13.レガリア
ユーシスが一人で先に出かけたのを見送ってからリナは周囲を見回した。
「……兄さんは行っちゃったけど、他の皆はどうするの?」
ここに来る前、シエルと別れる際、彼女の店に顔を出す約束はしたが、それは後日の話だ。
こちらの問いに、反応するものがいた。レイアだ。
彼は手を挙げ、
「あ、じゃあ僕も外出しようかな。大きな都市って初めてだし、色々見て回りたいんだ」
ラインベルニカとウェルー間にも町や村、都市など点在はしているが、ここまで大きな都市はそう多くはない。
今後、このような街を訪れるのも何時になるかわからないし、彼が興味を抱くのも当然だろう。
他、誰かいないかと見れば、アギトがこちらに言葉をかけてきた。
「俺はパス。ちょい、浩二さんと色々話したいし。
――リナ、お前、レイアの護衛もかねて一緒に色々見てこいよ」
提案にこちらが返答をする前に、烈が声をあげた。
「ふむ。なら俺もレイアの護衛に――もがっ!?」
最後まで言い終える前に言葉が途切れた。見れば、アギトが左手で烈の口を塞いでいる。
「いいからいいから、早く行ってこい」
アギトが言いながら空いている右手を振り、行け、という仕草をしてくる。
その顔は何故かニヤニヤとしていて、
『デート楽しんでこいよ』
こちらにしか聞こえない声で言われた言葉に、リナは身体の熱があがるのを自覚した。
別にそんなんじゃない、と言おうとした時、レイアが立ち上がった。
「それじゃ、行こうか?」
この人は男女二人で出かける意味をわかっているんだろうか、と思いつつ、レイアに対しては特に何もないのだから変に否定するのもおかしいとしてアギトの声を無視することにする。というか、そうでなければ、またアギトが調子に乗る。
「ええ、いきましょ」
●●●
アギトは二人が部屋から出て行ったと同時に烈を解放した。
「ごほっ――はぁ。おい、どういうつもりだ」
見れば、烈が咳き込みながらこちらを睨んでいた。
「いやぁ、ベストな対処だと思うんだけど?」
「確かに、今のは烈が悪いな」
浩二がこちらの味方をしたので、わけがわからないといった顔をする烈に、仕方が無く説明をする。
「あのなー、若者カップルがおでかけするってのに、おっさん一人ついてってどうするよ?」
おっさん言うな、と最初に反論した烈は少し考えてから、そういうことか、といった顔をした。
「レイアとリナがか? これまで一ヶ月半ほど、そういう関係になるようなことがあったか?」
「別にあの二人はまだそこまでいってないと思うけどよー。ただ、リナの方は怪しいと踏んでるわ。
――レイアもなかなかのイケメンだからなー、美のレガリアでも発現させてるんじゃね」
言った単語に、浩二が、ん? という顔をしたのにアギトは気づいた。
……あぁ、浩二さんはレイ・ウィングズ人じゃねーからなぁ……。
この世界の住人である程度知識を持つ者なら割と常識ではあるが、異世界人ともなればそうはいくまい。
「レガリア――王権を象徴するものか?」
「そそ。日本で言うなら天叢雲とかがそれに当たるかな。
……初代レイ・ウィングズ王が神々の大戦に人の身で参戦したっていう話は知ってる?」
「……昔、烈にきいたことがあるような気がする」
「なら話が早い。初代王は地上の戦闘において天空の神々の勝利に貢献して、結果として力を賜った。それが、二つの聖剣と、六つの守護宝石。そしていくつかのレガリアなんだけど。
――初代には五人の乙女が伴っていたとされてる。彼はそのうちの一人で幼馴染の女性を正妻として迎えたらしいんだけど、他の四名も側室みたいな感じになったらしくて。
で、その四人の女性には正妻として愛せなかった代わりにそれぞれに己が授かったレガリアを一つずつ分け与えたらしい」
「ふむ、随分神話めいた話だな。
……ん、まてよ? 四人――?」
何かに気づいた浩二に、察しが良くて助かるとアギトは続ける。
「与えられたレガリアはノーヴァン――身体強化、オーヴュイ――美、ラグラノルト――魔力、ウェルヒト――従獣の四つ。その力を持った四つの系譜は王族を末永く支えている
……まぁ、それが――」
「……四大貴族ってわけか」
