? 今、何て言った……? 樫野……私の名前を言った……?

「あれ? 何でかしのんの名前が出たんだろ?」

 多田敷さんがラジオを掴み、持ち上げる。

 どうやら放送は終わったらしく、再びノイズが鳴り始めた。

 直感で分かる。これはマズイやつだ……。

 

 部屋の中にしばしの沈黙が訪れる。

 そんな中最初に口を開いたのは多田敷さんの方だった。

「おかしいね、かしのん。かしのんは今23歳だよね?」

「……聞かなくても分かるでしょ。多田敷さんと同じだよ」

 なるべく冷静に答えたつもりだったが、恐らく声が震えていただろう。自分はそういうのを隠すのが得意な人間では無いという事はよく知っている。

 私は少し落ち着くためにカップの中に入れていたコーヒーを飲もうとし、カップを持つ。

 だがその行為は、むしろ私を恐怖へと突き落とす行為だった。

 コーヒーに、人の顔が映っていた。

 どう考えてもこれは私の顔ではない。

 じゃあ、これはいったい誰だ……?

 私は震える手を必死に抑えながら、カップをテーブルに戻す。

 何かの……そう、何かの見間違えだ。そうに決まってる。

 人間は精神的に追い詰められた時、幻覚を見るとされている。大体の幽霊の正体がこれだ。

 だから、今のもきっとそう。


 私はとにかく、今のが全て気のせいであると自分に言い聞かせた。

 そうでもしないと正気を保てそうになかったからである。

 だが、ふと自分の右手の中指を見ると、皮膚が小さく欠けていた。

 捲れているとかではない。まるでそこだけポロッと落ちたかの様に欠けていたのだ。

 そして、その欠けて出来た隙間の向こう側から、何かの小さい目がギョロッとこちらを見つめた。

 私は恐怖のあまり声も出せなかったが、隣に居た多田敷さんは私の異変に気付いた様だった。

「どうしたの? 何かあった?」

 私は左手を震わせながら右手中指を差す。

 そして私と同じ物を見た多田敷さんはハッと驚いていた。

「ど、どうしたのこれ!? それ……何なの!?」

 そんなもの分かる訳が無い。分かっていたらこんなに怯えない。いや怯えるかもしれないが、少なくとも少しは安心出来る。

 あ……マ……マ……ぅ……。

 最悪だ。聞こえてしまった。今のは完全に空耳ではない。

 私の体の内側から聞こえてきた。

 何かが……私の中に居る……。

 私は振り絞る様にして声を出した。

「たっ、多田敷さんっ……スマホ……調べて……」

「えっ? な、何を?」

「今……聞こえた……ま、ママって…………近くで子供に纏わる何かがないか……調べてっ……!」

「わ、分かった! ちょっと待ってね!」

 多田敷さんは鞄の中から急いでスマートフォンを取り出し、検索をかけ始めた。

 お願い……急いで……声が段々近くなってきてる気がする……。

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