表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/21

第四話──早朝にて──

 あの日から数ヶ月後、斗真は未だに綾乃の屋敷にいた。

 綾乃は考えがあると言っていたが、ほんとになんとかしたらしく、暗夜夜叉からは一切の縁が切れていた。

 そして、その後、綾乃の手回しもあり、現在は綾乃の屋敷に客人として同居する形で落ち着いている。

 はっきり言って斗真は、出会った時は綾乃の事を信用していなかった。というか社会の闇のような汚れ仕事を金で何でもこなす暗夜夜叉の人間として長年過ごしており、未来が見えるとかいう胡散臭い人間を信用しろというのがむしろ無理な話だろう。

 わざわざ始めは信用したフリをして、綾乃に取り入ったのは、予想以上に謎の多かった華原家を探るためと、油断させてから綾乃を殺そうと思ったからだ。

 しかし、斗真の思ったようには事は進まなかった。綾乃は色々とフレンドリーに話しかけてくる割には、肝心な所ははぐらかすし、未来の見える綾乃を油断させるというのは不可能に近かった。

 実は、既に三回ほど綾乃を殺そうと試みているが、全て失敗している。毒、罠、待ち伏せ、そういったものがすべて分かっているかのように綺麗にかわされる。流石にそこまで来ると、最初、口だけ信用したように言っていた斗真でも、綾乃の未来予知の能力を信じざるを得なかった。ちなみに綾乃は斗真が綾乃を殺そうとしていることには気づいているはずだが、現在未だになんのお咎めもない。

 そうこうしている間に、気づいたら暗夜夜叉との縁は切れており、綾乃を殺す理由がなくなっていた。長年暗夜夜叉の人間として過ごしていた故に、多少途方に暮れたが、前向きに捉えれば、いつ仕事中に死ぬかも分からない暗夜夜叉から抜けれた訳で、綾乃の屋敷での生活はむしろ居心地が良かったため、この生活も悪くないかと、いつの間にか思い始めていた。

 そんな感じで数ヶ月過ぎたとある夏の日の朝、朝刊を読んだ斗真は、その朝刊を片手に綾乃の部屋へ入った。

 ベットの上では、綾乃がまだ寝ていた。スースーと寝息の音が微かに聞こえる。


「起きろ、アヤノ」

「うーん、あと十分……」


 綾乃は眠そうに、ベットで寝返りを打つ。


「いいからちゃっちゃと起きろ」

「……何? 夜這いかなんか? キャートーマに襲われるー……むにゃむにゃ……」

「何が夜這いだ。もう朝だぞ。あと眠いのかセリフが棒読みすぎて、実際に夜這いだとしてもなんのムードもねぇな」


 そこまで斗真のツッコミを聞くと、綾乃は大きくあくびをしながら体を起こした。

 白のネグリジェを着ている。


「全くなんだってトーマが起こしに来るのさ。普段はあと三十分もすれば自力で起きるじゃん。女性の部屋に男性一人で訪ねるとか、まじで夜這いならぬ、朝這いじゃないと説明がつかないね」


 未だに眠いのか、目をこすりながらそんなことを言う

 それに対し、斗真はまったく表情を変えずに、持っていた朝刊を綾乃に放り投げた。


「お前は普段は男装して、男の振りしてるんだから、冗談でもこういう時だけ、都合よく女出してくんな。いいからこれをちゃっちゃと読め。お前の言っていた記事があるぞ」


 綾乃は新聞を受け取ると、ベットの上で読み始める。始めは眠そうに眺めていたが、目当ての記事を見つけると目が冴えたのか、真剣に読み始めた。

 その記事はテロ組織『ウロボロス』による夏祭りの爆発物を使ったテロと、それによる死亡者が奇跡的にゼロである事に付いて書かれた記事だった。


「なるほどね。ありがと、トーマ。目が覚めたよ」

「あぁ。まぁ前から信じていたが、これでお前の『ピュトン』の能力が証明されたな」

「そうなるね。まぁ起きないならそれに越した事はなかったんだけどね」


 この記事の内容を二人は実は知っていた。

 正確には二人が出会った日に、綾乃がこういう事が起きると斗真に言ったのだ。


「で、犠牲者ゼロ人らしいが」

「らしいね。あくまで表向きは、ってことだろうけど。政府かどっかの組織かが隠蔽した死亡者が一人いるはずだよ。少なくともボクが見た未来が変わってなければ……だけれども」


