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第十二話──VS『リザードマン』──

「!!」


 京介が飛びかかった瞬間、斗真は行動を開始していた。

 『リザードマン』の能力上、近接攻撃しかできない。つまり、こちらに飛びかかることは明白。

 ならば、予想して動くこともそう難くない。


「『ポルターガイスト』!!」


 京介と斗真の距離残り三メートル。

 斗真が得意な射程でも、京介が得意な戦闘範囲でもない、この距離で斗真は両腕を突き出す。

 両腕の指し示す先は京介の胸から腹にかけて。

 両腕の周りに浮いていたナイフは、全てその腕の動きに追従するかのように、京介の腹目掛けて一直線に飛ぶ。


「昼と違って数が増えた程度か? その程度でやられるとでも?」


 当然の事ながら、京介が、その異形の腕を一振りするだけで幾本ものナイフが飛び散る。

 二人の距離は残り二メートル。

 いや、二人の距離は残り一メートルを切っていた。斗真もナイフの射出と同時に、京介に向かって駆け出したからだ。


「なっ!! ──いや、死ね!!」


 京介は一瞬驚いたようだが、すぐに攻撃へ入る。一振りした腕を、戻すように大きく振る。

 斗真をまるで左右から挟み込むような形だ。

 二人の距離が残り一メートルを切る。異形の腕はスグそこまで迫っている。

 ここらでいいかと、斗真は足に力を込め、『ポルターガイスト』を発動させながら思いっきり跳んだ。

 今日という一日で散々使った技だが、未だにこれは京介には一切見せたこともなかった。故に意表を突けると斗真は予想していた。


「はっ!?」


 予想通り、京介から唖然とした声があがる。

 当然だ。

 目の前に走ってきたと思っていた男が、まさにアニメや映画で見るような跳躍をしながら、自分の真上を飛び越えて行くのだから。

 対する仕掛けた側の斗真は冷静だった。


「『ポルターガイスト』!! 終わりだ」


 飛び超えながら、飛び散ったナイフを再び能力で浮かべる。そして、両腕を再び京介へと突き出していた。

 飛び散ったが故に、一方向ではなく、縦横無尽な方向からナイフが、一斉に京介へと向かう。

 その絶対の防御を誇る腕は既に攻撃のモーションへ移っており、容易に引き戻して防御などできない。そもそも、周囲全てから来るナイフをその腕のみで防ぐなど不可能だろう。

 昼間、その背中や腹など鱗に覆われていない所は防御が足りないことを知っていた斗真は、このどう足掻いても必ず防ぎきれない状況を作り出すためだけに、動いていたと言っても過言ではなかった。


(これで終わりだ)


 着地するための姿勢を空中で整えながら斗真はそう思った。

 少なくとも斗真の知る限りの『リザードマン』の能力なら、これは防ぎきれないはずであり、何らかの大ダメージが入るのは間違いない。

 ──が、斗真がこうして人一人を飛び越えるほどの跳躍が出来るのを京介が知らなかったように、斗真もまた京介の能力を全部理解したわけではなかった。

 しかし、斗真は理解したつもりになっていた。『リザードマン』は両腕を異形化させて強化する能力だと。


「『リザードマン』完全体」


 ──そんな京介の声と、硬い物にナイフが弾かれる音を聞くまでは。


「はぁ!?」


 今度は斗真が唖然する番だった。

 辺りにはナイフが再び散らばっている。──いや、二度も恐ろしく硬い鱗に弾かれ、壊れたこれらはナイフだった物という方が正しいか。

 そして、そんなナイフだった物の中央に立つ男。もちろん京介以外有り得ないのだが、その姿は同じ人と認めたくないほど異形の姿だった。

 あくまで肩付近までだったその鱗は今や全身まで広がり、足の爪も手の爪と同じように鋭く尖る。いや、手の爪は長く伸び緩やかに婉曲したそれはサーベルに対し、足の爪はまさに猛禽類のような鉤爪だった。それらが合わさって、モンスターの名に恥じないような凶悪さを醸し出す。

