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第一話──三日月の夜──

 三日月が辺りを仄かに照らす夜。とある屋敷の中で、一人の少年が、窓から入る月明かりの影の闇を縫うように走っていた。その動きは一切の無駄がなく、衣擦れの音すら出さない。

 夏だというのに、真っ黒な外套を来たその少年は、恐ろしく闇に溶け込んでいた。

 その少年は暗殺者だった。いや、正確には今は暗殺者だった。依頼とあらば、暗殺、スパイ、そう言ったことを何でもこなすとある組織の構成員の一人である。名は真境名斗真(まきなとうま)といい、腕が立つと裏社会では多少名が知られていた。

 こうして今宵もまた、斗真は依頼として、ターゲットのいる屋敷に潜入したのだった。

 目的地である部屋へ向かい少し走り、上を見て、監視カメラの位置を確認すると、死角を通るようにまた走る。手馴れた動きである。まだ屋敷の住人で、斗真が侵入した事に気づくものはいないはずである。もし気づいたとすれば、それはきっと全てが終わったあとだろう。


「ふぅ……」


 ため息をひとつつく。ここで初めて斗真が音を出した。目的地の部屋に着いたのだ。

 ゆっくりと慎重に音を立てないようにドアを開けると、斗真は部屋に侵入した

 その部屋は広く、そして非常に豪勢だった。机、椅子、そして、奥にターゲットが寝ているであろう天蓋付きのベット。斗真自身はこう言った物の価値には疎いが、きっとどれ一つ取ったとしても、庶民の数年分近い給料が飛ぶだろう。

 南側はバルコニーがあるのが、部屋にある窓から見えた。その窓のカーテンは閉められていないため、今はそこから月明かりを部屋に取り込んでいた。おかげか電気は付いていないが、辺りは微かに見える程度には明るい。その南側の窓の近くにはたくさんの植物がプランターに植えられて育てられていた。ターゲットとなる人物の趣味だろうか。

 斗真は部屋の観察は程々に、ゆっくりとベットへ向かう。ベルトから取り出した大振りなナイフが、キラリと月光を反射して煌めいた。

 そして部屋の真ん中まで来た時、斗真は立ち止まった。違和感を感じたのだ。ベットは人が入っているかのように膨らんで見えたが、あまりにも動きが無かった。そうまるで、物が詰まっているだけかのように──


「!!」


 後ろから突如気配を感じた斗真は、後ろに何かがいるなどほとんど確認せずにナイフを投げつける。斗真の技術力の高さ故か、そのナイフは正確に気配のした方向へ飛ぶ。

 が、飛んでいったナイフは、突如窓際のプランターから伸びてきた植物の蔦によって絡め取られた。


「『ニンフ』」


 明るく、やや高い少年のような声が、斗真の耳に聞こえた。

 そしてその瞬間、部屋に置いてあるプランターというプランターに生えていた植物が一斉に蔦や茎や葉を伸ばして斗真を捕らえようとしてくる。


「!!」


 斗真は、一つ目の蔦をかわす。そして二つ目を新たに取り出したナイフで切り刻む。が、その隙に三つ目に片足を絡め取られ、あれよあれよという間に雁字搦めにされた。

 植物とは思えない力で、両手両足を縛り付けられており、動けそうにない。そして、そのまま壁に貼り付けにされる。

 斗真は、こういう状況に焦ることなく、舌をゆっくりと口の中で動かした。口の奥歯の辺りには毒が仕込んである。このまま隙がなく、もしもという事があれば……と、覚悟を決めるとゆっくりと前を向き、この植物を操った当事者に向き合った。


「驚いた。まさか華原家の御曹司が能力者とは」


 ここで初めて斗真が口を開いた。

 『能力者』とは、まだ科学では解明されていない摩訶不思議な力を使う者達の総称だ。かつての世界対戦からポツポツとその存在が確認され始めた。何故現れるのか、どうしてそのような力が使えるのか、何故能力名が伝承やオカルトの怪物などの名を冠するのか、そう言ったものはいまだに研究者達の研究の対象だが、どの説も仮説の域を出ず、ハッキリとした答えは出ていない。

 理由としては、まだ能力者が現れて数十年と比較的時が経っていない事と、科学者自身は能力者ではない事だろう。自身が能力者ではないので、何の力をもってあの摩訶不思議な現象を起こすのか分からないし、なんの力かわからなければ観測等のしようもなかった。

