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2.追いかける少女

 レイアと烈が夕食を済ませた頃、極東都市ラインベルニカより少し南西の空を、とある少女が飛行魔法で飛んでいた。

 蒼い髪を風になびかせながらまっすぐ南西を目指す彼女は顔をしかめてつぶやく。


「置いていかないで、って言ったのに。まったく、あの人たちは……!」


 今すぐに文句の一つでも言いたいところだが、ここには肝心の相手がいない。

 そう、置いていかれた。以前から旅に同行する、と言っていたのに関わらず、気づくと彼らはいなくなっていた。

 今朝のことを思いだす。彼らは以前からの計画も何もかもを無視したのだ。

 おそらく、自分を連れて行かないための行動だったと推測するが、あまりの予想外のことに自分だけでなく、周囲の人間も非常に動揺した。

 あの困り様は自分の師の行動に対しても見せていたような気がするが、よく考えれば自分を置いていった者たちと師はよく一緒に行動して無茶をしていたので、同じ部類の人間なのだろう。

 正直あの振り回され様は見ていて可哀想であったが、いざ自分がその対象になると困惑するというよりいらっとする。


「この速度なら今日中に追いつくと思ったのに、どんな速さで移動してるのよ」


 彼女が飛んでいるのは険しい山脈や山に囲まれた地域だ。足で歩くには想像以上に苦労するため、飛行魔法を使用しているが、この分だと相手も飛行魔法で移動している上、さらに高速で飛んでいる可能性が高い。

 夜通し進まなければ追いつけない気がするが、いかに魔力保有量に自信がある自分でも疲れは出る。

 日も暮れ、夜行性の魔物が活動を開始する。一見、地上のほうが陸上生物の危険があると思われがちだが、たとえ上空にいても飛行型の魔物だって存在する。

 『魔流活性』という魔力を身体に駆け巡らせ、身体を強化する技もあり、一日二日なら眠らなくても良いようにもできるが、反動を考えると迂闊にそのようなことも出来ないし、そもそも旅に出た初日からそのような無茶をするのは愚策だ。

 そこで少女は、先ほど見つけた冒険者用の山小屋まで戻り、中を確かめる。

 どうやら中には誰もいない、それどころか長い間誰も使っていないようだった。

 必要最低限の物は揃っているようで、少女はすばやく食事をして休眠をとることにする。


「手早く食べて休みたいし、缶詰でいいかな……」


 そう思った少女はおもむろに缶詰を取り出す。しかし、それは彼女のポーチからではなく、何も無い空中から取り出されたものだった。

 中級無属性魔法、ストックス。固有の別空間に物を貯蔵することが出来、好きなときに出し入れできるため、重宝されている魔法だ。

 自分の魔力に応じて収納できる量は変化するが、一般的な魔法と違い、周囲の魔力を使わずに使えるため、魔力が薄い、または存在しない場所でも使えるのが大きな利点だ。

 また、自らの魔力をもって調整すれば空間内の物を整理することが出来、持ち運び型の大きな倉庫となる。

 デメリットな点をあげるとすれば、使用する際に少しだけ発光現象が起きるため、夜の急襲作戦などにはあまり向かない事と、反対に重要人物を護衛する必要があるときに対処がしにくいことだ。過去にそれで問題が起きている例もきいたことがある。

 ともかく便利な魔法ではあるが、外界の魔力を使わないため、他の魔法より癖が強いらしく、習得に至るまで苦労する魔法でもあった。

 ――まぁ、それでも旅をするならほぼ必須なものだけど……。


「……あ――」


 思いながら食事をしていた少女はあることに気づく。

 容器を捨てる手段がないのだ。ここに放置していけばそのうち食べ残しが腐り、その臭いにつられてこの山小屋が危険スポットになる可能性もあるし、金属で出来ているため外に捨てるわけにもいかない。

 そもそもにおいて、この地において金属の缶詰を作る技術はない。製造されることもなければ廃棄する手段も用意などされていないのだ。

 長い旅になることはわかっていたため、まともな食事が出来そうにない時のために、保存が利き、簡単に食べれるものが必要であると話題になったとき、真っ先に少女が思い浮かんだのがこの缶詰だった。幼少期を過ごした場所では一般的な物であったが、今日まで暮らしていた場所にはこのような物は無かったため、無理を言って用意させたものだった。

 それをまさか旅の初日から使うことになるとは少女も思っていなかった。

 今後は捨てる方法も考えないといけないわね……と思案しながら仕方が無く、ストックスの中に容器を戻し、魔力で調整して他の荷物にまぎれないようにする。


「向こうは朝絶対遅いだろうし、そこで距離を稼ぐしかないか……」


 つぶやき、することもないため、早々に寝ることにした少女は異空間からタオルケットを引き出す。

 少女は念のため、物陰に隠れて横になり、入り口から中を覗いてもまるで山小屋には誰もいないようにみえるようにしておく。

 現状は女の一人旅なのだ、用心に越したことは無い。

 目を閉じながら自分を置いて行った者らを思い出す。幼少期からずっと一緒に過ごしてきたので、近くにいるのが当たり前だと思っていた者が離れていってしまうのはやはり恐怖感がある。


「すぐ追いつけるわよね……」


 そんな感情を振り払うように少女の意識は闇におちていった。


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