 ただ、そんな爪よりまず目がいくのが頭だろう。真っ赤な鱗に覆われた爬虫類の頭がそのまま首から付いていた。蛇なのか蜥蜴なのか詳しくない斗真には分からない。

 鱗の影響か、それとも骨格まで変わったのか、やや猫背気味になり、足を曲げながら、立つその姿はまさに『リザードマン』だった。


「!!」


 しかし斗真には生憎だが、この文字通りリザードマンと化した京介をじっくり観察することはできなかった。

 いや、元々するつもりも無かったが、もししようとしても叶うことはなかった。

 ──なぜなら、斗真の身体は再び宙を舞ったのだから。

 別にまた斗真が能力を使って飛んだ訳では無い。引っ張り上げられたのだ。

 斗真の右足に絡みつく、真っ赤でしなやかな尻尾によって。

 そう、完全にリザードマン──蜥蜴男と化したのだから、当然の事ながら蜥蜴の尻尾がある。ただ、その尻尾はかなり力強く、よくある蜥蜴のように千切れたりしなかった。そんな尻尾は斗真の足に巻き付くとそのまま空中へ放り投げる。


「ぐはっ!!」


 そしてガードをする暇も無く腹を思いっきり殴られた。

 幸運にも殴られたため、その爪が身体に刺さることは無かったが、その異形化した腕から放たれる威力は圧倒的だった。


「──かはっ!! ……ゴホッゴホッ」


 そのまま勢いに飛ばされるまま、空中を数メートル飛行したあと、さらに地面をゴロゴロと転がり勢いが止まった。

 口から血を吐き出す。

 今の衝撃で全身から酷い痛みが走る斗真には、それが単に口の中が切れて血が出たのか、もっと奥の肺等がやられたのかもはや判別がつかない。


「っ!!」


 痛む身体に鞭打って、()()うの(てい)でなんとか隣の部屋に飛び込む。

 ──ドンッ!!

 そんな衝撃が、さっきまで斗真が倒れていた所に響いた。京介が、その地点を思いっきり殴ったのだ。明らかに人間時の時よりも筋力等が上がっている。人間技とは思えない威力に床が揺れる。


(何か……何かないか?)


 入り込んだ部屋を斗真はきょろきょろと見渡す。すぐにでも行動しないと京介がこの部屋に入るだろう。

 入った部屋はあの折りたたみ式の机と椅子が積まれた会議室だった。


「このっ!! 『ポルターガイスト』!!」


 右手を差し出すと、そのまま扉へ向けて振った。連動する様に机や椅子が飛び回る。


「何っ!!」


 京介の驚きの声。

 ガシャーン!! そんな音が京介の声に続いて辺りに響く。

 ナイフが刺さらないのなら、もっと重いものを物理的にぶつけるだけだ。

 音を聞いた感じナイフよりは多少は効果あったのだろう。

 なんとか立ち上がりながら、今度は左手を振る。

 再び飛びまわる椅子と机。

 部屋に侵入しようと試みていた京介に、思いっきりぶつける。今度は向かいの部屋まで吹っ飛んだようだ。

 このスキを逃すべきものか。両腕を上げると、多少数の少なくなった椅子と机を目に入る限り浮かす。

 自分を守るように周囲へ浮かすと、それを盾のようにしながら斗真もまたその向かいの部屋へ突入する。

 今の斗真は、『ポルターガイスト』の異能を活用して、自分の着ている服を動かすということで活発に動いている。もしも異能を使わなければ、フラフラと今にも倒れそうな状態であの異形の腕をかわすことなど不可能だろう。

 つまり、体力を温存するためにも、そのままこの部屋で防衛するという選択肢もあった。

 が、斗真はそれをせずに身体に鞭打って攻めた。理由は簡単だ。単純に邪魔が入るのを恐れたのだ。例えあくまで少しの間潜伏するために潜んでいるだけと言っても、敵の根城である事には違いないのだ。

 ここでもう一人でも加勢に入られたら負ける。その事を恐れた結果である。

 それに斗真の異能は、あくまで視認できる範囲が能力の有効範囲であり、攻撃するのにはその部屋に突っ込むしかないというのもある。

 ドーン!!


