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5.反撃開始Ⅰ

 烈は手始めに、前衛のゴブリンの中で最も前に出てきている三体を目標に定めた。

 その後の行動はシンプルだった。

 突撃だ。現状、炎の壁により後方に距離をとることができないため、遠距離からの攻撃は不可能だ。

 故に敵の懐に入り、一網打尽にする。

 とは言え、相手は自分たちの三分の一ほどの大きさしかないため、人間を相手にするのとは訳が違う。

 武装が剣であるレイアよりも刀である自分のほうが身軽であることを考えると、やはりこちらが前に出て撹乱(かくらん)する戦法になる。そうでなくとも、この旅において最も重要なのはレイアの安全だ。本来なら安全な場所まで後退してもらうべきだが、後方の炎の壁が邪魔でそれも容易ではない。

 ――本音を言えば、これくらいのことを切り抜けることが出来なければ、世界を奪還することもままならないだろうがな……。

 魔流活性でゴブリンの眼前に瞬時に距離をつめた烈は腰を落とした。

 神崎流剣術かんざきりゅうけんじゅつ白閃(はくせん)

 鞘から刀を抜く動作の流れのまま、横一文字に一閃する。刀身の輝きが空を切り、その結果として正面のゴブリンの頭部が胴体との繋がりを失う。

 抜刀術だ。幼い頃、母方の祖父母に預けられていた時期がある。その時に祖父から教わった剣術の一つである。

 祖父は代々剣士の家系に生まれたが、子であるヨウコが女であったことと、婿のガリウスが刀ではなく剣を使う人間であったため、受け継いできた剣術を継承することを諦めていた。

 しかし、孫であった自分がガリウスから剣の指南を受けていなかったことをいいことに刀の使い方を嬉々として教え込んだ。あまりに張り切り過ぎて腰を痛めて剣士を引退せざるおえなくなっていたが、結果として祖父を超える力を自分は手にした。

 一体目を仕留め、刀を振りきる烈はそこで動きを止めなかった。白閃によって身体の重心が左から右へと移る。身体が回転する、その勢いを殺さずに左手に持つ鞘を振り抜く。

 空を切るはずだった鞘はそこで何かを殴打した。側面にいたゴブリンの頭だ。正面にいたゴブリンとは異なり、烈のいきなりの接近に反応し、対応のためこちらに接近していたのだ。しかしそれが仇となる。

 神崎流剣術、棍打(つえうち)

 鞘で頭部側面を打ち抜かれたゴブリンは脳震盪を起こし、ふらつく。対する烈はそのまま一回転をし、振り抜いてきた刀でそのままゴブリンの胴体を斬る。

 残り一体。

 その一体が跳躍でこちらに襲い掛かってくるのを視認した烈は刀の刃を前方に押し出しながら左斜め前に跳んだ。その動きだけで跳躍してきたゴブリンは胴体が上下に分かれることになる。

 ……初手は順調、ここからだ!

 三体を斬った烈はそのまま次なる目標へと向かう。



●●●



 烈が初動を成功させたのを、レイアは後方で見ていた。

 白閃からの棍打。異なる剣術だが、烈はそれを一連の動き、一つの連続技として得意にしており、レイアも何度か動きは見せてもらっていた。

 が、実戦において成功させるところを見るとやはり烈は頼りになる。

 烈の初撃は成功した、となると次は……。

 思ったとおり、最前線の仲間をつぶされたことを認識した他の前衛が動き、後衛が弓をかまえる。前衛の半分以上が烈に向かっていくが、数体がこちらの反撃に面食らったのか動かないままだ。

 ここでレイアが動いた。位置としては烈の右後方、距離を開けて追走する形だ。

 ……僕の役割は援護、のほうがいいだろうなぁ。

 相手の大多数の注意が烈に向かっている。少数が動いていないとはいえ、あの数で来られるとやはり烈も辛いだろう。

 それゆえにレイアがすべき行動は烈を狙う後衛の飛び道具を落とすことと、

 ――烈の死角を埋めること……!

 そのためには戦場を把握する必要がある。よって今、戦場の中心となっている烈に近づくよりは動き回り、時折の援護に徹する方が最適、というのがレイアの出した思案結果だった。

