第二話──尋問──
歩のセリフで、まるで時が止まったかのように二人の動きが止まる。
「……いや、でも影武者にしては似すぎというか本人のような……」
「五月蝿いな。ボクに乗りかかったままブツブツ呟かないでくれる? 『ニンフ』」
再び歩と思われていた影武者が能力を発動させる。
ショックの方が大きく反応出来なかったのか、あっさり斗真は再び蔦に手足をとられ、壁に貼り付けられた。
「がはっ!! ……むぐっ!!」
壁にしたたか打ち付けられ、悶絶したのもつかの間、衝撃で思わず開いた口に無数の植物の蔦が入り込む。
「ダメだよー。そんなすぐに自殺しようとしちゃ。どうせ舌を嚙み切るか、歯の裏にでも隠してた毒を使おうとしたでしょ」
歩の影武者はゆっくりと立ち上がりながらそう言った。
斗真は、ここでひどい恐怖を感じた。心が読み透かされている気分だった。確かにこういう再び拘束されるような状況になれば自殺を試みようと思ってはいたが、斗真がそう思い行動するより早くこの影武者は動いていた。
はっきり言って、斗真より斗真の行動パターンが分かるかのような行動だ。出会ってまだ十分も経っていないはずなのにだ。
「うん、やっぱりあった。この手の連中はほんとそこら辺が怖いよ。自分の命を何とも思わないってやつ? じゃあ、その口の中のやつは抜くけど変なことはしないでね。一応これでもこの植物達は、愛情持って育ててるから、人の口の中とかあんまり入れたくないし」
ゆっくりと口から蔦が出ていく。最後の一本の先端には、小さなカプセルが引っ付いていた。少年が飲み込むはずだった毒だ。
「ごほっ、ごほっ。……はぁはぁ」
口いっぱいに草を詰められ、満身創痍のような様子の斗真を横目に、影武者は周囲に散らばっていたナイフを拾い上げる。
「持ってきたナイフはこれで全部? あ、正直に言わないとどうなるか分かるよね?」
「……はぁはぁ……あぁ……」
「ふーん、まぁ一応ボディチェックもするけど」
影武者の言葉に反応し、蔦は服の隙間に入り込み斗真の体をまさぐる。
「……うん、確かになさそうだね。じゃあ──」
影武者はナイフを両手に抱えたまま、バルコニーに出ると、そこからナイフを放り投げた。
「とりあえずはこれでいいかな? こーいうタイプの能力って視界内になければ発動できない場合が多いしね。ところで、ボクが能力者に驚いてたけどそっちも能力者じゃん。なんかナイフ飛び回ったし。……『ポルターガイスト』だっけ? 便利そうだね」
影武者が振り返りながらそう言う。
「五月蝿い。……それよりお前は誰だ。華原歩の影武者とか言ったが」
「いやいや、そのまんまだよ。ボクは華原歩の影武者。まぁボクの方が表舞台に出る機会が多いというか、ここ数年以上ボクしか表舞台に出てないから、ある意味ボク自身が華原歩と言っても差し支えなさそうだけどね」
その言葉に斗真は少し納得した。流石に数年以上ずっとこの影武者しか出てきてないのなら、あの暗夜夜叉の情報班が、この目の前の男装した少女を華原歩と間違えるのも頷けた。
「なんでだ? 流石に影武者と言えど、ずっと表舞台に立つというのはおかしいだろ」
「お? やっと喋る気になってきた? まぁ生きて帰れるなら少しでも情報を引き出そうって考えなのかな? ……だけどさ。自分の立場を弁えた方がいいと思うよ?」
再び少年を縛る蔦がミシミシと力がこもり始める。
「ボクは今、キミの生命与奪権を持ってるのだからさ。まぁキミはあっさり自殺しようとしてたし、むしろ殺したら喜びそうだけど」
「……あぁ、そうだな」
蔦が少し緩まる。と言っても少年がチカラを込めても出れなさそうな力で縛られているが。
「まぁそんな事だからボクから質問させてもらうよ。キミの名前はなにかな? キミって呼び続けるのも不便でしょ」
「……」
少年は再び黙りこくる。
「なに? まさか名前は言えないってことはないでしょ。なるべくそっちの言いたくない事とかも考えて質問したんだから答えてよ。コードネームとかあるならそれでもいいよ」
「……真境名斗真」
しばしの沈黙の後、少年──斗真は、ボソッと呟いた。
「斗真……トーマね。いい名前だと思うよ。偽名じゃなかったらだけど」
「本名だ。いや、本名じゃないと思うが、暗夜夜叉ではその名前で通ってる」
「ふーん、まぁそっちはそっちで過去に色々ありそうで。あ、ボクは本名は華原綾乃って言うんだ。……もうその名前で呼ばれたことは、久しくないんだけどね。よろしく、トーマ」
影武者──綾乃が、笑いながらそう言う。
「華原……」
「あぁ、そりゃそっちが殺しにきた歩とは双子だからね。養子だから華原姓を名乗ってるとかじゃないよ。まぁ、二卵生だからそっくりではないけど。それでも血は繋がってるし歳も変わらないから影武者にはピッタリでしょ? ──じゃあ次の質問ね。トーマは暗夜夜叉を抜けたいと思ってる?」
その質問に斗真は首を傾げた。
「……意図が分からんな。俺を引き抜こうとでも思ってるのか?」
「まぁそんな所かな。暗夜夜叉って任務とかに失敗した者には厳しいって聞くしね。案外そう思ってたりしないのかなぁなんて」
「分からんぞ。お前が影武者という事に気づかなかったのは、情報班側のミスだし、この情報を持ち帰ればその功績で案外許されるかもしれない」
「許されないよ。きっとトーマは帰ったら死ぬ。情報を話してもね。──そもそもトーマってこーいう仕事上敵が多いんでしょ。多分トーマを気に入ってない人がこんな絶妙な機会を逃さないと思うけど」
綾乃はやけに確信を持っているかのようにキッパリと言った。
「なんでだ? 意外とそういう可能性もありそうだが」
「そういう未来が見えたからね。比喩とかじゃなくてほんとに」
「……?」
再び斗真は首を傾げる。
それを見た綾乃はさらに笑顔になり答えた。
「あぁ、トーマはまだ知らないもんね。ボクには『ニンフ』の他にもう一つ『ピュトン』という能力を持っていてね。実は断片的ながら未来が見えるんだよ」
なんかストーリー的なに盛り上がりが足りない気もしたけど一話三千字程度でどの話も区切ってあるし、そんなシーンでも無かったからここでちょうど良かったかなぁと思いながら投稿
次話まで斗真と綾乃の会話続きます
ここまで読んでいただきありがとうございました┏●