 斗真は近くにあった椅子に腰掛けた。


「で、俺はどうすればいい? お前に言わせれば、これが世界の崩壊の始まりみたいなもんなんだろ」

「そうだね。じゃあトーマには初仕事として、ちょっとある人を誘拐して貰おうかな」


 それを聞くと斗真は少し引いた顔をした。


「誘拐って……」

「トーマって前職的に多種多様な犯罪に手を染めてそうだったからね。それに合わせて言ってみたんだけど」

「流石に誘拐はした事ねぇよ。つーか、ひでぇイメージだな、おい」


 それを聞くと、綾乃は少しガッカリした顔をした。


「えっ……誘拐はしたことないの……?」

「むしろ、なぜそこでガッカリした顔をしてるのか俺には分からんのだが」

「まぁいいや。じゃあもうちょっと聞こえがよく言うと、とある人物の保護。ただ詳しく事情を説明する暇がない場合も考えられるからその時は誘拐紛いのことをするハメにもなるかもかな」

「とある人物ね。写真かなんかある?」


 綾乃は首を振った。


「いや? ないよ。というか保護すべき人物の名前も分かんないからね。全部トーマが探して」

「……いや、無理だろ」


 唖然とした様子の斗真に対し、綾乃は言葉を続ける。


「仕方ないよ。なにぶんこの記事にも書かれなかったように、世間からは隠蔽されてる犠牲者は、ボクが全力を尽くしても名前の一文字も分かんなかったからね。その関係者も当然ながら一切情報出て来ないし」

「それ……見つかるのか……? 不可能な気がするんだが」

「まぁ、『ピュトン』と、ボクの努力のお陰で、多分いるであろう街とその人物の容姿までは分かってるからさ。このためにトーマがいると言っても過言じゃないし頑張ってもらわないと。期待してるよ」


 綾乃は笑顔でそう言った。

 その様子を見ると斗真は諦めたような顔をした。


「……まぁいいや。もう何を言っても無駄そうだし。じゃあちゃっちゃとその街の名前と容姿と教えろ」

「はいはい。まぁ、詳しい事は後でメールででも送るからさ、とりあえずここに向かってよ」


 ネグリジェ姿のまま、ベットから出て近くの机に向かうと、予め印刷されていたらしい、地図を手に取ると斗真に渡した。


「使山市ね。分かった。……ところで関係ない話なんだが、お前寝るときいつもその格好なのか?」

「え? いや、だってさ、男物とかやっぱり寝にくいじゃん。寝るときくらいは快適な格好にしないとね」


 斗真は椅子から立ち上がった。


「……まぁ、別にとやかく言うつもりはないし、好きにしたらいいんだけどな。じゃあさっさと行く準備してくるわ」

「ん、いってらー」


 斗真は、部屋を出ようとしたが、扉に手をかけようとしたところで止まり、振り返った。


「なぁ、あの新聞には載ってないけど一人死んだのは確実なんだよな。で、その関係者だかなんだかを探しに行くと」

「うん? そうだね」

「未来が分かるから予め知ってたんだよな。いや、俺に数ヶ月前にこの事話してたから知ってたはずだ」

「うん」

「……なら、その事を予め防ぐこともできたんじゃないか?」


 それを聞くと、着替えるつもりだったのか、クローゼットから服を取り出していた綾乃の動きが止まった。


「……できたかもしれないね」

「かもしれないって」

「まぁ、もしという仮定の話だけどできたかもしれない。ただ、ボクにも色々と事情があるからね。ぶっちゃけるとボクとしてはこっちの方が楽だったという所かな」

「……」

「まぁ、トーマも分かるでしょ。小を捨て大を救う。世界を救うとは言ったけど別に全人類を助けるとまでは言ってないからね。必要な犠牲だよ」


 斗真は扉を開ける。


「まぁ、言い分はもちろん理解できるから何も言わないがな。長々と朝から話して悪かった」

「ううん。気にしてないよ。じゃあ人探し頑張って」

「あぁ」


 綾乃の耳に扉の閉じる音が聞こえた。

 部屋からだんだんと離れていく足音を確認すると、クローゼットから取り出した服をベットの上に置いた。


「……まったく……トーマは察しはいいし、まだこちらを完全には信用してないみたいだね。でもまぁ元暗夜夜叉の人間だし、あの見た未来通りになればボクの望みどうりに動いてくれると思うけど」


 ブツブツと独り言を呟きながら、ネグリジェを脱ぎ、裸になると、用意したサラシを手馴れた様子で胸に巻き付ける。


「まぁ、ボクはボクのやる事をやる。それだけか」


 男物の服を着替え、鏡の前に立った。


「よし、華原綾乃としての人格は今日はここまで。華原歩、頑張りますよっと」


 綾乃はいつも通り鏡に向かってニッコリ笑った。

前回の話のサブタイトル付けずに投稿してました……

恥ずかしい……

次からは気をつけます


実は予め書き溜めてたんですけど、ストックはこれで全部使い切っちゃった感じになります

次は数日ほどかかるかもですが、楽しみに待っててください(そもそも楽しみにする奴なんかいねぇよとか言わないで……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