 そして、そのとおりの行動を取った。烈の右後ろに移動していたゴブリンの一体をその更に後ろから、左手に持つ剣で斬り倒す。

 聖剣リュミエール・アージェンク。レイ・ウィングズ王家に伝わる聖剣の片方だ。そして、実際に持っているレイアだから感覚としてわかる、通常の剣とは異なる武装であると。

 しっくりくるのだ。それは、魔力の伝導率などもあるだろうが、

 まるで、身体の一部みたいなんだよね……。

 前にそのことを烈や里の人間に話したときは、


「そりゃぁ、伝説の武器だからな!」


 と、男性陣が目を輝かせていたが、なんとなくわかるのは男の(さが)というやつだろうか。

 しかし今現在リュミエール・アージェンクはただの使いやすい剣というのがレイアの感想だ。

 烈の話では、この聖剣は本来守護宝石を組み込み、その力を纏わせて使うらしい。だが今、守護宝石は手元に無い。


「今は自分の力だけでがんばるしかない、か」


 だから、使っていない右手を使うことにした。

 下級火属性魔法、ファイアボール。

 火の球体を作り出し、投げつける下級の魔法。威力はブレンウォールなどの中級魔法には及ばない。だが、烈に向けて放たれた矢を消滅させるには十分だ。

 それと同時にレイアは矢を放った後衛のゴブリンにも魔法を放つ。こちらはファイアボールではなく、

 中級風属性魔法、ヴァンクリンゲ。

 風で作られた刃だ。単純な魔法であり、剣などの硬い物をもっているのであればそれで防ぐことも容易だろうが、弓と矢しか持ち合わせていないゴブリンには手痛い一撃だ。

 そのようにして後衛の一体を倒し、烈を確認しようとしたときだ。

 視界の中に赤色が入る。それは、ゴブリンの血などではなく、


『烈、跳んで!』


 烈のほうでも認識していたようでこちらが言い終わる前に左に跳躍していた。その瞬間、今まで烈がいた場所を炎の球体が通過した。

 中級火属性魔法、ファイアブレスト。

 単純にファイアボールの上位互換といえる魔法だが、有機物を燃やすには十分すぎる火力だ。その証拠に球体が通過した跡の草は消滅しており、さらに、


「仲間まで……!?」


 烈に襲い掛かろうとしていたゴブリンが数体燃え尽きていた。

 発生源は、ひとつしかない。ゴブリンウィザード。

 ブレンウォールを発生させてから動きが無いため、壁の維持に徹しているのかと思ったが、違った。ウィザードはファイアブレストの詠唱を行っていたのだった。


『……ブレンウォールを維持した上でファイアブレストを撃ってくるとは、予想よりも強力な固体だ』


『だけど、ちょっと思考が読めないね。僕たちの反撃で減った仲間を更に減らしてくるなんて』


『ああ、これは他のゴブリンたちも予想外だったらしいな』


 見れば、ウィザードに向かってゴブリンたちが抗議の雄叫びをあげている。ウィザードの護衛すらもこちらへの注視をいったん止めて、ウィザードを見ている。

 状況が変化する。






 ゴブリンウィザードはいらついていた。この状況に、だ。

 配下にしたゴブリンがたった二体の獲物も簡単に仕留められない。こちらでお膳立てをしているのに。

 故に使えないものは消すだけだという意味で配下ごと獲物を狙って魔法を放った。

 結果として、獲物は魔法を避け、配下が減った。それはまだいいが、今度は別の配下たちがこちらに抗議してきている。

 ――役に立たないものばかりだ。

 ウィザードは以前のことを振り返る。

 昔、他の魔物に食われかけたことがある。その時は運よく逃げ延びたが、恐怖と屈辱を思い知らされた。

 強くなろうと誓い、手始めに弱い魔物を食って魔力を手に入れていった。いつしか魔法を使えるまでになっていたが、そのことを同胞たちはよく思わなかったらしい。自分は同胞の和を乱すやらなにやらと理由をつけられ、集団から追放されることになった。

 しかし、ウィザードはわかっていた、同胞らは恐怖に駆られたのだろう。いつしか、自分は同胞すらも食ってしまうだろうと。

 だから、そうしてやった。元々ハイ・ゴブリンになりかけの集団であったが、魔法を使えるのは自分だけだ。自分に勝てるものはいない。

 全てを食い散らかしたときには以前より更に強力に、ほぼハイ・ゴブリンになっていた。今であれば以前自分を食おうとした魔物ですら凌駕しているだろう。

 だが、ゴブリンは集団で生活するものであり、自分だけでは何かあったときに周りを利用できない。

 だから流れ着いた森にいた下級のゴブリンどもを配下にした。自分と違い、言語なども使えない雑魚であったが、魔力を取らせ、訓練すれば良い手駒に使えると思った。

 その森にいた魔物を集団で狩らせ、時には助け舟を出すなどして配下を強力にしながら魔力をとってきた。

 しかし、森の魔物は粗方狩りつくし、残っているのは単なる動物ばかりになってきていた。そこで目をつけたのが外部から入ってくる獲物、人間だ。種の平均的な保有魔力量は少ないが、時折、大きな魔力を持った個体が現れる。

 そして先刻、森に魔力の反応が出たため、狩りにきた。

 人間は魔力を持っていても、肉体が脆い者が多い。そのため、集団で取り囲んで攻め、武器を取り上げればただの人形だ。食える肉の部分は少ないが、肉を裂かれ食われていくときの絶望の声や表情は実に愉快だ。

 だから今回もそうして狩ろうと思っていた。

 だが、そうならなかった。どちらも今まで見たことの無い人間の動き方をして逃走し、反撃されると配下はやられるばかりだ。

 ゴブリンウィザードは考えた。何故、今回はこんなにもてこずるのかと。

 そして結果を出した。配下が弱いからだと。ならばそんなものには頼らず、以前のように自分でやればいいではないか。

 せっかく育てた配下だが、この際、いなくなってもかまわない。どうせ人間ごときに勝てないような雑魚はいらない。残った者で再構成すれば良いし、反逆するものは焼き殺せばよい。

 この場にいるどの存在よりも自分は強い。それが当たり前だ。

 広い世界を知らないゴブリンウィザードはその考えを、改めない。



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