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4月28日――関係2

 4月28日。

 いつも通りの日常が過ぎていく、何の変哲もない連休前の昼休み。


「青葉。ちょっと先生に呼び出されたから、先に行ってコレ食べてな」


 そう言いながら結木さんは、青いチェック柄の布に包まれた四角い物体を手渡してきた。


『……』


 沈黙に包まれる教室。

 そりゃそうだろう。表面だけ見れば、今の行動は彼氏に手作り弁当渡す女子だ。


 しかし待ってほしい。

 一見すると小洒落て見えるこの包みの中身は、結木家の昨日の夕飯の残り物が入ったタッパーである。

 間違っても恋に恋する乙女が女子力発揮してこさえた愛妻弁当などではない。


「うん。分かった。先に食べてるね」


 しかしそんな言い訳をしたら、ドツボにはまる未来が過去視しか持ってない僕でも見えるわけで。


「……」


 そしてそんな誤解が渦巻く教室の中で、穴が開くんじゃないかと言うほど強い視線を向けてくる仲辻さん。

 結木さん。ただの幼馴染って絶対嘘でしょ。

 僕は未だかつてこんな強い視線を受けたことはないよ。しかも女子から。


「はあ……」


 本当は昼休みになるなりトイレに行ってしまった姿見くんを待つつもりだったのだけれど、早々に退散した方がよさそうだ。

 僕は弁当や水筒の入った鞄を肩にかけると、逃げるように教室を後にした。



「仲辻さんってレズなのかなあ」

「……」


 屋上にて。

 僕が弁当箱を広げながらそう漏らすと、箸を口にくわえてコーヒーをカップに注いでいた姿見くんが無言で固まった。


「お、今日の青葉のおすそわけは青椒肉絲か」

「うん。ちゃんと冷めても美味しいよ……ってそうじゃなくて」


 結木さんもこの屋上での弁当タイムに加わってから、僕と結木さんの二人は弁当に余分におかずを持ってきて三人で分け合っている。

 一応は残り物を片付けるためとは言っているけれど、欠食児童状態な姿見くんのために持ってきているのは本人も気付いているだろう。


 でも今はそこは問題じゃなくて。


「流さないでよ」

「そっちこそつっこみ辛いボケ方すんなよ。流すしかないだろ」

「ボケじゃないから。何か最近僕と結木さんが話してるだけですっごい睨まれてるから」

「何でそこで『自分に気があるかも』じゃなくて『結木に気があるかも』になるんだよ」


 青椒肉絲を自分の弁当のご飯の上に乗せながら、呆れたように言う姿見くん。

 確かに僕も他の誰かに言われたら同じように呆れただろう。

 しかし状況を見ればその可能性は低いとしか言いようがない。

 というかまだ転校して一週間ちょいしかたっていないというのに、惚れた腫れたの話なんて馬鹿馬鹿しいだろう。


「……」

「いや。何その呆れと殺意が混じった『リア充死ね』と言わんばかりの顔」

「そのまんまだよ。結木と幼馴染云々は置いといても、仲辻おまえに世話焼きまくってただろ」

「それは僕が転校生で、仲辻さんが優しいからでしょ」

「あー、そうか。そう見えちまうのか」


 僕の言葉に何やら納得したように漏らしつつ、コーヒーを飲む姿見くん。

 しかしコーヒーがぬるかったのか、不意に「3カウントでコーヒーが適温になる」などと宣言してカウントを始める。

 何て無駄に汎用性が高い異能なんだ。


「去年も仲辻と同じクラスだったけど、あいつがクラスの男子に話しかけてんのとか見たことないぞ」

「ええ? それこそ転校生に世話焼いてただけなんじゃ……」

「だから。転校生だからってなんで仲辻が世話を焼くんだよ」


 そう言われてようやく少し納得する。

 確かに。仲辻さんはクラス委員でも何でもない。たまたま席が隣だったというだけだ。

 去年一年間男子とまともに話さないほど避けていたというのなら、転校生だからという理由だけで僕に話しかけてくるはずがない。

 では一体なぜ?


