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12.協力者は異世界人

 南方都市ウェルー。

 レイ・ウィングズの大陸南における最も主要な都市であるこの都市は、同時にこの世界最大の広さを誇る大都市でもあった。

 都市面積は約一万平方キロメートルにおよび、正方形に整理された珍しい都市。

 均等に二十五の区域に分け、北西から順に数字をふられたこの都市の二十区、つまりは都市西側中央よりの主要街道、その入り口にレイアたちの姿があった。


「――世界最大都市つっても、郊外はほぼ畑や森林なのな」

 

 街道周囲、住宅よりも林や畑が視界を埋める光景を見て、アギトが声を上げた。

 言葉に、馬車の中、頷く者がいた。シエルだ。


「この辺りはウェルー郊外の中でも新設区の一つですから、仕方がないといえば仕方が無いんですよね」


「新設区?」


 聞き慣れない言葉にアギトの横、リナが首をかしげた。


「ウェルーは今でこそ、都市面積が一万平方キロメートルを超える大都市ですが、昔はもう少し小さかったのですよ。しかし、この二十年の間に北方――王都周辺から避難してきた人達を受け入れ、どんどん人口が増えたことにより、土地が足りなくなる可能性があったのです。そこで、都市を広げ、十六区だったのを二十五区に設定しなおしたのです。

 新設区というのはその広げた地域を含んだ区域のことを言って、ウェルー郊外にあたる区はすべてそう呼ばれています。だいたいが農村から逃げてきた人達だったこともあって、田畑などが多いようですね」


 こーいうとこにもアーインスキアの影響があるわけだ、と思いながらアギトはシエルに再度の問いを投げた。


「つーことは、繁華街とかそういうのはここらにはないのか?」


「そうなりますね。この二十区を半日ほど東に、十九区の中央当たりから賑わいを感じられるかと」


「まぁしばらくは今までと同じ景色を見ることになるな」


 腕を組んだ烈が言った。


「私の店舗兼住居は十八区にあるのですが、皆さんはどうされるのですか? よろしければ宿など、こちらの知り合いにも伝手はありますが」


 シエルの善意に、しかし、烈が首を横に振った。


「いや、そこまで頼るわけにもいかない。一応、俺の知り合いが十三区にいるから、そこに世話になろうかと思っている」


「なるほど、わかりました。では十三区まででもお送りさせてください」


「すまないな。ただ、物資の調達で世話になりたいと考えている。できれば、信用できる者から仕入れたいからな」


「――ありがとうございます。それでは、地図を渡しておくので、都合が宜しい時に来店頂ければ。ここ数日は出かける用事も無いので、ずっとお店に居ますから」


「了解した。明日以降になると思うが、皆で邪魔させてもらうよ」



●●●



「――で、烈の知り合いがここにいるってほんとなの?」


 シエルと別れ、一時間ほど歩いた後、レイアは烈に訊ねた。

 彼らがいるのは商店街より少し離れた住宅が並ぶ区画だった。

 目的地であるここ、十三区は都市の中央区にあたり、主な役割としては行政区としながらも、やはり都市の中心部としての賑わいを見せていた。


「ああ。ジャミル公――というよりはジークフリートから紹介された経緯でな。詳細は実際に会ってから説明する」


「烈の交友関係とかそういえば聞いたことなかったなー」


 レイアの呟きにアギトがわざとらしい神妙な面持ちで


「そうなん? ……って言っても俺らも全然だよなぁ。烈ってば、ちゃんと友達いる?」


「自然な流れで失礼すぎるんだよお前は」


 もはや怒る様子も見せずに、烈がウェルー十三区の地図と周辺を見比べている。


「そろそろ着く。……あぁ、ここだ」


 言って、烈は一軒の家の前で足を止めた。

 

「なんというか、普通の家だな」


 ユーシスが見たままの感想をつぶやいた。

 木材と石材の混合で造られた二階建ての住宅。見た目は周囲のものと大きな変化は無く、ごく一般的な住宅といった感じだ。


「ジークフリートからの紹介ではあるが、あいつ自身は王族や政府の関係者ではないし、協力してもらう上で目立たないように釘を刺していたからな。さて、ひとまず中に入れてもらわんと――ん?」


 家主を呼ぼうと玄関でノッカーを探していた烈が疑問の声を上げるのをレイアは聞いた。

 何事か、と見れば烈は玄関のある一点を見つめていた。

 そして、レイアも気づいた。この家と他の家の異なる点を。

 それは、ドアに金属のノッカーがついているのではなく、その横の壁にあった。黒地に白い音符が描かれたそれは、


「――あれ、呼び鈴あるじゃん」

 

