現実を受け入れる
夢で僕は海の上を漂っていた。
痛みはない。
白くなった世界を漂いながら、浮上、潜水を繰り返す。
ひとつ、ひとつ。
わかれていく自分。
わかれながら、浮上、潜水を繰り返す。
繰り返す、繰り返す、繰り返す。
浮上。
潜水
白い世界。
もう僕がいない。
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3日経てば、大体の現実はうけいれられるものだ。僕も受け入れた。これは夢じゃない。
日課の花摘みをして、かごに詰める。
詰めすぎると殴られるので注意しなければいけない。特に痛くないんだが、今日は太い木の棒を素振りしていたので気をつけないといけない。
結論を言うと、僕は別世界で別人になりました。異世界って言った方がいいんだろうか。
友達から勧められた小説にこんな内容のがあった。異世界チートってどこにあるんだろう。
「ちゃんと働け、シロ」
言葉と共に頭部に強打を受ける。
痛くて言葉にならない。
振り返ると拳大の石を握りしめたクロさんが背後に立ってた。
何、この子、怖い。
いままでの人生、作業に身が入らないだけで石を振りかぶる幼女に出会ったことがなかった。
出会ったとして、きっと関わらなかった。
大人の教育に委ねたはずだが、ここにはまともな大人がいない。
準大人のニナさんもあまりあてにならない。
「クロちゃんにまかせてるからー」
これで済ませられては、教育は僕に委ねられたも同然である。14年程度の人生経験で何を学ばせれば良いのか。子供、わからない。
そういえばニナさんも同い年か。
「クロ………」
「あっ?」
「さん……、石はいけないよ」
「はんっ」
幼女の笑いかたじゃない。
綺麗な丸の石を袋に戻して、彼女は自分の仕事に戻った。袋に戻したらということは、あの石は対僕専用の鈍器となったということだろう。
今後、背後には気を付けよう。
クロさんは、足先を越えた黒髪を三つ編みにしている。編んだのはニナさんだ。前髪は相変わらずのカーテン式だが、3日間見ていても黒髪の美しさに見とれてしまう。
見とれていたら、彼女は袋に手をいれていた。
作業に戻ろう。
時間の概念が無さそうな世界だが、時計はあるようで午前は水汲みや洗濯、午前に謎の花摘をして食事の準備の手伝いなどをする。
子供にも出来るような雑用が主な仕事だ。
大人連中、髭や槍のおっさんたちは狩りをしたり大工仕事をしたりしているようだが、夜には酒を飲んで騒いでいる。
大人が働いているように見えないのはどこの世界も一緒らしい。
「シロ、孤児院に帰るよ」
クロさんから、声がかかった。
彼女のノルマが終わったようだ。
僕は結構前に終わっていた。子供のペースに合わせるって大変だ。相手は気がつかないから尚更である。
「あそこは孤児院とはいわない」
「じゃあ、あなたは孤児じゃないの?」
現状、否定がしきれない。
だが、明確にいえば迷子に近い状況だ。
この世界では親がいたのかもわからないから、前の世界からの基準で考えるべきだろう。
しかし、それを加味してもあそこは孤児院ではなく山賊のアジトと呼ぶのが相当だろう。
「とにかく帰るよ」
「あっ、はい」
素直に従っているのは彼女が袋に手を入れたからであって、本心ではない。
ないよ。