「!!」


 部屋に入った途端、ド派手な衝撃音が右に浮かしていた机から響いた。というか机が砕けていた。

 京介の攻撃だ。部屋に斗真が突っ込むのを見越して構えていたのかもしれない。

 攻撃を喰らった机は真ん中に穴が空いていた。相変わらず、まさに化け物の破壊力だ。今の体力も考えるともう一撃喰らうと終わりかもしれない。

 しかし、斗真はこの攻撃を冷静に椅子を一つぶつけることで対処する。

 これくらいは予想済みだ。

 部屋の隅へ立つと、向かってくる京介へまずは椅子を盾のように当てる。


「ぬっ?」


 怯む京介。斗真はスキを逃さずに、右手を振る。連動するように斗真の右に浮いていた机が

追撃をかける。

 次は左手を縦に振る。その次は右を横に薙ぎ払うように。

 その度に机が、椅子が、京介へ向かって飛ぶ。


「ぐっ!!」


 縦横無尽に飛び回り確実に当たる机に、京介は苦しそうな声を上げる。

 いくら『リザードマン』の防御力を持ってしても、これだけ連続で当てられたら堪えるらしい。


「終わりだ」


 斗真は、後ろに落ちていた机を再び浮かしつつ、そう言った。

 次に自分の前に、浮かぶ椅子と併せて挟み撃ちにする。

 これで、一気に戦闘不能にする。


「いけ!!」


 ──しかし、京介はまだ諦めた訳でもなく、このままみすみすやられる様な男でも無かった。


「くそが!! さっきからウゼェんだよ!!」


 再び音が部屋に派手に響く。

 京介は、前方の机を腕で、後ろから飛んできた机は尻尾で叩き落としたのだ。


「なっ!?」


 斗真は驚きの声をあげた。が、それと同時に両脇から挟み込むように机を飛ばす。別に少し驚いたくらいで追撃の手は緩めない。


「結局はお前の腕を見れば、動きがバレバレだ!! それがお前の能力の欠点か」


 京介は叫びながら、その追撃すら両腕で防ぐ。


「それで終わりか!!」


 右から、左から、上から、様々な方向から飛ぶ攻撃は、今やもう京介には効きそうもなかった。せいぜい時間稼ぎ程度にしかなっていない。


「なら、こちらが言わせてもらう。──終わりだ!!」


 京介は斗真へ一気に飛びかかった。鋭利な爪が窓から差し込んだ月光に当たり煌めく。


「そんな……。──なんて安っぽいセリフでも言うとでも思ったか!!」


 斗真はそのままやられる──なんて事はなく、冷静に、両腕を京介に差し向ける。

 その瞬間、飛びかかった京介へ部屋中の物という物全てが飛んだ。

 今までに無いほどの大きな音が響く。

 京介の周りは今や一つの廃材置き場のようになっていた。あの赤い鱗はあまりの物の数に見えない。


「別にお前が、俺の腕の動きを読むことくらい予想済みだっつーの。むしろあまりにも気づくのが遅いから周囲の机やら椅子やらをお前に一気にぶつけるために少しずつ移動させるくらいの暇はあったわ」


 斗真は、荒い息を吐きながら吐き捨てるように言った。

 元々チマチマ机を当てるくらいでこの圧倒的防御力を持つ京介を倒せるなんて思っていない。


(流石にこれで終わっ──!!)


 廃材の山が動いた。乗っていた椅子の一つが、ガシャンと音を立てて落ちる。

 そして、その落ちた椅子から真っ赤な鱗が姿を見せる。


(まだ動けるか……!!)


