第18話:縺昴%縺ォ螻?k閠 縺昴?竭。
まだかな
あの不気味な男が他の番組にも映っている可能性を考え、私は次々とチャンネルを回す。旅番組、サスペンス物、ニュース、お笑い、どのチャンネルを回してみても必ずあの男が映っていた。ただその場に立ち尽くし、あの気味の悪いギョロ目をしたままこちらを見詰めていた。
本当に……何なんだこいつは……私だけが見えてるの……?
疑問に思った私は即座にノートパソコンを持ってくると机の上で起動し、様々なネット掲示板やSNSにアクセスした。しかし、私以外にあれを見たと思われる人間の書き込みはどこにも無く、それに該当する様な都市伝説もヒットはしなかった。
……いよいよおかしくなったかな……色んなオカルトに触れ過ぎたかな。だとしたら最悪だ……気色の悪い男がずっとこっちを見てきてるってキツ過ぎる。
「いや……待てよ……」
私はある事を思い出し、検索を掛ける。
そうだ、いつだったか話題になってた都市伝説、あれに似てる気がするな。確か『This Man』だったか。世界中の人間の夢の中に突然現れるとかいう話だった。偶然ネット中にあれを見てしまった時は画像を貼り付けた奴に軽く殺意を抱いたが……。真相は定かじゃないけど、あれはどこぞの研究機関が情報の広がり方を調べるために広めた噂だって聞いた事がある。あくまで噂だから本当かは分からないけど……あれに似てる気がする。
そう考えた私はオカルトについて話し合っている掲示板を開いた。普段ならこんな所絶対に立ち入らないが、何か少しでも対策案が見付かるかもしれないと考えていた。
そこでは、やれUMAがどうの、やれUFOがどうのという話が繰り広げられていた。そんなのある訳ないだろうと言いたいところだったが、こういう場所でそういう発言をするのは確実に叩かれるし、何より私自身がそういうオカルトに遭遇してしまっているため、言いたくても言えなかった。
「……仕方ない、聞いてみるか」
私は情報を得るため、自分が体験した事を掲示板に書き込んでみた。少しの間返信は無かったが、数分後ついに私の書き込みに返信が来た。
『聞いとくけど病院の世話にはなってないよな?』
まあ普通は病気を疑うか……精神病の患者の中には他人には見えない物が一人だけ見えている事もあるらしいし。
『待って欲しい。そういうのじゃない。どのチャンネルを回してもどこかしらかに映ってたんだ』
本当は漫画の原稿にも居たけど黙っておこう。もし私が漫画家だってバレたら『頭のヤバイ漫画家』扱いされかねない。
『昔一人だけ違う映像が見えてた奴がいてだな……』
『何それ?』
正直今にも心臓が止まりそうだ。何が嬉しくてこんな所に書き込まなきゃいけないんだろうか……あんなもの見なければ今頃はのんびり過ごせてたのに……。
『これ』
その書き込みの後には、数年前のとある掲示板の書き込みのコピーが貼られていた。内容はとあるドラマのプロモーションとして撮られた動画が妙に怖いというものだった。しかしその中に一人だけ違う映像が見えている人物が居た様だった。
「一人だけ……」
まさに今の私と同じ状態だ。その人物も自分だけが見えているという状況に怯えているみたいだ。これが見えていた彼は病気だったのか? それとも何かしらのヤバイものに憑かれてたか……。
『何ていうかこれとはちょっと違うかも。自分が見たのは普通の番組だった。そこに妙な男が毎回映ってるんだ』
『どっか変なとこに行って憑かれたんじゃね?』
縁起でも無い事言わないでよ……NOと言い切れないせいでありえるんだから……。
『ないないそれはない』
『落ち着けよ。お前が見たのってどんな見た目?』
思い出したくも無い……でも、何か掴めるかもしれない。
私はあの時見た男の詳細な見た目を書き込んだ。服装、髪型、表情、とにかく覚えている限りを書き込んだ。
『何かあれだな。夢男に似てね?』
その言葉を見た瞬間、私の背中に悪寒が走る。夢男、間違いなく『This Man』の事だった。
『やめろ、あれはマジでやめろ』
『あれはどっかの実験だって話じゃなかったか?』
