この世界について
さて、この世界に来て一週間たった。
その間、オッサンに木の棒で尻をフルスイングされたり、クロさんに鈍器で殴られたりとしていたが、流石に辛いので逃げ出す算段を整えようと思う。
まずは、この世界について知ったことをまとめよう。
ニナさんや、酔っ払ったオッサンたちには僕は記憶障害ということで話をしている。納得しているかはわからないが、世の中を知らないボンボンくらいの認識をされているようなので、情報は得やすかった。
簡単に言えば、この世界はファンタジーだ。
魔法と剣の世界で、魔物なんかとバトルするご職業があるらしい。
ただ、魔法を自在に使える人は限られていて一般庶民は技術者の作った魔道具を使っているらしい。生活レベルに浸透している道具もあり、扱っている商会は国を越えて商売をしているみたいだ。
世界規模の株式会社みたいなものだろうか。
いつか行ければ良い。
さて、僕が今いる場所についてだが。
小国が集まったサーレンとかいう国家連合の端っこだといわれた。
このサーレン国家連合は帝国と王国という仲の悪い国家に挟まれており、度々戦争に巻き込まれていた可哀想な国の集まりだという。
ただ、最近は王国の力が弱くなり戦争も無くなったらしいが、今度は帝国が勢力を伸ばそうと出張ってきて迷惑になり連合を組んだ経緯あるとのことだった。
ただ、小国家の集まりなのであまり国は裕福ではないそうで奴隷商業が盛んだとニナさんはいっていた。貧乏な家の人間が身売りをして奴隷となることも多いそうで、ニナさんも、そう言った人間の一人らしい。
「いつか連合と帝国を抜けて共和国にいくんだー。何年かかるかわからないけどさー」
「共和国?」
「獣人差別があんまないらしいんだよねー。数もいっぱいらしいしー。風土的にも自由ねー」
なるほど帝国を抜けると共和国があるらしい。覚えておこう。
また、獣人と呼ばれるケモミミ系の方々も普通にいる。ニナさんもコスプレではなく、耳もしっぽも天然だった。この国では姿が人間に近いか、獣に近いかで待遇が違ってくるらしい。
ニナさんはほぼ人間なので、奴隷になっても待遇はいい方らしい。身を持って感じているが、ここでも良いとは思えないのだが、労働基準はシビアなようだ。
「クロさんはどうなんですか?」
「クロちゃんは謎なのよー。でも、黒髪は魔法の触媒にされたりするから、黒髪の子は高いはずなんだけどー。なんでこんな場所にいるんだろうねー?」
黒髪にくるまったクロさんを見ながら、ニナさんがいう。クロさんはご飯を食べ終わると、さっさと髪にくるまって眠っていた。
寝る子は育ちそうで良いことだ。
「ほれほれー。私のパンもお食べなさーい。育て若いのー」
「ありがとうございます」
「いいよー。そのかわりに計算おしえてねー」
ニナさんは非常に良い人だ。
情報を教えて貰いながら、算数を教えている。
学習意欲も高い。数字の形は前世界と同じだったので良かった。
本当は文字も教えて貰いたかったが、ニナさんは書けないし読めない。この世界では普通らしいが逃げるにも、せめて文字が読めないとツラいだろう。
オッサン達が教えてくれると思えないので、何か教科書みたいなの手に入らないだろうか。
あ、読めないから意味ないか。
そんな風に考えていると部屋が暗くなっていく。
もうすぐ夜がくる。