「そういうこと。今言った順に力を与えられているから、第一貴族であるユーシスとリナは身体強化、ジークフリートなんかは魔力だな。
ざっくり説明すると身体強化なんかは魔流活性をしなくても、身体能力が大幅に向上している。魔力は魔力に特化したもので、だから第三貴族の一族は魔法が得意なやつが多い。ジークなんかはこのレガリアと稀代の才能が組み合わさってるなんて言われてるけど」
半年近く会っていない悪友を思い出しながらアギトは苦笑交じりに言った。
「なるほど、ジークフリートのやつが学院の中でも頭ひとつ――いや、ふたつほど飛びぬけて魔力が高かったのはそういうカラクリがあったのか」
「第二貴族と第四貴族にもそれぞれ美と従獣があって、第四の従獣はそのまま、特に魔法なんかを使わなくても魔物ですら使役できると言われている。美なんかはレガリアの中でも特に対外的に目立っててさ。第ニ貴族はその者が最も美しいといわれている時点で体の成長が止まり、死ぬまでそこから老いることはない」
呼吸を整えた烈が会話に参加してきた。
「だから第二貴族なんてのは王家と四大貴族の特別性を対外に象徴する上では最も有効なんて言われるぐらいだ。なにしろ、同じ頃合に生まれた者達が爺さん婆さんになっても若いままだからな」
「もっとも、現状は第二貴族と第四貴族はアーインスキア襲撃から、最も友好関係がある風の世界『ウィンディ-ド』に身を寄せて、ずっとそのままだから、俺らも会ったこととか無いんだけど」
「――四大なのに、か……?」
浩二の疑問も最もだった。
四大貴族は王を支えるために存在しているようなものであり、それがこの状況下でレイ・ウィングズを離れて事態を静観しているというのはおかしい。
「……使者とかでやりとりはあるらしいがな。身体強化、魔力と違って直接的な戦闘力があるわけではないから、ラース公が亡くなった時点でレイ・ウィングズ各地の勢力と同じで足踏み状態らしい。それに対しての批判もよく聞く」
「……まぁ、『第四のとこも病で床に伏せてて大変だ』って感じの話を、ジークんとこの親父から聞いてるから仕方ないとは思うけどなー」
アギトと烈からの説明になるほどな、と納得した浩二はその上で、
「今の聞いた中でちょいと疑問がいくつか出てきたんだけど、訊いていいか?」
右手の二本の指を立たせた浩二に対し、アギトは頷きをもって返答とする。
「一つ目、四大貴族のレガリアはだいたいわかったが、それでは当の王家はレガリアを持たないのか? 二つ目、レガリアの受け継がれ方だな」
アギトは訊かれた内容を答えるために内心で繰り返した。
四大は王家からレガリアを『分け与えられた』と説明した。実際、そのとおりで、
「――まず一つ目な。王家は先ほど説明した四つのレガリアを持たない。言ったとおり、分け与えたんだ」
だけど、と一息ついて、
「これは王族と四大の周辺ぐらいしか知られてない事なんだけど。実は王族の残されたレガリアが二つだけあるんだよ。
それが幸運と威光」
「……幸運と、威光?」
「幸運は、例えば事故にあわないとか、危険な状況になっても間一髪助かるとか、そんなものかなー。ぶっちゃけ王族がこれだけ続いてるのもこれの影響なんて言われてもいたかなぁ、まぁアーインスキア襲撃には対応できなかったんだけどさ。
威光はまぁ、なんというか……四大以下この世界の人間全員に対する常時発動の魔法みたいなもので、王家には逆らえない、みたいな? そんな感じのやつ」
「――おいおい、それって……」
浩二が言わんとしている事はわかっている。威光についてだろう。
王家には逆らえない、と言ったが、実際は逆らうような意思を持ちにくいようにするものだ。
例えば、マザー・イニーツィオなどでは、力を持った部下などに反乱を起こされ、体制が崩壊する、なんていうこともざらにあった。
アギトが日本にいた頃は『謀反人ミツヒデ』という事あるごとに謀反を起こしては毎回失敗する家臣の尻を棒で叩く武将の時代劇コメディ番組が放映されており、何故か毎週欠かさず見ていたが、最終回を見る前に日本を離れてしまったので、結末を知らないのが今のところいくつかある心残りの一つだ。
