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第八話──逃走と謎の少年──

 辺りに銃声が響く。続いて響くのは人の悲鳴。


「チッ」


 斗真は葵を連れて走りながら、舌打ちを打つ。


(ウロボロスの奴らへの認識が甘かった!!)


 斗真は後悔していた。

 葵の誘拐をしなければいけない以上、いくらなんでも人の多い所で騒ぎを起こしたりしないだろうと斗真は思っていた。

 が実際はどうか。拳銃を手に持つヤンキー風の男はなんの躊躇もなく銃を撃っている。これは斗真が元暗殺者であることに対し、ウロボロスの構成員である男は、テロリストであるという事による考えの違いだろう。

 再び響く銃声。辺りには血を流しながら倒れている人が何人かいる。流れ弾か、はたまた狙われたのか、銃弾が当たった人が呻きながら倒れていた。

 駅前はパニックを起こしていた。その様子はまさに地獄と呼ぶのがふさわしい。銃で撃たれたのは数人だが、その銃声のせいで人が逃げ惑い、交通事故が起きたり、転けた人が踏まれるなど様々な被害が出ている。

 男はそんな中、撃ちながらこちらへ走ってくる。


(どうする……どうしたらいい?)


 斗真は走りながら悩んでいた。今ここで立ち向かうべきか、それとも逃げるべきか。

 普段なら適当に隠れてやり過ごすなり、遠くへ逃げなりする。が、今回は葵がいた。葵は一般人である。言ったら悪いが、どう見ても足でまといであった。

 さらに言うなら、綾乃に言われ、葵を連れに来たのは斗真一人だ。つまり斗真には頼るべき味方がいない。逃げるにしても逃げる場所が無いのだ。


「なぁ、葵」

「なに?」

「実はお前なんか凄い組織所属とか、能力者とかだったりしないよな」


 手を引き走りながら聞く斗真に対して、葵は首を横に振った。


「そんなわけないでしょ」

「だろうな」


 やはりこの状況は、斗真のみでなんとかしなくてはならないらしい。

 とりあえず逃げたのは、あくまでパニックによる人混みを避けるためだけであったのでもうそろそろ立ち向かうか、そのまま逃げるか決めなければいけないだろう。


(聞こえる銃声に対し、こちらへ飛んでくる銃弾はあまり多くない。これは葵を撃ちたくないからか? ならば逃げるのと戦うのとどちらが正しい……? ──ん? あれは?)


