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プロローグ──ある夏の日──

 夏祭りの交通規制によって歩行者天国と化した交差点。周囲には屋台が並び、祭りを楽しみに来た人たちが歩き回っている。そんな中、明らかに祭りによる浮かれた雰囲気とは異なる空気を纏った二人が、交差点の真ん中に立っていた。

 一人はヤンキー風の若い男だった。耳にピアスを開け、髪は金髪に染めている。スタジャンを羽織り、ズボンには、ジャラジャラとしたチェーンを付けていた。ただ、そんなヤンキー風のファッションから浮いている物があった。片手に何かしらの雑誌を持っていたのだ。どうもミリタリーオタク向けの雑誌か写真集かなにからしく、表紙には銃などの写真が見える。

 もう片方は女性だった。年齢は四十代後半と言ったところだろうか。メガネをかけており、知的で落ち着いた雰囲気がある。こちらは男とは違い何も持っていない。


「──つまり、その異能(ちから)を俺たちに渡すつもりはないと」

「えぇ」


 男の問いかけに対し、女性は静かに答える。


「なら、俺たちに協力するつもりもないと」

「もちろんです。あなた達にこの異能は手に余るものですよ。ヤケドどころでは済みません。最悪あなた達だけでなく、この世界そのものがヤケドどころではない怪我をする可能性すらあります」

「別にそれくらい知ってるさ。だから寄越せって言ってるんだ。……まぁいいや、どうせこうなるのは予想出来てたからな」


 そう言うと男は、おもむろに手に持っていた本を開けた。


「確か、十五ページに……『ジャバウォック』」


 パラパラとめくり目当てのページを見つけると、男は手を突っ込んだ。文字通り本の中に突っ込まれた手は、ズブズブと本の中に埋まる。別に反対側に、手が本を破いて出てくる様子などはない。

 少しゴソゴソと何かを探すかのように手を動かしたあと、ゆっくりと本の中から何かを引っ張り出した。


「それがあなたの能力ですか……」

「あぁ、そうだよ。『ジャバウォック』。いい能力だろう? まぁお前の異能には遠く及ばないがな」


 そう言いながら、取り出した物を周囲にも見えるように高く掲げる。

 どうやら何かのスイッチのようだ。


「……ところで、これが何かわかるか? まぁ見りゃ分かると思うが爆弾のスイッチだ。実はあらかじめ周囲に爆弾を仕掛けさせて貰った。お前はそういう知識に疎そうだし、詳しい説明は省くが、この辺り一帯を吹っ飛ばす程度の威力はあるぜ?」

「……」

「どういうことが分かるだろ? ここでこれがドカーン!! ってなればこの周りの奴らはどうなるかくらい」


 そう言うと、男は大仰に辺りを見渡す。

 周囲はなにやら異なる空気にを感じたのかざわめき始める。

 対する女性は、まるで石像のように微動だにしない。


「今頃気づいてもざわめいても遅いってのになぁ。……ここでもう一回聞こう。その異能、俺たちに渡すか、それか俺たちの仲間になって協力するつもりはないか? もちろんここでイエスと言えば、このスイッチは押さずに元の本にしまい込んでやろう。ノーと言えばここの周囲にいる奴らは死ぬ」

「それがあなたの……いえ、あなた達のやり方ですか」

「俺たちウロボロスのメンバーに死を恐れる様なやつは一人もいねぇからな。ついでに能力を一切持たない一般人への被害なんかを気にするようなやつもな。だからこれくらいはさせてもらう」


 「ウロボロス」とは、現在最も世間を騒がせているテロ組織だ。規模は他のテロ組織と大して変わらないが、他と大きく違うのは、構成員のほぼ全てが、なんらかの能力者であるという点である。

 数万人に一人と言われる希少な能力者を多数揃えれたのには理由がある。それはウロボロスがとある「能力者至上主義」という思想を中心に集まったグループだからである。

 能力者至上主義とは、能力者の存在が、世間一般にも広く知られるようになった大戦後に出来た思想の一つである。内容は、能力者は人間の上位種であるといったもの。故に、能力者によって、統治される世界が正しいと考え、そのためにテロ行為を頻繁に巻き起こしているのが、ウロボロスである。

 故に、一般人は下に見ており、いくらテロの巻き添えを食らおうが気にしていない者が多かった。

 そんなウロボロスの構成員の一人である男は、女性にずいと近づく。


「で? 答えは? 生憎会話で時間を伸ばそうったって無駄だぜ。変なやつが介入してきても困るからな。今すぐ答えを言わないならすぐにでも爆破する」

「……もちろんノーですよ。先ほど言ったでしょう。これは世界をヤケドどころでは済まない被害を与えるかもしれないと」

「つまり、この周りの奴らには世界の為に尊い犠牲になってもらおうと?」

「えぇ」

「そうか……ならこの話は終わりだ」


 そう言うと、男は躊躇なく爆破ボタンに押した。

 爆弾から凄まじい爆発が発生する──


「『ラファエル』!!」


 ──その直前に女性は手を伸ばすと自分の能力を発動させる。

 そして、辺りは爆発に飲み込まれた。


 ──☆──☆──


 男はゆっくりと目を覚ました。

 体を起こし、辺りを見渡すと、自分の目を疑いたくなるような光景が起きていた。先ほどの爆発で焼けた人や吹き飛んだ人。そういった本来なら見ていられないような酷い怪我を負った人や死んだ人が次々と回復していくのである。まるで、ビデオを逆再生しているかのようだ。

 もちろん男自身の腕も酷く焼き爛れていたが、みるみるうちに元の腕に戻っていっていた。

 気づけばあっという間に元通りだった。せいぜい爆発前と違うのは、男自身が道路の真ん中で寝転がっていたことと、あくまで元に戻ったのは人間限定であり、辺りの道路や建物までは元に戻らず、酷い有様であったことだろう。

 ゆっくりと立ち上がると再び周囲を見渡す。もう再生現象は終わっているらしく、男と同じように回復したらしい人がざわついてる。


「ふむ……。自爆テロなのに犯人が死んでないとは随分と滑稽話だな。……まぁあんたの仕業だろ、伊藤里美(いとうさとみ)。……?」


 返事は来ない。

 男は先程まで、女性──里美が立っていた場所を見るとそこには死体があった。どうもこの死体だけは、先ほどの逆再生から取り残されているようだった。死体は焼け焦げて、なんて表現が陳腐に聞こえるほど酷い有様で、もう元の姿も分からないが、里美のものであると男は確信した。


「自分に能力を使う余裕が無かったか、はたまた自分には使えない能力だったか。まぁここまでリーダーの言う通りの展開だな。流石リーダーというか──」

「終わったようだな、(りょう)


 突如男──亮に声がかかる。かかった方向へ振り向くとそこには一人の男が立っていた。亮より少し歳は上の様であり、サングラスをかけている。

 そのサングラスの男を見ると、亮は安心したように顔を緩めた。


「あぁ、京介(きょうすけ)。終わったよ。ウロボロスへの報告は?」

「もう済ませた。ちゃっちゃと帰るぞ」

「おっけー、了解」


 歩き始めた京介に、亮は付いていく

 この惨劇を、誰かが通報したのか、遠くからはパトカーや救急車のサイレンの音が聞こえた。

 まるでそのサイレンが亮にはゲームのクリアした時に流れるBGMのように聞こえたのだった。

久しぶりに書きました

拙い文章かもしれませんが全力で書き上げますのでよろしくお願いします

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