 レイアの代わりにアギトが言う。

 そう、壁についていたのは押しボタンだった。昔、烈から聞いたことがある。押せば、音で訪問者が来たことを知らせる機械があると。

 それが、これなのだろう。

 初めて近代的機械というものを見た気がする。いや、ユーシスの持つスナイパーライフルもまた精巧な機械ではあるのだが、生活空間でみるのと戦闘的なものとではまた違う感覚だ。

 何か、微妙な感動をしたレイアだが、烈は頭に手をやり、


「この前来た時はこんなものついてなかっただろ……。なにをやっているんだあいつは」


「この際なんでもいいだろー、家の前で立ち往生する方が怪しいって」


 そう言ってアギトがボタンを押す。すると高い音が鳴り、少しして戸が開いた。

 出てきたのは烈と同じぐらいの歳に見える男であった。

 彼はこちらを見るや、


「――あれ、烈じゃないか! 予定より早いんじゃないか?」


「色々あったんだよ――とりあえず中に入れてくれ」


「ああ、悪い悪い。入ってくれ」


 短く男と会話を交わした烈の要請で男が一行を家の中に招きいれた。



●●●



「――で、何で呼び鈴なんか付けてるんだよ!?」


 居間に通されるや否や、烈が男に問うのをユーシスは見た。

 問われ、きょとんとした男は、


「え? 便利だからだろ」


 あっさりと言われた返答に烈はため息をつくしかないようだ。


「……便利なのは同意するが、目立つだろ」


 確かに、ボタンを押したときに鳴る高音は周囲に響こそしないが、この世界では特異なものだろう。


「とは言ってもこっちに居る時の仮拠点なだけだからなぁ、訪問者だってほぼ居ないし、そこまで気にすることでもないだろ」


「烈さん――そちらは?」


 レイアたちを置いて会話を続けていた烈と男に、リナが割って入る。


「ん、悪い。そうだな、まずは紹介か。

 ――名前は清堂(せいどう) 浩二(こうじ)。俺の古い友人だ。で、浩二、こちらが――」


 と、烈が全員分の紹介を簡潔に述べていく。


「ほうほう、これはまたすごいメンバーだな……、というか予定より多いよな? っと、今、紹介をもらったけど俺は清堂 浩二。歳は二十六。出身は秋田――って言ってもこっちの人間にはわからんかー」


「いや、レイアとレイガルフのネイン以外はマザー・イニーツィオについては知識はあるから大丈夫だろう」


「あ、そうなの? 一応、烈やジークの野郎を通してレイ・ウィングズに協力してる平民だ、よろしく。

 ……って王様たち相手なんだからこれじゃまずいわな」


「いえ、かまいませんよ。変に敬語使われても外だと目立ちますし、気さくにしてくださった方が僕たちも接しやすいです」


 頭を掻く浩二に対し、レイアは苦笑しながら返す。

 それを見ながら、ユーシスはある事についてひっかかりを覚えていた。

 ……『清堂』。どこかで聞いた姓だな。

 語感からしてマザー・イニーツィオに関係しているのは明確だ。

 すると横、アギトが顎に指を当て、つぶやいた。


「清堂で秋田つーと……」


 そこで思い出した。


「――『ノードゥス』か」


 ほとんど無意識に言った言葉だが、思いの外周りに聞こえる声量だったらしい。


「お? うちの会社ご存知?」


「……ああ。俺とリナ、アギトは一時期マザー・イニーツィオ――日本に住んでいたことがあるからな。企業の規模自体はそこまで大きくないにもかかわらず、大企業クラスの商品開発や事業展開をする事で有名な、あの企業を日本に住んでいて知らないという者もそうはいないだろう」


「レイ・ウィングズの第一貴族様にそう言われたと聞いたら親父も喜ぶぜ」


 笑う浩二を見て、ユーシスは日本に居た頃に聞いた事を思い出す。

 今の言葉を聞く限り、浩二の父親は間違いなくノードゥス社長である清堂士郎だろう。

 ノードゥスは、マザー・イニーツィオの日本において、高度経済成長期に頭角を現してきた企業で、規模としては中小企業ながらも、その後の不況などを危なげなく乗り越えてきた総合商社という認識だ。特にエレクトロニクス部門に力を注いでいるのは知っていたが、さすがに社長の身内がこの世界に関係しているとは知らなかった。


「烈が言う協力者が日本人だったのは驚きだ」


 無論、烈がレイ・ウィングズ人とマザー・イニーツィオの日本人とのハーフなのは理解しているが、あの世界で『異世界』が存在していると知る者は本当に少ない。それが、有名企業の関係者なのであればなおさら驚くというものだ。


「俺の三代上の爺さんが事故でレイ・ウィングズに飛ばされたことがあってな? その由縁もあって一族でけっこう異世界に関与してるんだ。

 俺は数年前まで魔法学院ステラリベルスの機械科に在籍してて、そこでまぁ……ジークフリートと知り合ってね。その伝手で烈と知り合って、今は外部協力者やってるんだよ」


「へぇー、ジークとも知り合いなん?

