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第七話──斗真と少女──

 斗真は能力により軽快な足取りで、しかし全力で屋根の上を走る。


(逃走する時用に考えてたやつだったが、まさかこんな時に使うことになるとはな)


 そんな事を思いながら、人気のない場所を選んで、道に着地する。

 少し動き、少女が走っているであろう道路を覗けば、少女がハァハァと荒い息を吐きながら走っている様子が遠目にも見て取れた。

 どうも体力は見た目通りの年相応の少女というか、体育会系ではないらしい。

 幸いにも後ろからウロボロスのメンバーらしき人が追いかけてくる様子はない。綾乃に聞いた話だとたった二人であるし、その一人が現在のびている為、もう一人もこちらを追いかけるほどの余裕がないのかもしれない。


(車を捨ててでも、運転席から出てきて追いかけてくると思ったんだけどな。まぁ車を置いて行きたくなかったか、ぶっ倒れた男の方の介護にまわったか……それとももしかしたら、逃げられても何時でも捕まえられるという自信からか……。まぁ、いずれにせよこちらからしたら好都合だ)


 少女がまもなくこちらに近づいてくる。


「!!」


 そして横を通った際に、強引にその腕を掴み、脇道へと引き寄せた。少女が叫んだりしないように口はしっかり手で塞ぐ。


「──!! ──!!」

「あー、ちょっと落ち着いてくれ」


 暴れる少女を全力で押さえつける。


「──!!」

「落ち着けって。別に俺はさっきの奴らみたいに強引に誘拐する気はねぇ。むしろ、さっき野球ボールぶつけて助けたのは俺だ」

「!!」


 野球ボールと言ったら、ビクッと少し反応があった。その後大人しくなる。

 とりあえず落ち着かせるために言ったことだが、それなりに効果はあったらしい。

 落ち着いたらしいのでゆっくりと身体を離した。一応すぐに逃げ出しても、対応できる位置を陣取るが。


「ハァハァ……なんですか。私を誘拐しようとしてるんじゃ」

「とりあえず大人しくなったようで何より。まぁとりあえず移動しながら話そう。さっきの奴らが追いついてきたらヤバいし」

「そう言ってどこかへ誘拐するつもり?」


 少女の疑いの目を向けながらそんなことを言う。


「いやいや、今から行くのは駅前の大通りだ。そこならもしもの事があってもすぐに逃げ出せるし、人が多いから、誘拐なんておいそれとできないだろ? それにお前はこの街に住んでるんだから、行き先がどこかなんてすぐ分かるはずだ」

「……」

「まぁまぁ、とりあえずもう少し人のいる場所へ向かおう。そしたらお前も俺を少しは信用するだろ?」

「……まぁ、そう言うなら」


 少女はまだ疑っているようだったが、とりあえずは斗真に付いていくことを了承してくれた。

 それに斗真は少し安堵した。

 別にここで少女を気絶させ、誘拐することもできなくはなかった。が、先ほど全力で走ったため、気絶した少女を抱えるだけの体力があるかの不安があり、さらにそこで先ほどのウロボロスの奴らと鉢合わせしたらどうしようもできなくなるため、出来るだけそういう手は取りたくなかった。


「オッケー。なら行こうか。周囲にあいつらの気配はないし」

「気配って……」

「気配くらいは訓練すれば誰でも簡単に感じれるようになるぞ?」

「訓練って……何者よ……」


 二人は周囲を警戒しながら、歩き出す。

 行き先は、とりあえず当初言った通り駅前へと向かう。


「何者って言われてもな。前職で色々あったんだ」

「ふーん。前職って私と歳が離れてなさそうですけど働いてたのね」


 歩きながら、雑談を開始する。もちろん斗真は周囲への警戒は怠らないように気を付けているが。


「で? 私はあなたの言い分だと助けられたみたいだけど、何が理由なの? 生憎うちにそんなにお金とかは無いわよ」

「まぁまぁ、その前にいくつか質問させてくれ。もしかしたら人違いかもしれないしな。お前の名前は?」

「人違いって……。伊藤葵(いとうあおい)よ」

「葵ね。俺は真境名斗真だ。なら葵は東使山高校の生徒か?」

「なんでそんな事を? ……まぁ東使山高校一年生だけど」

「ん。なら最後の質問だけど、この事件で、誰か葵の知り合いが死んだりしてないか?」


 そう言いながら斗真は持っていたスマホを葵に見せる。

 その画面には、数日前に綾乃に見せた朝刊と同じ記事が書いてあった。夏祭りを襲ったウロボロスのテロとその犠牲者がゼロだったということについての記事である。

 それを見ると葵は少し神妙な顔をした。


「……犠牲者ゼロ人って書いてあるのに、死んだかどうか聞くの?」

「妙にそう言うまで間があったな。心当たりあったりするのか?」

「……」


 葵は押し黙る。


「沈黙は肯定と受け取るぞ」

「……お母さんが」


 それだけ言うと、葵は再び黙った。


「なるほどね。確かに俺が探していた人物で間違いなさそうだ。嫌なこと聞いて悪かったな」


 周囲に先程のウロボロスらしき男達は、いまだに見当たらない。こうして話しているうちにだんだんと道を歩く人の姿が増えてきた。目的地へもう間もなくだろう。


「なら、お前の聞きたいであろう事に答えよう。葵を助けたのは、アヤ──歩に頼まれたからだ。一応俺の主人というか、そいつに雇われている感じなんだが」


 危うく綾乃と言いかける。


(まぁアヤノは一応存在しない事になっているらしいし人前では口にしない方がいいか。気をつけないと)


「で、なんでお前がさっきの奴らに誘拐されかけたかというと、俺にも分からん」

「わからないの?」


 葵が驚いたような顔をする。

 助けに来たからには、事情が分かってると思ったのだろう。


「かの有名なウロボロスの構成員らしいってことは知ってるぞ。逆を言えばそれくらいしか知らないがな。……あぁ、もしかしたら、俺にお前を助けるように頼むくらいだし、主人の歩なら分かるかもしれないが、俺にはなんにも知らされていない。──と、着いたな」


 もう目の前に駅が見えてきた。時刻は既に夕方になっており、部活や課外の帰りらしい学生や、駅前の商店街で買い物する主婦が歩く様子が見える。


「な? ちゃんと連れてきただろ? というわけで、俺をちょっとくらい信用してくれるか?」

「まぁ……多少は」

「よし、なら俺の目的としては、お前を歩の元へ──!!」


 斗真は言いかけた言葉を飲み込んだ。

 見たくない姿を見つけてしまったからだ。そいつは少し先の交差点で信号を待つかのように立っていた。金髪にスタジャン、ジャラジャラとしたらアクセサリーを付けた男。そう、言うまでもない、先ほど斗真が気絶させたウロボロスの構成員だ。

 斗真が見つからないように葵の手を引くより早く、男はこちらを見つけたらしい。ニヤリと笑う顔が少し位置が離れているはずのこちらからでも見えてしまった。


(バレた!!)

「『ジャバウォック』」


 男は、持っていた本へ手を突っ込むと、拳銃を取り出す。


「葵!! 逃げるぞ!!」


 斗真は葵の手を引いて走り始める。

 再び追いかけっこが始める。今度は斗真が追いかけられる番だ。

もしかして、毎回後書き書かなくてもいいのでは……!!(今更)

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