6.反撃開始Ⅱ
レイアはゴブリンウィザードが動くと直感した。
直後だ、火の玉が戦場を飛ぶ。一つではない、連続の攻撃だ。
だから、レイアは聖剣をストックスでしまいながら烈の前方に移動した。そして両手を前に突き出す。
中級水属性魔法、アクアエスクード。
レイアの両手から広がった水の盾がレイアと烈を火から守る。だが、
「――無差別か!」
攻撃はこちらに集中しているとはいえ、正確なものではなかった。それはつまり、同じ戦場にいたゴブリンたちも攻撃の対象になる。
運よく逃れたゴブリンもいたが、大半が直撃を食らう。魔流活性をしているとはいえ、もちろん無事ではすまない。
しかし、これで戦場の構図が明確になったとレイアは思った。
先ほどの段階で既に抗議を上げていたゴブリン達が更に攻撃を受けたのだ。ゴブリンとあのゴブリンウィザードは完全に袂を分けたとみていいだろう。攻撃対象を自分たちからゴブリンウィザードにむけてくれればと思うが、
「こいつらがあいつに敵うとも思えんがな……!」
こちらの思考を読んだ様に烈がつぶやくが、同じ感想しか浮かばない。
現状まともに動けそうなゴブリンは確認できるだけでも数体だけであり、実力的にも足止めになるかならないかだろう。
「レイア、この際他のゴブリンどもは放って置いて、やつだけに集中する。このまま火属性魔法で暴れられてここら一帯が山火事になっても困る」
「まったくだよ……」
「攻撃の隙が出た瞬間、距離をつめる。見たところ、魔法に比重を置いたタイプのようだから近接攻撃が有利だろう」
「一応、魔物なんだから油断しないでね?」
「炎の壁作ったり火の玉飛ばしてくるやつに油断するほど余裕は無いよ」
それもそうか、と思うレイアの横、右手側に烈が並ぶ。
レイアの水の盾ごしに相手を注視する烈はややあってから、
「――――今だ、いけ!」
二人は左右に分かれた。
●
一箇所に集中すれば魔法の集中攻撃を食らうため、左右からの挟撃がレイアたちのとった戦法だ。
お互いが距離をとるため、カバーが利かないが、相手の狙いが分かれるため、有効でもある。
今回においてもそれは当てはまった。左右に分かれたレイアと烈のどちらを狙うか迷いをみせたゴブリンウィザードは最終的に交互に魔法を放つことで両方を狙うという行動に出た。
が、その影響か、照準も甘く、高速で移動している二人にはかすりもしない。
焦りが出たな、と烈は思った。
ここに来て仲間もろともこちらを攻撃してくる様子からするにあまり物事を考えない暴走タイプだな。
放置しておくと面倒なタイプでもあるので、とっとと倒してしまうのが良い。自分たちにとっても環境にとってもだ。
だから、そうした。レイアよりも少し先にたどり着いた烈が右から、レイアが左からばつの字を描くようにウィザードの胴体前面を斬る。
――どうだ!?
だが、それでもウィザードは倒れなかった。深く斬りこんだはずだが、
魔流活性で思ったよりも浅くはいったか……!?
ならば、と追撃で止めを刺そうとした烈だったが、
「――っ! 烈、離れて!」
レイアの呼びかけがきた。言葉通りに、跳躍による離脱でレイアの近くに退避した烈はウィザードを見た。
炎を纏っていた。いや、燃えているといってもいい。
「なんだあれは?」
「……魔力暴走?」
「あれがか? いや、しかし……」
魔力暴走とは、言葉通りの意味合いだ。
大抵は対象の魔力保有容量以上に魔力が注ぎ込まれて飽和状態になったり、扱いきれない魔法を使用する事で術者の身を削ることなどを指すが、この場合は後者に近いだろうか。
「どちらにしろ、やばいんじゃないかなぁ、あれは……っと!」
燃えるウィザードの身体から炎の球体が飛び出す。が、もはや狙い等なく、全方向に無差別に飛んでいる感じだ。
再度、アクアエスクードを展開したレイアの後ろに移動した烈は周囲を確認する。
後方、先ほどまであった炎の壁はほぼ収まっている。おそらく、ゴブリンウィザードが暴走したことにより、制御が離れたのだろう。ゴブリン達も動けない個体を背負って森まで退避したようでいつの間にかいなくなっている。
このまま離脱するのも手ではあるが、
「……放って置く訳にもいかないだろう」
放置すれば、確実に山火事などの災害を引き起こす。加えて言えば、隠れ里にまで影響があるようなことは極力避けたい。このゴブリンウィザードがどうなるかわからないが、不安要素は排除すべきだ。
しかし、魔力の暴走状態を鎮める方法など烈は知らない。燃えている状況からみて鎮火でもすればよいのだろうか。
問題は、
「俺は魔法は苦手なんだが……」
「ごめん、水属性魔法はそこまで得意なわけじゃないよ? 下級レベルで消せる熱量じゃないし」
「レイアもだめとなると、やはり魔力の基を断つしかないか」
そう言って烈が刀を構えたときだった。
突然空から大量の水がゴブリンウィザードに直撃した。
「――は!?」
天気は今、一点の曇りも無い快晴。雨の降る余地などないはずだ。
いや、そもそもあの水量は雨というより滝だが……。
よくわからないことが起きたため、状況を分析しようとしたときだ。
「……ちょっと! 貴方たち大丈夫だった!?」
突然の声が上から聞こえた。何事だと空を見上げれば、そこには少女が浮かんでいた。