 斗真は、服から残り全てのナイフを取り出すと、再び構える。

 ガシャン、ガシャンと最初の椅子に連なるように、いくつも机や椅子が落ちる。そして、蜥蜴頭がゆっくりとその中から顔を覗かせた。


「まったくもってお前にはしてやられた。まさかこちらの動きを予想していたとはな」


 諦めた……そんな風にも取れるような喋り方で京介は喋る。

 ガタッ!! 喋りながら京介は埋もれた腕を引き抜く。


「けど、これは予想できたかな」


 その腕だけは、既に異形と化していなかった。ただの人間の腕である。故にその手の先には、あの恐ろしい爪も鱗もない。しかし、代わりに真っ黒な拳銃が握られていた。


「──それくらい予想してたさ。昼間と同じ手だ。それにそうすればお前の防御力が落ちることもな」


 斗真は拳銃を向けられても一切動揺した素振りも見せなかった。むしろ昼間にこれで痛い目にあったのだ。予想しない方がアホだろう。

 斗真は両手をその腕へ向ける。ナイフがそれに連なるように飛ぶ。

 京介は銃の引き金を引く。

 二人は同時に言った。


「「終わりだ」」


 一発の銃声が辺りに響いた。


 ──☆──☆──


「グアアァァァァ──!!」


 銃声の次に部屋に響いた苦悶の叫び声だった。

 叫んでいるのは、目にナイフが刺さった蜥蜴男である。


「そんなに叫ぶな」


 一方、斗真は撃たれた肩を抑えながら苦しそうな顔でゆらりと立っている。


「ちっ!! 肩で済んだのは僥倖か」


 そんな事を言いながらまだ、それでもまだ動こうとした京介の目にもう一本のナイフを突き立てる。──手は撃たれた肩を抑えたままで、動かない。

 部屋に更なる叫び声が響く。


「そんだけ叫んでたら聞こえるか分からんが、冥土の土産に一つ話しておいてやるよ」


 両目を潰したため、もう京介に戦闘はできないだろう。

 斗真は、淡々と話し始める。


「 一応俺の異能は、別に手と連動して物を動かす異能じゃねぇ。普通に思い、念じただけで物は動く。ただ手を動かすのはその方がイメージしやすいからだ。今回は……というかよくある事だが、この手を動かすことをブラフに使った。勘違いしてくれればラッキーだからな。今回のように手に刺すと見せかけて目に突き刺すこともできる。ついでに言うと俺は最初から目をナイフで突き刺すつもりだった。机を見つけるまではナイフしか手元に無かったからな。ナイフだけでこんな硬い相手をなんとかするなら目など柔らかい所に刺すに限る」


 淡々と話す斗真。

 対する京介は、刺された目を手で抑えていた。その手は既に異形化していない。身体を覆っていた鱗も少しずつ消えていっている。

 それはそうだろう。能力を発動させるにはそれなりの集中力がいる。流石に両目を潰されてなお、能力を発動させよ、というのは無理な話だ。


「よし、流石に能力が解けたか。なら、お喋りはここまでだ。──じゃあな。地獄ででもまた会おう」


 斗真はそう言うのに合わせたように、残りのナイフが再び浮くとブスブスと京介の身体へ刺さっていく。

 数十秒後、そこには全身にナイフが刺さった血まみれの男が一人、瓦礫の中で倒れていた。


 『ポルターガイスト』VS『リザードマン』。


 決着。


「はぁはぁ……勝った」


 京介の死を確認すると、斗真はいまにたおれそうなくらいフラつきながら、腰を下ろした。

 集中力が切れて、異能が解けたのだ。


「あと一人いるんだったな……ちくしょう。予想以上にボロボロになっちまった」


 後ろから襲われない程度には警戒をしつつ、怪我の応急処置をする。服を裂くと包帯がわりにして、手馴れた様子で止血する。


「銃弾は……貫通してるか。まさにラッキーと言ったところだな……。よし、止血終わり」


 再び斗真は立ち上がる。

 大きくフラついたが、倒れ込むような事は無かった。

 そして、身体中を引きずるように、階段へと向かう。

 これはあくまで戦いには勝利しただけであり、まだ仕事は終わってないのだ。

 斗真の仕事はまだ続く。

一つの戦闘を一話に収めようとすると、だいぶ長くなってしまった……

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