――というかあれ、タイトルを『苦労人ノブナガ』に変えたほうがしっくり来ると思うんだけどなぁ……。
ともあれ、王族の一員として、答えはきっちりせねばならない。
「反乱できないようにする威光を使えば絶対支配ができる、っていう心配はないよ」
ひとまず、それだけは明確に否定する。
「威光はレガリアの中でも特殊らしくて、言い伝えでは世界の認証が必要らしい」
こちらの言った単語に、訳がわからないといった顔をする浩二をみて、烈が苦笑するあたり、彼も以前に同じことを思ったのだろう。
「俺も詳しくは知らないんだけどさー。なんでも『レイ・ウィングズ』自体が認めなければ発動しないってことらしいわ。
――なかなか不思議なことだけど、暴君としてこの地を治めようとすると、威光の発動をレイ・ウィングズが認めない、っていうのが昔から王族に伝わってる話」
「まるで、レイ・ウィングズが意思を持ってるような話だな……」
「そうだね。だけど『共通意味認識』なんて強力な魔法が勝手にかかってることとか考えるとあながち間違いではないかもな?」
「うーむ、何か話が壮大になってきたような……」
「んじゃ、話戻そうか。王族が持つレガリアは基本的にはこの二つ。だけど例外がある。俺がさっきレイアについて言ったこととも関係してるけど」
「美がうんたらってやつかい?」
アギトは先ほどレイアが美のレガリアを発現させているのでは、と言ったが、しかしそれではその後に説明した内容と食い違うことになる。
「王族の中でも失ったレガリアをたまーに発現できる人間が出るらしくて。本当に珍しくて記録見るだけでも今までに数人しかいなかったみたいなんだけど、レイアがそれかなって思ってさ。
――まぁ、美が発現すれば全盛期の肉体で成長が止まるからそのうちわかるんだろうけど」
突然変異みたいなもんだー、と言ったが、それはそれで内容に対して軽すぎる気もする。が、本当に珍しいので、そこまで深く考える必要も無いだろう。
「――で、二つ目はレガリア受け継がれ方だっけ。これは能力の移譲とかそういうのではなく、ふつうに親から子へと遺伝子的に受け継がれてきてるっぽいね」
「やはりか……。しかしそうなると問題が一つ出てくるだろう。例えば、ユーシス君とリナちゃんだ。あの二人だけでもレガリアが二人の人間に宿っているのに、仮にそれぞれがまた二人の子をなしたら倍化、どんどんレガリア保持者が増えるんじゃないか?」
これは王族にも言えるなぁ、とアギトは思った。
遺伝子で受け継がれるのであれば、二人の子孫を残した時点でどんどん増えていく。家系を受け継ぐものが一人、家から出るものが一人いた場合、それだけでレガリアは外に流れることになる。
しかし、
「その心配はないんだな、これが。これも威光の世界の認証と同じでレイ・ウィングズ側がリミットかけるみたいでさー。今の状況で言うなら、俺の子どもやリナの子どもはレガリアが発現しないらしい。まぁ、事故って家系が途絶えてもダメだからレイアの子どもが何かで亡くなったら俺の子どものレガリアが復活するとか言われてるけど」
「……なんか都合がいいなぁー」
「それ俺も思ったわー。でも、実際それで今まで続いてたし、そもそも王族が四大のレガリアを発現させるのと同じくらい子どもを二人授かることがレアらしいからねぇ。
ユーたちだってあれ双子だけど、レアにレア重ねた感じらしい」
スーパーレアか、と呟く浩二に対しての説明を終えて、アギトはふうっ、と一息を着いた。
王族周りの事情は基本的にわかってる者しか周りにいなかったため、いざ説明するとなるとけっこう難しい。
その辺り、今後はユーとか烈にまかせよう、とアギトが思っていると、ふと浩二がこちらを見つめているのに気づいた。
「ん、何?」
「――いや、こんなこと言うのはすごい無礼かもなんだが、アギト君って王族って割には世俗的というか、話しやすいと思ってさ」
言葉に、アギトでいいよ、と前置きする。
「俺らの世代って基本そうだよ。環境が環境というか、そこまで王族貴族の生活してたわけでもなかったから」
「そういえば、烈やユーシス君が日本で暮らしてたって言ってたけど……」
「あぁ、それは……」




