第三話──差し出される右手──
「……お前には驚かされっぱなしだ。二つ能力を持つだけでも驚きだというのに、そのうちの一つが未来が見えると……?」
もはや、驚きを通り越して、唖然とした様子の斗真に対し、綾乃は未だに笑ったまま答える。
「そういう事だね。つまりトーマはもし暗夜夜叉へと帰ったなら死ぬ。そういう未来が見えたんだよ。だから、さっき言ったような情報云々では助からないよ」
「……だから裏切れと? だが、お前が未来を見える能力を持ってるなんてどう証明する? 理由は分からんが、俺を暗夜夜叉から裏切らせるためだけに出任せを言ってるだけかもしれんだろ」
それを聞くと綾乃はうーんと少し考えるフリをした。
「まぁ、確かに証明は難しいね。目に見えるものでもないしさ。未来を当てたらいいけど、今すぐに証明となると確かに難しい。それにこの能力はまだ完全に制御できてるとは言い難いからなぁ。……けどさ、ボクがこの能力を持ってるって考えたら、意外と色々と辻褄があったりするんじゃない? 例えば、なんでトーマがこうやって襲撃するのを待ち構えれたか……とか」
「……」
それを聞くと斗真は黙りこくった。深く考えている。
「……いや、けど誰かが情報を漏らした可能性も」
「あの名高い暗夜夜叉が情報をそう簡単に漏らすとかあると思うの? まぁそう考えるのもありだと思うよ。ありえない話でもないし、別にこれ以上証明する方法もないしね」
それを聞くと斗真は再び考え込み始めた。
しばし二人の間で沈黙が流れる。
少しした後、斗真はゆっくりと顔を上げた。
「……なぁ、よければ俺から二つほど質問いいか?」
「ん? 別にいいよ。答えるかは内容によるけどね」
「俺が部屋に入った際、どうやって気配を消した。たとえ未来が見えて、俺が部屋に侵入することを予め知っていたとしても、気配とは関係ないだろ。いきなり気配が現れたように感じたんだが」
それを聞くと綾乃はあぁそんなこと、と言った様子で、近くに置いてあった鉢植えに近づいた。植えられているのは何かの木だ。インテリアの一種として違和感なく部屋に溶け込んでいる。
「『ニンフ』」
綾乃は能力を発動させると、木の幹に触れた。
すると、まるで異空間に繋がっているかのようにズブズブとその手が木に入っていく。入りきってない所も、まるで木と同化するかのように幹の色に染まっていく。
「こんな感じにして、完全に木と同化すれば人としての気配は消えるってわけ。ニンフの能力って植物を操るのはサブ的な感じでこっちが本当の能力なんだよね」
木から腕を抜きながら、綾乃は笑顔でそう答えた。
「で? 次の質問は?」
「……あぁ、もう一つは俺をもう一回拘束した際に、すぐに口に色々と突っ込んでくれたが、それも未来予知のおかげかってことだ」
「あぁ、そうだね。多分ボクがあのままトーマを放置していたら、あの毒を飲んで自殺したと思うよ。まぁそれは自分が一番分かってるでしょ」
「あぁ、そうだな」
斗真は頷く。
「んじゃ、質問は以上かな?」
「あぁ。……あと、決めた。お前が『ピュトン』という未来予知能力を持っていることを、とりあえず信じてやる」
それを聞くと綾乃は満面の笑みを浮かべた。
「そう、それは良かった」
「で、だ。さっきから俺に暗夜夜叉を裏切れと言っているが、あそこを抜けるなんてそう簡単な事じゃないだろ。どうしろと」
「ん? それは今は弟の影武者をしてるとは言え、ボクも華原家の一員だからさ。それについては、ちょっと考えがあるんだ。だから、そこはボクに任せてくれていいよ」
そういう綾乃の様子はやけに自信げだった。
「なら別にいいけど……他にアテもないし」
「うん、任せてくれていいよ」
「なら、もう一個質問思いついたからいいか?」
「ん? 何?」
斗真は真顔になって言った。
「さっきから俺に色々と尽くしてくれるが、何が目的だ? ほんの数十分前にお前を殺しに来た男だぞ」
綾乃はそれを聞くと笑みを消した。そして大きく深呼吸を一回すると語り始めた。
「……最初はね、ボクもさっさと警察か何かにでもつき出そうかなって思ってたんだけどね。『ピュトン』の能力って、さっきちらっと言ったと思うけど、まだ完全に使いこなせるわけじゃなくて、自分が望んだタイミングで見たい未来がそんなに見えるわけじゃないんだよ」
「あぁ、で?」
「それで、さっきトーマが毒飲んで死ぬ未来を偶然見ちゃったわけ。……あれって実は勝手に能力発動しちゃって見たもので、自分では見ようとして見た未来じゃないんだよね。……まぁ結果オーライだけど。で、その時に他の未来も見ちゃったんだよね。そこで見た未来のような展開にもしなったとしたら、トーマはきっとボクの目的を叶える上で非常に重要な存在になるって分かったんだよね」
「だからこうして手に入れようとしている……と?」
「うん、そうだね。──だからさ。ボクに仕えてくれないかな? トーマ」
そう言うと、能力を解除したのか、ゆっくりと斗真に絡まっていた蔦が解けていく。綾乃はそれを見ながら、斗真に握手しようと、右手を差し出した。
「今この瞬間に襲いかかるとかは考えないのか? 無防備なお前くらい別にナイフが無くても殺そうと思えば殺せる。それに、殺してしまえば結局、先程の話の前提である暗夜夜叉へ帰れない云々の話は無意味になる」
「トーマならもうボクを殺すとか思わないかなって思ったんだけど」
綾乃が屈託のない笑みでそう言う。
「何の自信があるのやら……」
斗真はそれをヤレヤレと言ったポーズをとると、綾乃の右手を握った。
「よろしくお願いしますよ。新しいご主人様」
「うん、よろしく。あとボクの事は二人きりの時は、敬語を使わず、アヤノって呼んでくれると嬉しいなぁ……なぁんて」
「はいはい、了解しましたよっと。よろしく、アヤノ。──これでいいか?」
綾乃は満足げに頷いた。
「うんうん、それがいいよ。やっぱりフレンドリーな方がね」
「ならさ。アヤノ。質問ばっかで悪いが一個いいか?」
「もう遠慮とかしなくてもいいよ。トーマ」
「じゃあ遠慮なく。……その俺が必要になるお前の目的ってなんだ?」
それを聞くと綾乃は一瞬黙った。ほとんど終始絶えず浮かべていた笑みも一種消え、真顔に戻る。
そして、少し考えた顔をした後、また笑顔に戻り冗談っぽくこう言った。
「うーんとね……世界を救うこと……かな? 簡単に言っちゃうと」
斗真は何の冗談をと言いかけたが、それは止めた。顔こそ笑顔で冗談っぽかったが、その目はあまりにも真剣なものだった。
とりあえず、綾乃と斗真の出会いはおしまいになります
なんかもうちょい簡潔にしたり盛り上がたりできた気がしないこともない……
けど、斗真も綾乃も性格的にこんな感じの会話がちょうどいいかななんて思ったり
バトル回はもう少しお待ちください
そのうち来るので(そのうちとは)
ということでここまで読んでいただきありがとうございました┏●
そろそろブクマとか評価とか感想とか欲しくなってきた()