『それもガセの可能性あるけどな』
『お前らがお望みと聞いて』
その書き込みの後にはとあるリンクが貼ってあった。しかし、わざわざ開かなくてもそこに何が貼ってあるかは理解出来た。いちいち見ずとも本能で分かる。
『マジでそういうのいいから』
『怒るなよwww でも実際そういう話って割とありがちなオカルトではあるよな』
ムカつくな……まあありがちなオカルトっていうのは同意出来る。ホラーの題材としても結構あるがちなやつだ。ただ『ありがちである』という事は即ち、それだけ人間の本能的に怖いという事でもある。
『皆の中には同じの見た奴居ないのか?』
私がそう書き込んでから何故か書き込みが少しの間途絶えた。先程まではこちらの書き込みに対して早目に返信があったというのに、何故かプツリと途絶えてしまった。
「回線が乱れたかな……」
そう思い、ネットワークの接続を確認しようとしたその時、新たな書き込みがあった。しかし、そこには文字は一つも無く、代わりにいくつもの記号で作り出されたあの男の顔があった。
「っ!?」
私は突然の事に床を蹴る様にして椅子から転げ落ちてしまう。それはアスキーアートと呼ばれるもので、こういう掲示板などではよく見られるものだった。しかし、それは妙に完成度が高く、まるで私と同じものを見たかの様な再現率だった。
私は立ち上がると、なるべく画面から目を逸らしながら書き込んでいる人物の名前とIDを確認した。名前は他に書き込んでいる人達と同じで『名無し』となっていたが、何故かIDは文字化けをしていた。
新たに書き込みがある。
『何か今書き込めなかったんだが』
『混線か?』
『おーいさっきの奴大丈夫かー?』
私は指を震わせながら書き込む。
『自分は大丈夫。それより上のAA見て』
『すげえなこれ。お前が書いたの?』
『そんな訳無い。書き込みが途絶えた時に急にこれだけ書かれた』
こんなの頼まれたって書きたくない。いやまあ、仕事ならやらなきゃいけないけど、プライベートでこんな事する訳がない。
『マジかこれ』
『ID変じゃね?』
やっぱりIDは私以外の人間から見ても文字化けしてるみたいだ。でもこれで多少は信じてもらえるかもしれない。この現象は全員で体験した事だし、疑いようも無い事実なんだから。
私は少し落ち着くために軽く息を吐き、顔を上げる。
「……え?」
気のせいかもしれない。いや、気のせいだ、そうに決まってる。
そう考えたかった。顔を上げた際、一瞬ではあるが、台所の壁に面している窓に人の様な影が映ったのだ。ここは私が住んでいる家だし、アパートやマンションでも無い。もし誰かが居たらそれこそ不審者だ。しかし、どれだけそう考えようとも私の頭は、あそこに居たのは『あの男』であると確信していた。
いやいやありえない……ちょっと動揺してるだけ……人間は心の余裕が無くなると変な物を見たりする。それだけだ……ちょっと疲れてるだけなんだ。
私は書き込みを続ける。
『とにかく自分にはそれが見えたんだ。今もチラッと見えた』
『またテレビ?』
『いや窓に影だけが映った。顔は見てないけど分かる。間違いなくあいつだ』
『ちょっと写真とか撮れる?』
写真か……今撮れば間違いなく映るよね……出来る事なら撮りたくはないけど、少しでも情報を共有して集めるためにはやるしかないか……。
私は自室に向かうと、取材用に使っているカメラを持ち、台所へと戻った。もう影はどこにも見当たらなかったが、先程影が見えた場所をフレームに収め、シャッターを切った。恐る恐るデータを確認してみると、撮影した瞬間には居なかった筈の影がバッチリと映っていた。私はすぐさまパソコンにカメラのメモリーを挿し、ファイルを選択して掲示板に貼り付ける。
『これ』
『ただの影じゃね?』
『確かに人っぽくも見えるけどあのAAの奴とは言い切れんわ』
『これだけじゃちょっとなぁ』
どうやら他の人にはただの影に見えているらしい。でも私にはこの影が『あれ』だって自信を持って言える。明確な証拠は挙げられないけど……。やっぱり私だけにしか見えてない……?
