第十三話──少年、再び──
「はぁ……はぁ……」
斗真は、壁にもたれかかるように階段を降りていた。
その足取りはおぼつかず、歩く度に血がポタポタと落ちていく。その血は先ほどの戦闘の返り血なのか、それとも自身の血なのか斗真自身ですら判別がつかない。
先ほどの戦闘からまだ数分も経っていなかった。
斗真には、回復異能などがあるわけでもないので身体は満身創痍といった状態であり、誰でも一旦撤退しようと考えるような有様である。
しかし、斗真は撤退せず、階段を降りていた。階下に、残りのウロボロスのメンバーがいると分かっていてもだ。
自殺行為。今の斗真を見れば、誰でもそう評すだろう。
しかし、斗真には今行かなければならない理由があった。
まず、一つ目としては、斗真が元々所属していた組織が理由にある。暗夜夜叉。かつての斗真の所属していた組織は、失敗した者=死という考えが普通だった。この考えは当然の事実としてそこで生活している間は存在しており、幼い頃からいた斗真にはこの考えが染み付いている。故に斗真はこの考えによって無意識下で撤退という考えを頭から消していた。
二つ目に、葵を救うには現在が最高のタイミングという事だ。今を逃せば葵の所在が不明になり、さらにもし見つけても、他のウロボロスのメンバーが多数いる可能性が高い。その点今はウロボロスは数が少ない上、その一人を斗真が撃破しているため絶好のチャンスではあった。
今の斗真の現状なら、例え残りのウロボロスのメンバーが一人で、さらに無能力者であったとしても返り討ちにあいそうではあったが……
そして最後の理由に──
「俺があの蜥蜴男と、戦闘している間、もう一人の乱射魔の方は一切介入してこなかった。流石にあれだけド派手に音を出しながら戦ったのだから、気づかないはずがない。距離的にたった数階上がるだけ。普通なら合流して二対一で戦わない理由がない。俺だって戦闘途中から余裕が無くなったとはいえ、あの乱射魔が乱入してくる事は予想しながら戦っていた。なのに来なかった。何故か? ……まぁ俺の推測になるが、来なかったというより来れなかったと言った方が正しいだろう。つまり誰かに邪魔された。そして、今、邪魔できそうな実力、理由が共にありそうなのは一人しか思いつかない。まぁ見つけてもやっぱりお前か、という感想しかないが……」
階段を降りながら、斗真は、そんな事を呟く。
「いやぁ、遅かったね。そんなにあの男は強敵だったのかな?」
そんな斗真の呟きに、階段を降りた先にいた、鞘付きの日本刀を手に握る、パーカーの少年は笑顔で応えた。
「まぁさ、斗真が言ってたことは大体正解だと思うよ。流石だね。だから、僕が残りのウロボロスの奴らについては軽く追い払っておいたからさ、さっさと安心して行くといいよ。この階はバーかなんかだったらしくてね。そのバーの椅子の一つに葵ちゃんは縛り付けられてると思うよ」
「お前の目的は……。というよりは俺の名前」
スラスラと喋る少年に対し、名前を名乗ったことがないはずなのになぜ知ってるのか聞く。
すると少年はあぁそんな事? といった顔をした。
「名前なら、さっき戦った雷使いの隊長さんが斗真と言ってたからね。そこから斗真の名前くらいわかるよ。……けど、まぁ実はその前から──具体的には、斗真が暗夜に所属していた頃から、僕は個人的に君を気にしてたんだけどね」
そう言うと少年はにっこり微笑んだ。
そのセリフに斗真は驚く。
「暗夜夜叉にいた頃から……だと」
「別に大した事じゃないよ。ただ気になったからね。それに暗夜の『騒霊』と言ったら、『影』とかと同じくらい知名度があるじゃないか。いつの間にか消えてたから、死んだと思ってたけど、まさか華原家に肩入れしてこうして僕と会うとは思わなかったけどね」
「なんで俺を?」
「さっきも言ったけど気になったからというだけだよ。僕と同じ能力を持つ能力者としてね」
そう言うと少年は、手に持っていた日本刀を離した。日本刀は重量に従い、落ちる──事はなく、そのままフワフワと手の離した地点で停止する。
斗真はその能力よく知っていた。物を自由に浮かす異様、『ポルターガイスト』だ。
「こんな所でどう? じゃあ僕は帰るから」
浮かしていた日本刀を再び掴むと、手をひらひらと振りながら、階段を降り始める。このまま帰るのだろう。
「おい」
斗真はそんな少年を呼び止める。
「何? そろそろ寝たいしちゃっちゃと帰りたいんだけど」
「お前の名前は?」
「月島祐真。斗真の事は気に入ってるし特別に教えてあげるよ」
「月島……」
月島という名字は斗真には聞いたことがあった。というか今の日本国民なら聞いたことがない人はいないだろう。華原家にも匹敵する四大財閥、通称『華鳥風月』のラストの月の字を飾る家だ。
「そう、月島。別に分家とかじゃなくて、月島家の本家の長男だよ。聞きたいことはこれで終わり? 今度こそ帰るよ」
少年──祐真は、斗真の返事も聞かずに、再び階段を降り始める。
が、踊り場で止まった。何かを思い出したかのように。
「あ、忘れてた。くれぐれも葵ちゃんを殺さないようにね。それじゃあおやすみ」
くるりと振り向き、それだけ斗真に聞こえるように言うと、祐真は階段を降りていった。今度は止まることもなく、降りていく音はそのまま遠ざかり消えていく。
「……殺さないように?」
後には意味深なセリフに、呆気に取られた斗真が残された。
祐真の目的は聞きそびれてしまった。
「いや、今はここで惚けている場合ではないか。急がないと……」
斗真は、再び身体を引きずるように歩き始める。目的地はもう目の前だ。
誰か……ブクマを……感想を、評価を恵んでくれ
。。。(lll __ __)バタッ
……というのは冗談だけど気が向いたらして欲しいなぁ(チラッ
まぁそれは置いといて、ここまで読んでいただきありがとうございました
次回も(次回は、か?)早く投稿できるように頑張ります