 悩む斗真は、こちらに向かって手が振られている事に気づく。


「おーい、こっち、こっち」


 声の主は、まだ中学生にしか見えない少年だった。半袖の白いパーカーを着て、竹刀袋を背負っている。

 斗真は怪しんだものの、他にどうするか悩んでいたため、警戒しながらその少年のいる細い脇道へ寄る。


「いやぁ、よかった。まだその子があっちの手に落ちてないみたいでさ」

「誰だ?」

「いやいや、とりあえず逃げながら話そうか。後ろから凄い怖い男も来てるしね。ついてきて」


 そう言うや否や少年はそのまま脇道を奥へ走り始める。


「斗真。あの人について行って大丈夫?」


 葵が心配そうな顔をする。


「大丈夫も何も、もうそっちしか行けないだろ。今戻るなら銃弾で蜂の巣になる可能性の方が高い」

「まぁ、私も戻るよりはマシだと思うけど」


 そう言うと二人は、再び走り始める。


「いやぁ、よかった。僕についてきてくれて。ついてこなかったらどうしようかと思ったよ」


 少し走れば少年が待っていたので、並走するように三人で走りはじめる。葵がそろそろ走るのも辛そうな様子だが、ゆっくりと休憩している暇はない。


「で? お前は誰だ」

「僕? まぁその子を助けるために来た助っ人Aと言ったところかな」


 少年は葵を指さしながらそんなことを言う。


「助っ人? お前も葵が目的じゃないのか?」

「いやいや、僕はあくまでその葵ちゃんが、ウロボロスの手に渡らなければいいからね。ウロボロスを邪魔したいどこか善良な組織から派遣されたとでも思っといて」


 少年は歯を見せながらニヒヒと笑う。


「あっそう。信じれる要素ゼロだが、とりあえずはそういうことにしてやるよ」

「うん、そうしといてくれると嬉しいな。──じゃあ」


 少年は立ち止まると後ろへ向いた。


「ん? 何するつもりだ?」


 斗真と葵もそれに合わせて立ち止まる。


「葵ちゃんは、そろそろ走るのも辛そうな感じだからね。君や僕と違って訓練とかして無さそうだし。だからとりあえず僕が、あの乱射魔の怖い男を撃退して、葵ちゃんが休憩するくらいの時間は稼ごうかなって」


 見れば、葵はまさに息たえだえといった様子だった。


「なら、俺と二人で戦った方が早いし、確実で安全だろう」

「いやいや、別にウロボロスがあの一人ってわけでもないだろうしね。かえってここで手間取って、その間に囲まれでもしたら目も当てられないよ。だからその間にもっと遠くへ逃げて。別に全力ダッシュしなくても逃げ切れる程度には時間稼ぐからさ」


 そう言いながら少年は竹刀袋を解く。中からは竹刀ではなく、鞘付きの日本刀が出てきた。

 恐らく、少年の得物かなんらかの異能の触媒だろう。


「別に僕だって命を懸けて戦うわけじゃないよ? あくまで時間を稼ぐだけ。だから僕のことなんてほっといてちゃっちゃと行ってよ。今こうしてる時間も惜しい」

「……わかった。葵、大丈夫か? 軽く走るくらいなら出来るか?」

「なんとか……」


 葵がハァハァと息をしながら答える。

 斗真と葵が走った後には、少年一人が残された。


「さてさて、仕事しますか。にしても僕じゃなくてお姉ちゃんにしたら、きっとこういう足止めとか殲滅作業は楽だろうに、お父さんは僕を送り込むしね。めんどくさい。まぁ異能的に仕方ないのかもしれないけど」


 銃声が聞こえる。

 少年は日本刀を鞘から抜き、そのまま切り払った。

 キーンと高い音がして、銃弾が刀によって弾かれる。


「いやいや、僕にとっちゃ、銃弾とか止まって見えるね。ただアニメみたいに弾いてみたら、衝撃で手が痺れてめっちゃ辛いけど」


 片手を刀から離し、ブラブラと振りながらそんな事を言う。本来ならどう見ても戦闘中とは思えない隙だらけの行為だが、そんな中でも、僅かな体重移動程度で、再び飛んできた銃弾をかわす。


「いや、だから無意味だって。もうそんだけ銃撃ったんだから姿見せたら? 別に隠れる必要なくない?」


 少年が物陰に向かって話しかけると、ヤンキー風男が姿を表した。顔はやや不機嫌そうだ。


「お前誰だ?」

「なんか今日はみんな開口一番にそれ言ってる気がするよ。まぁ簡単に言っちゃうと、君たちを邪魔しに来たとある組織の者かな」

「ちっ。今なら見逃すからさっさと消えろ。いくら逃げても大丈夫とは言え、流石にさっさと捕まえないといけないんだよ」


 少年は少し首を傾げた。


「うーん、逃げても大丈夫ってサーチできる感じの能力者でもいるのかな。あとで倒した方がいいかも。まぁともかく僕はここを退かないよ。ちょっとくらい戦おうよ。それが僕の仕事でもあるしね」


 そう言うと少年は刀を構えた。


 ──☆──☆──


 かれこれあの謎の少年と会ってから、数十分ほど経っただろうか。


「チッ」


 斗真は舌打ちをする。

 五メートルほど先には三十代半ばと思われるサングラスをかけた男──綾乃から聞いていたウロボロス構成員の一人が立っていた。

 なんとか隣町との境界である大きな橋まで逃げて来たが、ここで行く手にサングラス男が現れたのだ。タイミングを狙っていたのか、二人は既に橋は半分以上渡っており、ここから引き返す前にやられる可能性が高かったため、睨み合う状況に陥っていた。


