『仮面の裏側(3)』『ブリキの兵隊さん(2)』
一つはちょっとグロテスクです。もう一つは特に問題ありません。
『仮面の裏側』
やあ、僕はピエロ。みんなの笑顔が大好きな道化師さ。僕がおどけたり、間抜けな失敗をしちゃった時、みんなが声を挙げて笑う。原の底から楽しそうに。
そうやって笑ってもらえるのが大好きなんだ。だって何だか僕まで楽しくなるんだもの。心臓の辺りがぽっと暖かくなる。
だからいつだって僕は笑顔でいられる。みんなの笑顔が僕を暖かくしてくれるから。そして僕はみんなを笑わせることが出来る。みんなが大好きだから。
でも。
最近何だかつまらないんだ。みんな僕を見て笑ってくれる。僕を見て楽しんでくれる。だけど、僕はちっとも暖かくない。
そりゃあ、確かに最近いろんなことがあったよ。ぶらんこ乗りのとっても可愛い佐喜ちゃんはお金を稼ぐためにをAVをやっていたし、猛獣使いのかっこいい新ちゃんは裏では人を脅してお金を巻き上げてた。
優しそうな顔した団長は、よなよな目をつけた客と一夜を共にしていたし、僕はみんなから嫌われていることも分かった。
でも、でもさ、そんなこと僕には関係ないはずなんだ。だって僕はピエロなんだから。みんなを笑わせて幸せにするピエロなんだから。道化師に涙はないんだよ?
だからね、僕は今この瞬間の光景がよく分かんないんだ。
目の前に転がる三つの何か塊の山。白くて堅そうな何かが山の上から突き出てて、何だが気持悪い。そして、辺りに立ち込める、濃くてまとわりつくような臭い。赤黒く染まったテントの中では一体何があったんだろう。足枷が三本伸びてるんだ。
極め付けは、僕の隣にある真っ赤な電動ノコギリ。赤い液体が滴り落ちてる。
何があったんだろう。僕には分かんないや。まあ、いいか。とにかく笑っておこう。
僕はピエロ。いつも微笑みを絶やさない道化師さ。
(おわり)
★ ☆ ★
『ブリキの兵隊さん』
スーツ姿の営業マンの中に埋もれて、俺はじっと信号が青に変わるのを待っていた。
目の前をいくつもの車が音を立てて通り過ぎていく。ボンネットが太陽を反射して、車は通り過ぎるたびに強く光を放っていた。
人と熱と音ばかりに埋め尽くされたこの都市。こんな場所に心なんてあってないようなもんだ。どこを見ても、上辺だけの言葉と笑みばかりが溢れている。本心なんてどこにもない。だから、何も考えないほうがいいんだ。暑い暑いとぼやきながら、イライラと信号が変わるのを待ってさえいればいい。そうすれば、いつの間にか一日は終わっているのだ。頑張ったって、頑張らなくたって、結局そんなもんなんだ。
信号が青に変わる。周りの人々が軍靴を鳴らし始める。身を委ねるようにして歩き出すと、目の前を歩いていた人の靴の下から急に白い羽が現れて、俺の靴の下へと消えていった。
やっぱり、そんなもんなんだよ。ブリキの兵隊に混じって歩く俺もしょせんブリキの兵隊でしかなかったんだ。
行進は今日も街を埋め尽くす。
(おわり)