『ドア(4)』
瞼の裏に光を感じて、私は心地よい眠りから穏やかに覚醒しました。ベットの上。仄暗い私の部屋。カーテンの隙間からようやく差し込んできた一筋の光が、私を深い眠りから起こしてくれたみたいです。
上半身を起こして、組んだ手を天井へ。縮んでいた身体が限界まで伸ばすように大きく両手を突き上げます。手を下ろすと、身体の中に溜まっていた空気が残らず出て行きました。ごきごきと回した首が音を立てます。目尻に涙の気配を感じました。
とにかくおはよう、今日の私。
また新しい一日の始まりです。なんだか、心の底からわくわくが頂上の私目指して登山しているみたいです。身体の芯が軽やかなステップを踏み出しているみたい。思わず微笑んでしまいました。
と、寝起きだというのに空っぽになっていた私のお腹が、早速小さな悲鳴を上げました。ちょっと恥ずかしい……。私はベッドから足を出して、ひんやりとした床の温度を確かめました。その心地よい冷たさを足の裏に感じながら、廊下に向かうことにしました。空っぽになっていたお腹もさることながら、私自身、今すぐにおいしい朝食を食べたくて仕方がなくなっていたのです。
ドアの前に立ってアルミ製のノブを回しました。意気揚々と廊下へ一歩踏み出します。寝起きの朝でも元気なのが私の取り柄なんです。でも、そんな私のご飯を目指す、続く二歩目は出ませんでした。私は目の前に広がった景色に我を忘れてしまったのです。
野晒しの大地が広がっていました。激しくうねりありとあらゆる方向から吹き付ける乾いた暴風。舞い上がる砂埃は砂塵となって岩石を削っているかのようです。雑然と林立する切り立った岩肌に私は我が目を疑いました。だってそこはまるで異世界だったのですから。
しばらく呆然と立ち尽くしてから、とにかくドアを閉めました。別になんら考えがあった訳ではありません。とにかく閉めたのです。
帰ってきた部屋は、落ち着いたいつも通りの自室でした。小さな机とその隣にあるベット、洋服が閉まってあるクローゼットに本が詰まった本棚。カーテンから差し込んだ朝日が薄っすらと光源となっている部屋には、窓の外にいるのだろう小鳥の鳴き声が響いてきていました。
普通でした。どれもこれも。本当に普通すぎました。
私は何か狐にばかされたような何とも言えない歯がゆさに襲われました。さっき見た光景が一体なんだったのか訳が分からないのです。
無性にむしゃくしゃしてきて、もう意を決して再びドアを開けることにしました。恐かったですが、今はすぐにでもご飯が食べたい! 私は勢いよくドアを開きました。その先に広がる世界は極寒の雪山でした。
家中に響くんじゃないかと少こしだけ心配してしまったくらいに大きく、ドアを叩くように閉めると、私はまっすぐにベッドへと向かいました。
きっと夢なのです。夢のはずなのです。そうじゃないはずがないのです。絶対絶対に夢に違いないのです。そう強く願って私はもう一度眠ることにしました。
そう言えば、机の上に昨夜はなかったはずの青い人形があった気がしました。でも、もうどうでもいいです。おやすみなさい。