「どこへ逃げてもお前らは先回りして出てくるな。葵には特に探知機的な物が付けられている様子は無かったし、なんらかの異能でも使ってるのか?」

「敵であるお前に言うわけがなかろう」

「キッパリと否定はしないんだな」

「……」


 男は少し黙った。

 それは認めているような物だと斗真は思う。


「まぁそう思いたいなら勝手に思っておけ。それよりさっさとその少女を渡せ。見た所お前はなかなか強いようだが、そんな足でまといをつれていつまでも鬼ごっこ出来るわけがない。お前だって死にたくはないだろう?」

「生憎これが仕事なんだ。お前らも分かるだろう? ……それに今葵を渡したところでお前らは俺を殺しにくるだろ?」


 それを聞くと男は口元を少し緩めた。

 サングラスで目元は見えないが笑ったらしい。


「ご名答。……『リザードマン』!!」


 男は能力を叫びながら腕をピンと伸ばす。

 すると腕が見る見るうちに真っ赤な鱗へと覆われていく。特に手の先の変化が顕著で、細かい鱗に覆われ、爪などはナイフの如く鋭く尖る。あれに引き裂かれたらひとたまりもないだろう。


「変身系か。厄介な」

「そちらから来ないというならこちらから行くぞ!!」


 男は言い終わるや否やこちらへ向かって真っ直ぐに走る。


「葵、下がってろ。『ポルターガイスト』」


 斗真も能力を発動させると、ナイフを隠しポケットから二本取り出す。そして間髪入れずに、男に向けて投げつけた。


「!!」


 男が両腕で払う。

 腕の鱗はかなりの強度を誇るのか、二本のナイフは高い音を響かせながら飛び散る。


(硬い!! ──けど)


 斗真も一気に距離を詰めると、両腕をナイフで払う事に使ったがためにガラ空きになった腹を殴った。


「グフッ。このっ!!」


 斗真をその爪で切り裂かんと男の腕が迫る。が、斗真は後ろへ飛びかわしつつも、今度はその隙に飛んでいったナイフを操り、後ろから攻撃する。


「チッ!!」


 男はナイフを腕で叩き落とす。しかし一本は間に合わずに、背中に刺さっていた。

 追撃を恐れたからか、男は後ろへ飛び距離をとった。


「やっぱり只者じゃねぇな、お前。──ぐっ!!」


 男は能力を解除して元に戻った手で、背中からナイフを引き抜く。まだ致命傷とまではいかないようだが、そのナイフは血でべっとりと濡れていた。


(流石に鱗のない所は刺さるか。腕のガードさえなんとすればなんとかなるか?)


「なら今度はこちらからいくぞ」


 斗真は一気に畳み掛けるために男へ飛びかかる。

 が、男は至って冷静だった。ポケットに手を突っ込むと何かを投げつける。


(!!──爆弾!?)


 それが手榴弾だと気づいた時には既に遅く、爆発していた。

 辺り一帯に、何もかも真っ白になるくらいの激しい閃光とキーンという脳までつんざく様な音が響く。


(閃光手榴弾か!!)


 斗真は咄嗟に顔を腕で覆ったが間に合わず、まともに喰らってしまった。

 ヨロヨロとよろめく。一時的に聴覚と視覚は完全に失われる。


(あのトカゲ男はどこだ!? 早く気づかないと──ぐっ!!)


 斗真は脇腹に猛烈な痛みを感じた。再び能力を使った京介に腹を裂かれたのだ。

 痛みに呻きつつも、すぐさま横へ飛ぶ。そしてなんとか追撃をかわす。


「──と逃──な」

「斗──丈夫!!」


 激しい耳鳴りのなか、男と葵の声が微かに聞こえる。


(何か……何かないか?──!!)


 手探りで、何か腕を動かすと、何かに触れたのを斗真は感じた。

 しっかりと握る。


(橋の手すりか!!)


 手すりを掴むと後の行動は早かった。

 すぐに手すりを乗り越えると、そのまま橋から飛び降りた。


(葵、すまん)


 心の中で葵へ謝る。直後に着水の激しい衝撃。

 そして衝撃で、斗真の意識は闇へ落ちていった。

やや時間が空いてしまった……

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