 ちなみに不幸にも戦争中にその存在が確認されたため、攻撃的な能力の能力者は一兵士でありながら、爆弾をも超える兵器として戦場に投入された。その結果

、どの国も第二次世界大戦で疲弊しきっていたためスグに終わると言われていた第三次世界大戦を、悲惨かつ長期的な物に変えたのは言うまでもない。


「そんな驚く事でもないと思うけどね。能力者なんて数千人から数万人に一人はいるらしいよ」


 斗真の言葉より、より高く明るい声が返ってくる。そこにいたのは、悪戯好きそうな笑みを浮かべた少年だった。

 華原歩(かはらあゆむ)。現在、四代財閥と言われる華鳥風月の華を司る華原家の御曹司であり、今回の斗真のターゲットである。


「それにボクからしたら、ボクを殺しにきた殺し屋というのが、ボクとほとんど変わらない少年という方が驚きだね」


 そう歩は、流石にある程度斗真と距離を保ったまま斗真を見つめている。


「まだ少年だからこそ……かもしれないぞ」


 斗真は歩へ話しかけつつもじっと歩を見つめていた。その目はまだ隙を狙っているのが見てとれた。


「いやだなぁ。そんな怖い目しないでよ。ボクと歳変わらなさそうだからさ。仲良くしよう。ね? ──だからさ、依頼主は誰か教えてよ」


 歩が問い詰める。相変わらずの笑顔だったが声に先程のような明るさはない。まるで機械が喋っているかのように冷たく、感情がこもっていなかった。


「仲良しは隠しあいっこなしなんだよ? だからさ、教えてよ。誰がボクを殺そうとしてるの? そもそも君の所属は何処? どうやって侵入した? さぁ、どれか一つでもいいからさ。答えてよ」

「……」


 斗真は無言になった。

 そのまましばらく黙りこむ。


「……ふーん、まぁ喋んないか。そりゃそうだよね。けどさ、ならちょっとくらい痛いことしてもいいんだよね? キミも痛いのは嫌でしょ?」


 能力を発動させているからか、歩の言葉に呼応するかのように、斗真に絡みついていた蔦がギリギリと締め上げてくる。しかし斗真は口を開かない。


「さっきボクと少し話したじゃん。そんな感じで口を開いてよ。どんどん締め上げるよ。そのうち手足はねじ切れちゃうかもしれないよ? それでもいいの?」

「……」


 そのまま数分ほど経っただろうか。それでも口を開かない斗真を見て、歩は大きくため息をついた。締め付けが少し緩くなったのを斗真は感じる。


「はぁ。……まぁこの警備厳重かこの部屋に入ったことや、拷問にも屈しない辺り、その歳でもプロってことは分かった。そうだね……こんな少年を使い、なおかつガチのプロに育て上げ、暗殺に使う。……「暗夜夜叉」とか「黒の手」辺りかな。思い当たる組織としては。どう? 当ってる?」

「……」


 少年は語らない。どうももう喋らないと決めたようだ。

 が、暗夜夜叉と歩が言った時、ピクリと眉毛が動いたのを歩は見逃さなかった。


「暗夜夜叉か。なかなか酷いことをするもんだね。いや、でもだからこそなのかな。さっきそちらが言ったように子供だからこそってのもありそうだよね。警戒されないってこともあるだろうし、それに──」


 歩がブツブツと独り言を喋り始める。先程からそうだが、よく喋るタイプの人間らしい。そうやってブツブツと言っていたが、その時、一瞬視線が斗真から外れたのを斗真は見逃さなかった。


「『ポルターガイスト』」

「!!」


 斗真が能力を発動させると、両腕の袖から隠しポケットに入れていたナイフが飛び出す。

 そして、飛び出したナイフはまるで意思を持つかのように縦横無尽に飛び回り、少年の両手両足を縛る蔦を切り刻んだ。

 自由になった斗真は左腕を伸ばす。

 すると、地面に落ちていた大振りなナイフはビデオの逆再生を見るかのように斗真の左手に収まる。

 そして、間髪入れずに斗真は歩へ向かって飛びかかった。

 一瞬の事で反応が出来なかったのか無防備な歩を、右手で床に押し倒し、動けないように馬乗りになり押さえつけ、ナイフを握った左手を高く上げる。

 しかし、歩の顔に一切の恐怖は浮かんでいなかった。先程まで浮かんでいた笑みを消し、ただ無表情にじっと斗真を見つめている。その様子に斗真は少し恐怖を感じた。


「ボクを殺しても無駄だよ」


 歩がポツリと呟く。

 その歩の言葉に反応したかのように、ピタリと少年の動きは止まった。

 しばし停止した後、歩の胸を押さえつけていた右手をそっと退ける。


「……お前……女か」


 斗真は信じられないと言った感じの口調で言った。

 顔に表情としての変化こそなかったが、口調の端々から驚きは伝わってくる。

 斗真は、全身で歩を押さえつけた時から違和感を感じていた。乗りかかった時に感じた歩の体のラインが、右手で押さえつけた胸の触ってわかる程度の成長途中らしい膨らみが、歩が年相応な少女だと示していた。

 そんな驚きに満ちた斗真の呟きに対して、歩は再びニヤっと笑った。


「そうだよ。簡単に言えば影武者ってやつ? だから殺しても無駄って言ったじゃん」


一話だよ

予め書き溜めてあるから、こうして次の日投稿できたけど、本来なら3日以上はかかるだろうなぁって思う(だからなに)


というわけで、ここまで読んでいただきありがとうございました

次回とか楽しみにしてくれたらいいなぁ(チラッ、チラッ

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