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第九話──夕刻のホテルで──

「……ん」


 斗真は意識が急速に覚醒していくのを感じた。背中の感触からどこかベットか布団に寝かせられているらしい。


(生きてる……!! まったく、我ながら悪運付きないな)


 斗真の記憶には橋の上での激闘の後、橋から飛び降り、その着水の衝撃で意識を失ったところまでしか無かった。

 あのまま水に浸かっていたら怪我による出血で死の危険もあったはずだった。つまり斗真は救助されたということである。ウロボロスがわざわざそんな事をするとは考えにくいため少なくとも今は安全と見て間違いない。

 ……間違いないはず……なのだが、なぜか斗真の両手首は縄で縛られていた。


(まさかウロボロスのやつらがわざわざ拷問するために助けたってことはねーよな)


 そんな不穏な考えが頭をよぎる。

 とはいえ、両手の自由が効かず、目を閉じていても何も出来そうもないのも事実。だから斗真は最悪な自体を想定しながらゆっくりと目を開けた。

 そこは至って普通の部屋だった。そこそこの広さの部屋にテレビとベット等が置いてある。どうもどこかのホテルの一室らしい。

 斗真から見て左側には窓があり、そこから外の様子が見えた。と言っても、この部屋はかなりの高さにあるのか、それとも周辺に高い建物などないのか見えるのは夕日に染まった空ばかりだったが。

 斗真が顔を窓から反対の壁側へ向けると、そこには二人の男がいた。

 一人は壁にもたれ掛かるように立っている。歳は二十代後半くらいだろうか。立っているためか、まずその男の身長に目がいった。目測だが百九十センチ超えているかもしれない高さであり、もう片方が小柄な事と相まってかなり大きい。

 もう一人はまだ先ほどあった謎の少年と変わらないのではと思うような年端もいかない少年だった。こちらは、机の上にノートパソコンを置いて何やら作業している。あの男が大きいからよけいに感じるのかもしれないが、かなり小柄な体格なのがより幼く感じさせているのかもしれない。


「あっ!! 気づきましたー?」


 少年は、斗真が目を開けた事に気づいたらしい。その声で男の方もゆっくりとこちらへ顔を向けた。


「起きましたか」

「……何でお前らここにいる」


 斗真が疑問の声をあげた。

 この部屋にいた二人の男。それはどちらも斗真は知っていた。


「起きて第一声がそれですか。命の恩人への扱いとしては多少酷いとは思いませんか?」

「あぁ、それはすまなかったな。蓮さん」


 敬語で嫌味を込めた様子で言う男──上地蓮かみじれんに斗真は謝る。蓮は華原家の警備かつ私兵団の隊長をしていたはずだ。と斗真は頭の中で整理する。

 綾乃を暗殺しかけた際に、暗夜夜叉から事前に情報としては聞いていたが、こうして実際に話すのは初めてだった。


「たいちょー。あんまり怪我人を弄ぶのはダメだと思いますー」


 蓮を諌めるようにやや間延びした声を少年はあげる。


「えっと……そっちは……」

「ぼくはそこのたいちょーの部下の一人の、伊藤颯太(いとうそうた)っていうよー。そうちゃんとか呼んでくれると嬉しいな」


 そう言いながら颯太はにっこりと笑った。


「そうちゃんね……わかった」


 颯太はかなりマイペースらしく、その後もペラペラと斗真へと話しかけてきた。隊長がその横で颯太のペースにイラついた様子をしているが、本人は気づいてないのか気にしてないらしい。