 ――ていうかさー、マジーア・リベレーターって機械技術とか流すの? あの半分鎖国世界が」


 浩二の説明にアギトが疑問を持った。それに続く形でリナが頷く。

 

「魔法学院に機械科なんてものがあるのは私も初耳ね」


 本来、ステラリベルスはその名のとおり、魔法を取り扱う学院だ。そもそも、ステラリベルスが存在するマジーア・リベレーターは魔法文明ではなく機械文明を選択した世界であり、各世界の要請が無ければ、魔法学院があること自体が許されない。

 しかし、マジーア・リベレーターは異世界との交流をステラリベルス以外ではほぼ行わず、その発達した文明も異世界に流れたことはないはずだ。例外である魔法学院で機械科というのは、何か矛盾に矛盾を重ねたような存在に思える。


「あー、一番マイナーな学科だし、知らないのも無理はないな。わざわざ魔法学院で専門外のことを学ぶ奴もいないし。

 まあ、言ってしまえば、型落ちも型落ちの技術ぐらいだったら、ってことで学ばせてもらえるんだ。そんなのでも他の世界からしたらかなり進んだ技術なんだがね。

 ……俺は機械弄りが好きだったからそこにしたんだけど、結果として家族にも利益あったって感じだな」


「ということはノードゥスが近年、革新商品を出していた理由というのは――」


「俺が学んだマジーア・リベレーターの知識にちょいアレンジして生まれたものだな」


 そんな裏があったとは……、とユーシスは衝撃を覚えた。

 マザー・イニーツィオの各家庭で知らぬ間に異世界が関係しているものが普及している事実はなかなかに衝撃的だ。


「……で、烈。一応お前の要請でウェルー滞在の間、宿はここ使ってもらう予定だけど、お前らこれからどうするわけ?」


「まずは物資の補給だな。食料関係もそうだが、今回諸事情でラインベルニカに戻らないで里からこっちに来たから色々不足していてな……。あとは情報。ウェルーを発った後は西に向かおうと思うんだが、その辺りの地域で何か変わった事や目立った事が無いか、その情報が欲しい」


 ウェルーに入った頃合からレイアとアギトが守護宝石の反応を微弱だが感知するようになった。二人ともが西、というのであれば確実だろう。 


「あとはここ最近のアーインスキアの動向だ。ウェルーはラインベルニカ同様、防衛線が機能しているから一帯は安全ではあるだろうが、ここから先はアーインスキア占領域に近づくことになる。やはり、危険は避けたい」


「アテはあんのか?」


「ここに来る途中、若いが実力のある商人と知り合ってな。明日以降になるが、最初はそこを当たってみる」


「了解了解。俺の方でも色々持ってきたし、知り合いあたってそれとなく情報探してみるよ。この家も好きに使ってくれてかまわない」


「ありがたい――そういえばお前、奥さんと子どもはどうしたんだ?」


「今は買い物に行ってる。お前らもウェルー歩いてみたらどうだ、この都市は商業都市でもあるから珍しいもんもいっぱいあるし。夜には改めて家族も紹介するから」


 ユーシスとしてはありがたい提案だった。ラインベルニカはアーインスキアの侵攻時から有力貴族などが集まり、政府機能を置くなどされたため、どちらかといえば治安維持、規制などがかけられ、都市として活気はあるもののどこか閉鎖的な空気を纏っていた。

 しかし、ウェルーは商業都市という性質も持ち合わせているため、規制をかけるよりも経済を回すことが優先されている。治安など、ラインベルニカよりは気をつけなければいけないことも多いが、都市の特性を学ぶ点において、得るものはあるだろう。

 世界を奪還した後は必然的に王都復興が最初の目標になるだろうからな……。

 アギトはもちろん、レイアも割りと天然系の節があるので、補佐がしっかりしないといけないだろうし、自分はそういう立場にある。


「なら少し、俺は出かけてこよう」


 そう言ってユーシスは立ち上がった。


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