第五話──捜索と電話──
使山市。数年前に周辺の市町村と合併して大きくなった街の一つである。周辺の大都市へのアクセスの良さからベッドタウンとして人気があり、今のところ人口は毎年増加しており、近年急上昇している街として注目されている。
そんな街の中央にある公園のベンチの一つに斗真は座っていた。
左手で持ったスマホを気だるげに眺めている。
スマホには、綾乃から送られてきた探して欲しい人物の詳細が書いてあった。
「流石にこのヒントだけでこれ以上は無理だろ」
心の声が漏れた。と言った感じで独り言が漏れる。
もちろん独り言なので返答なんぞなく、ミーンミーンとセミの声がこの独り言をかき消すかのように激しく鳴いていた。
斗真が使山市に入ってから数日が経過していた。綾乃から貰った情報を頼りに色々と手を尽くして見たが、未だに見つかっていない。
というか、綾乃から送られてきたメールには見た目の特徴のみしか書かれていないため、それっぽい人がいても確信する所までいかないのだ。
そんな気だるげに握られていたスマホから着信音が流れた。
「もしもし」
「もしもーし、トーマ、ボクだよ」
スマホから綾乃の声が聞こえる。
「あぁ、アヤノか」
「アヤノかって、そのスマホはボクが渡したやつだからボクからしか連絡入んないでしょうが。で、進捗はどうですか?」
「進捗ダメです。というか、流石にあの情報量だけで探すのは無理があるだろ。軽い容姿の特徴しかなかったぞ、あれ。そのメールに書いてあった服の特徴から、多分東使山高校の生徒だろうと言うところまで行ったがそこまでだ。調べたところその高校、女子生徒だけで五百人近いぞ」
「あー、やっぱり厳しい? ほら、トーマの直感とか、暗夜夜叉の頃のなんか経験か技術とかでなんとかならないの?」
「流石に無理だ。もっとこうビシッとこの人だって分かる特徴ないのか?」
電話からうーんという声が聞こえる。
「ない……かなぁ。『ピュトン』で見た時の姿はごくごく普通の優等生の少女って感じでそんな派手な特徴は見当たらなかったし」
「もう、それならお前が直接ここに来て見ればいいんじゃ……」
「トーマはボクが普段は歩の演技しなくちゃいけないの知ってるでしょ。そうそう動けないからトーマをこうして送り込んだんだし。……まぁいいや。それより本題に入ろうか」
「今までのは本題じゃないのか……」
「まぁね。トーマには悪いニュースになると思うよ」
そこまで言うと綾乃は声のトーンを少し落とした。電話越しなので顔は見えないが、たぶん普段浮かべている笑みも一時的に消えているだろう。
「ウロボロスの構成員が使山市に入り込んだ。察しがつくと思うけど戦闘慣れしたガチの能力者。トーマが負けるとは考えにくいけど、もしもって事もあるからね。なるべく交戦は避けて」
「その構成員とやらの特徴は分かるか?」
「入った構成員は恐らく二人。片方はサングラスをかけた三十代半ばっぽい感じの男。もう片方はもっと若い二十代前半くらいの男で金髪にスタジャンでなんかヤンキーみたいなファッションしてる。こちらはなんか銃の写真が表紙の雑誌持ってたから、もしそのままの姿なら見つけやすいと思う」
「分かった。その目的の少女とやらもそれくらいわかりやすい特徴してたら良かったのにな」
フフッと笑う声が聞こえた。普段はまさに少年と言った感じだが、その分こういう時に妙に女っぽく聞こえる。
「そうだね。あと、ウロボロスの事もあってちょっと不安だからレ──」
「アヤノ……電話切るぞ。もしかしたら少女が見つかる当てが付いたかも」
「えっ? それってどうい──」
綾乃の言葉も聞かずに斗真は電話を切ると、ベンチから立ち上がる。
公園から出ると、偶然見つけた一人の男を気づかれないように静かに追い始める。
その男は綾乃が言った通りのヤンキー風のファッションに、手に何らかの雑誌を持っていた。
うわーい
なんとか昨日は明日は投稿できないかもとか言ってましたが、投稿できました
代わりに今までより文字数が多少少ないけどそこら辺は許して……
ということでここまで読んでいただきありがとうございました