『故障(3)』『ビスケットパンチ(3)』
一つはシリアス(?)、もう一つはノリだけです。
『故障』
壊れた時計は何時までも時を刻む代わりに正確さを失った。
先端が欠けたナイフは切れ味が落ちた代わりに脅しに使うのにはもってこいの道具になった。
夢を失った僕たちは現実的に生きる事にくだらない価値を見出した。
営業の途中で立ち止まった信号待ちの人ごみの中。僕たちは一体どこへ向かおうとしているのか。
会社の歯車の一部として働いて、家族のためだとか、社会貢献のためだとかいろいろと理由をつけて働いて。
君たちは一体どこへ向かおうとしているの? 何のために働いているんだ?
信号が青に変る。人々はまた歯車の一部として歩き始める。僕の思考も、大いなる流れの前においては砂粒程度の抵抗しか表しやしない。
今日もあそこと、ここと、ああ、あっちも回らないといけないな。
思考は単調な繰り返し。今日も明日もそのまた未来も。僕たちは働き続ける。
何の実感もないままに。データ化されたお金を貰って使って、僕たちは生きていく。
壊れた電球は部屋を明るく照らし出さない代わりに漆黒を与えてくれるようになった。
壊れた歯車は一緒に大きなものを回さない代わりにアンティークとして楽しまれるようになった。
壊れた僕たちは今日も変らない代わりに平穏な毎日をおくっていた。
でも。
壊れた社会はもう元には戻らない。壊れた僕たちはもう元には戻らない。
壊れたこの国はもう明日が分からない。
この国の経済の行く先を、周りの諸外国が行っている戦争を、壊れた僕たちはどうすることも出来ない。
航海し始めたこの海が凪いでいるのか嵐に覆われているのか。
僕たちにはもう知るよしもない。そして、知る必要もない。
だって僕たちは壊れているのだから。
青に変ったはずの信号機は、ほんの二、三秒で再び赤く点灯した。
走り去っていく人ごみを眺めながら歩いていたキミが、容赦なく発進した自動車に吹き飛ばされた。
ふわりふわりと宙を舞うキミ。
壊れた僕たちはそんなキミに見守られながら、今日もまた淡々と営業先へと向う。
(おわり)
★ ☆ ★
『ビスケットパンチ』
パンチパンチクラッシュパンチ! 両手を構えて飛び出すパンチ! 怒りに震える強烈パンチを今日こそあいつにくれてやる!
毎日あいつは私を見ては、にやにやへらへら笑ってた。私の体、綺麗な体、卑しい瞳で見やがって。めちゃくちゃ鳥肌立ったんだ!
パンチパンチクラッシュパンチ! 今日こそガツンとやってやる!
昼食終わった昼休み。わいわいがやがや声の渦。小さく吸った息を吐き私はそっと席を立つ。
目指す後方、あいつの席。やっぱり今日も笑ってた!
なるだけゆっくり近づいて、あいつに向かって微笑んだ。
驚くあいつ。喜ぶあいつ。き、キミもボクに興味があったんだ、ですってー!?
ぞわぞわぞわり粟立つ肌に、私は完璧支配された。
握った拳が一番最初、あいつの顔面一発パンチ!
ミシリ食い込む私の拳。あいつは可笑しな声出した。
続けて左。口の横。顎骨狙ってスーパーパンチ。
続けて続けてワンツーワンツー。唸りをあげますクラッシュパンチ。まだまだおかわりありますよ?
痛みに立ったあいつのふところ。私のフックがうなりをあげる。
ぐさりとみぞおち食い込んで ナイスだグッドたもう一発。
脂が乗ってるその頬に、唸るぞ放つよもう一発。
攻撃受けて怯んだあいつ。腹部と頬を押さえてる。涙で一杯驚く瞳が、私をじいっと見上げてた。
まあ、攻撃はやめないけどね。
頬へ肩へ連打連打! 顎へ腹へ連打連打!
オラオラオラオラオラオラオラオラ!
炸裂パンチは爆裂拳。
オラオラオラオラオラオラオラオラ!
フラつくあいつは無様よのう。
最後に一発どでかいやつを、あいつの体に打ち込んだ。
パンチパンチクラッシュパンチ。
全てを壊すビスケットパンチ!
(おわり)