「颯太さん? 雑談もいいですけどもう少し違う時にしましょうか」


 数分後、蓮が会話を止めた。


「そんな雑談より聞きたいのは斗真さん。先ほどあなたが交戦したウロボロスの能力者についてですよ」


 蓮は話しかけてくる。口調こそ敬語だったが、颯太と比べるとあまり友好的には聞こえない。どちらかと言えば冷たく、話しかけたくないやつに話していると言った感じだ。


「ウロボロスのか?」

「はい。能力者同士の戦いにおいて、相手の能力を知ることは重要ですからね。そのためにこうして助けて聞いているので早く答えてもらっていいですか?」

「まるで、俺がそのためだけに助け出された様な言い方だな」


 斗真がそう指摘すると蓮はその通りですが、と言わんばかりの顔をした。


「実際そうではないのですか? あなたはなんの益もない人間をわざわざ助けますか? まぁ、今回は歩様の命令もありましたので助けましたが」


 薄々勘づいていたが、やはり綾乃の命令で来ていたようだ。あの未来が見えるという綾乃なら斗真が瀕死になった所で味方を送って助けるのも余裕で行いそうである。


「お前は嫌な性格してると思うよ」

「そうですか。それより早く言ってください」


 斗真は嫌味を言うが、軽く流される。どうも無駄話は嫌いらしい。


「……はぁ、わかった。言うよ。今んところは見たのは二人。片方は雑誌らしき本から銃を取り出してた。恐らく文字か写真を実体化させる能力か、本が異空間の倉庫に繋がっててそこから自由に物が取り出せる能力だろう。もう片方は異形化だ。リザードマンという能力名からして蜥蜴男になると思う。今のところ異形化してたのは両腕だけだ。──これでいいか?」

「なるほど。ありがとうございました。──それじゃあ」


 それを聞くなり蓮は、扉へ向かって歩き出した。


「どこ行くつもりだ?」

「どこって……もちろんウロボロスの潜伏先と思われる場所ですよ。あの少女を保護する任務は私達が引き継ぎますのでそこで安心して寝ててください」

「なら、俺も行く」


 斗真は立ちあがろうとしたが、縄に邪魔されて立ち上がれなかった。両手首を縛る縄はベットの足に括りつけているらしく、長さ的にまともに起き上がることすら出来ない。


「ちっ。この縄はお前らがか?」

「はい。怪我人に仕事させるわけにはいきませんので」

「その怪我人を縛り付けることにはなんにも思わないんだな。俺は別にこれくらい大丈夫だ。もっと酷い怪我の中、動いたことだっていっぱいある。だから連れてけ」


 強引に連れていけと主張する斗真に、蓮は大きくため息をついた。


「はぁ……。聞き分けが悪い人ですね。私はあなたが足でまといだと言ってるのです。だいたい歩様もこんな数ヶ月前に転がり込んできた得体の知れない男にこんな仕事をさせるとは……」


 最後のは斗真へ向けてというよりは呟きと言った様子だったが斗真にはしっかり聞こえていた。


「それが本音か」


 指摘すると、蓮は顔色一つ変えず肯定した。


「はい、そうですね。まぁだからあなたはゆっくり休んでいてください。あなたの無能っぷりはしっかりと報告させてもらうので。──では颯太、いつも通り後方支援は任せましたよ。……あ、くれぐれもこの男の縄を解かないように。これは隊長命令です」

「はーい」

「ちょっ!! おい待て!!」


 斗真が声をあげるが、蓮は無視して出ていく。後には颯太と斗真の二人が残された。


「なぁ、そうちゃん? ちょっとこの縄解いてくれない?」


 一応ダメ元で颯太に聞いてみる。


「だめー。たいちょー命令だから」


 が、返答は思った通り芳しくなかった。

 どうしようかと斗真は思った。きっと綾乃の事なので、別にこのまま蓮の思惑通り寝ていても特になんにも言われないだろう。むしろ話してもないのに蓮とのやり取りを知ってそうですらある。が、斗真の性格的に、このまま人の言われるがままというのは少し気分が悪いし、一度言われた仕事は最後まできちんと終わらせたかった。


「──まぁ縄を解くのはだめだけどねー。これ」


 颯太の話は終わっていなかったらしい。そんな颯太が言いながら、カバンから取り出した物はナイフだった。斗真がよく使っているような比較的大振りなサイズのやつだ。


「お前……」

「たいちょーには秘密でちょっと歩さんから頼まれていたりー。あ、けどこれは机の上に置くだけだからね。これから何しようがぼくは知ったことじゃないからね」


 颯太はそう言うとにっこり笑う。


(やっぱり流石アヤノだな)


 そう綾乃について思いながら、颯太の笑みに釣られてか斗真もニヤッと笑った。

学校始まるとやっぱり忙しいから投稿ペース遅くなるな……(´・ω・`)

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