そう考えていると、新たな書き込みが入った。
『え? お前らマジで言ってんの? 間違いなくあのAAの奴じゃね』
「……え?」
その書き込みを見るとまるで私と同じ様に『あれ』を認識している様に見えた。
『おいおいお前には何が見えてんだよ……』
『いやさっきから話題に上がってる奴と同じ奴じゃん。顔もはっきり同じだろ』
『確認するけど、お前マジでこの影があれと同じに見えるの?』
『見えるっていうか事実だろ。そりゃ確かに顔は見えないかもしれんけど間違いなくあいつじゃん』
あれ……? ちょっと待って……何か今の、おかしくなかった……? 顔は見えないのに何で『あれ』だって言い切れるんだろう? そういえば私もさっき間違いなく『あれ』だって思ったけど、その根拠は何? 何の証拠も根拠も無いのに、何で『あれ』だって言い切れた訳……? いやそれ以前に、何でその事を今この人が指摘されるまで何の疑問も持たなかったの……?
私の体全身に悪寒が走る。
『ごめん忘れて』
『は? いやいやまさか釣り宣言?』
『釣りじゃない。忘れて、まずい』
『釣りでもいいけどさ、釣りならちゃんと書いてくれよ』
釣りじゃない……そう釣りなんかじゃないんだ……いや、ある意味釣りかもしれない……私はルアーだったんだ。おいしそうに作られたルアー……魚が次々と引っ掛かるルアー……決して朽ちる事も腐る事も無い疑似餌……。やっと分かった……そういう事か……あいつは、『あれ』は確かに居るんだ。でもどこにも居ない……居るけど居ない……あいつはそういう奴だ。私達がはっきりと確認出来ない所に居るんだ。私を糸に括りつけて、水の中に垂らしてたんだ。より良いルアーと獲物を獲るために……。あいつは……『あれ』は……情報生命体だ。人間の認識に巣食う、見えるけど見えない寄生虫。
『お願い忘れて。釣り』
『マジで釣りなのか?』
『おい一応聞くけど、お前今まで書き込んでたのと同じ奴だよな? さっきと言ってる事が違うんだが』
確かに傍目から見れば、さっきまで熱心に語ってた奴が急に忘れて欲しいなんて書き込んだら妙に映るかもしれない。でもこれが今の最善手だ……そうでもしないと思う壺だ……。
『これ以上はやめよう。何なら削除依頼頼む』
『え、何これどういう状態? 俺も同じの見えたのに無視?』
『今すぐ忘れてこのスレッド消して。どこにも広めないで』
必死に書き込んではみたものの、釣りかどうかだの信憑性がどうのだのマジのオカルトだのと盛り上がり、とても話を真面目に受け入れてくれそうになかった。元々オカルトは一種の娯楽みたいなものでもある。日常とはかけ離れた非日常を楽しむコンテンツだ。しかし中には本物もある。私が遭遇してしまったのはそれなのだろう。
「多田敷さん……!」
私の頭に多田敷さんが浮かんできた。彼女にも『あれ』が描かれた原稿を渡していたからである。もしあの段階で私がルアーとして選ばれていたなら、多田敷さんも標的にされている可能性が高い。彼女もオカルト雑誌を作っている編集者という点では、良質なルアーだ。より多くの人間に情報を発信出来る立場にある。
私はこれ以上この掲示板に書き込んでも無駄だと判断し、急いでメールボックスを開く。すると、見覚えの無いアドレスからメールが送られてきていた。本文は一切書かれておらず、ただリンクが一つ貼られているだけだった。
見なくても分かる……『あれ』だ。私の中により深く自分を刷り込もうとしてきているんだ。そうやって私が無意識の内に『あれ』の情報を広めるのを誘ってるんだ。こんな事に引っ掛かるか……こんな下手糞な迷惑メールみたいな真似で……。
私は急いでメールを書き上げる。
『多田敷さん急いであの原稿を確認して。まだどこかに変なのが描いてあるかもしれない。もし見つけたら私に確認取らなくていいからすぐに消して。このメールに返信はいい』
手短に書き上げた文章に間違いが無いかチェックし、送信ボタンを押す。
一先ずはこれで良し……問題はあの掲示板だけど、どうしようか……書き込みに削除依頼は出せるけど、スレッドそのものに削除依頼は出せるんだろうか? もし出せたとして受理されるか……? 荒しな訳でも無いし誹謗中傷な訳でも無い。人の噂も75日だって言うし、話が自然消滅するのを待った方がいいかな……?
私はパソコンの電源を落とし、これ以上話が広まらない事を祈りながら閉じる。
……続きの原稿でも仕上げるかな。仕事は早目に終わらせておきたいし。後、気を付けないと……今度は迂闊にあれを描いたりしない様に、ね……。
私は仕事の続きをするためにパソコンを持ち、仕事部屋へと向かっていった。
きっとかくね