「だから、惚れた腫れたじゃねえの? 一目惚れなんて珍しくもないだろ、勘違いしやすい年ごろなんだから」

「えー」


 そこまで堂々と勘違いと言うのもどうなんだろう。

 まあ確かに恋は大いなる勘違いなんて言葉もあるけれど。


「うーん。でもやっぱり僕より結木さんメインで見られてると思うんだけど」

「知るかよ。実は仲辻も異能者で敵でしたってオチよりマシだろ」


 その発想はなかった。

 もしそうなら実に巧妙なハニートラップだとしかいいようがない。


 しかし姿見くんといくら話しても答えが見つかるはずもなく、結木さんが来てしまったのでこの話は終了となった。



 午後の授業中も微妙に視線を感じながら時間が過ぎる。

 仲辻さんから定期的に視線を感じるのはもう慣れてきたけれど、最近薄れてきたはずの他のクラスメイトからも視線を感じる。

 これは間違いなく昼休みの結木さんのやらかしのせいだろう。

 というか結木さんのあれは気付かずやったのだろうか。もしかしてわざとやっているのだろうか。


 そんなことを考えているものだから、ろくに集中できずに授業は終わり、あっという間に放課後となった。

 今日は特に用事もないし、結木さんもそうなら一緒に帰って猫の話でもするかなと思ったのだけれど――。


「青葉くん。ちょっといいかな?」

「はい?」


 不安そうな顔をした仲辻さんに呼び止められた。

 じっと見られてはいたけれど、話しかけられたのは今週に入ってから初めてだ。


「えっと……」


 いきなり何で。

 そう思いながら視線を彷徨わせると、結木さんが相変わらず冷めた目をこちらに向けた後、何も言わずに教室から出ていくのが目に入る。

 少しは気にしてください幼馴染さん。


「だめ……かな?」


 そう不安そうに、上目づかいで見てくる仲辻さん。

 何てあざといんだ。しかも姿見くんの言葉を信じるなら、仲辻さんは意図せずにこの破壊力を出していることになる。


「あー、うん。どっか別の場所で話そうか」


 もうそう言うしかなかった。

 クラスの男子の僕を見る目がさらに険しくなったのは言うまでもない。



 仲辻さんと連れ立って学校を後にすると、少し離れた喫茶店へと移動した。

 チェーン店ではない、個人が経営している小さなカフェだ。

 しかし値段がお手頃で学生にもおススメだと、氷雨さんに紹介された店でもある。

 どうもあの人はこういう個人経営の小さなお店が好きらしい。

 案外家にいない時は、そういった店を探し出して巡っているのかもしれない。


「仲辻さん落ち着かないみたいだけど大丈夫?」」


 注文したコーヒーが来るのを待って、何やら視線をふらふらさせている仲辻さんに話しかける。

 すると仲辻さんはビクリと震えると、恥ずかしそうに口を開く。


「ご、ごめんね。私こういうお店って初めてで」

「へえーそうなんだ」


 どうしよう。このお嬢さん予想以上の箱入りかもしれない。

 こんな安いとこに連れて来て大丈夫だったのだろうか。


「それで、話って?」


 それはいいかと置いといて、本題を切り出す。

 まあ内容は大体予想がつく。大方幼馴染だった結木さんとの仲を取り持ってほしいとかそんなところだろう。

 そう考えていたものだから――。


「あのね。輪人迦夜もとひとかやさんって知ってる?」


 その質問はまったくの予想外だった。


「えっと……去年生徒会の副会長だったっていう?」


 晒してしまった動揺を、迷っていた風に見せかけて何とか答える。

 もとひとかや。その名前は完全に不意打ちだった。

 組織が協力を要請した僕の前任者。そして去年行方不明になった女子生徒。


「知らない? 青葉くんに似てたから、親戚かなって思ったんだけど」

「うん。まあ知り合いではないかな」


 どうしようこれ。どういう状況だこれ。

 何故仲辻さんの口からその名前が出てくる。

 そして何故僕が親戚だと思われている。

 もしかして仲辻さんが――。


「そっかぁ。ごめんね。私の勘違いだったみたい」


 そんな疑いは、本当に悲しそうな顔をした仲辻さんの表情を見て霧散した。


「その人……仲辻さんのよく知ってる人?」

「うん。コーラス部の先輩だったの。私初心者だったからいろんなことを教えてもらったんだけど、去年の二学期ごろに急に学校に来なくなっちゃって。コーラス部も人が少なくなって廃部になっちゃったんだ」

「……」


 その話を聞いて納得する。

 それはそうだ。輪人迦夜だって、潜入捜査を依頼されたとはいえ、普段は普通の学生として学園生活を過ごしていたに違いない。

 そして異能なんてまったく関係ない、普通の友人関係も築いていたはずだ。


 いや。もし仲辻さんが普通の人だとしても、あの学園の異常性には薄々気付いているのかもしれない。

 だから去年突然行方不明になった先輩を、中途半端な時期に転校してきたいかにも訳ありな転校生に結び付けた。


「もしかして僕をずっと見てたのって?」

「うん。もしかして知り合いなのかなって」

「なるほど。僕はてっきり結木さんを見てるのかと」

「うーん。それもちょっとはあるかな」


 あるんかい。

 しまった。地雷を避けたと思って安堵していたら、隙を生じぬ二段構えだった。


「月ちゃんって『私に近寄るなー!』みたいな雰囲気でしょ。最近前みたいに話してくれなくなったから、青葉くんがうらやましいなぁって」

「なるほどー」


 やっぱりメインは結木さんだった。

 そして僕への視線は輪人迦夜という先輩が原因だった。


 やはり仲辻さんは異能には関係ないのだろう。

 そう安堵し、その場は雑談だけして僕らは別れた。


 しかし連休明けであり次の日からまた連休となる5月2日の月曜日。

 仲辻愛利さんは学校へ登校してこなかった。


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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました
日本の神々の長である天照大神は思いました。最近日本人異世界に拉致られすぎじゃね?
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