猫耳と出会う
もの凄く苦かったが、とりあえず何もないので毒とかでは無さそうだ。躊躇わずに口をつけておいて何だが、夢だし何とかなるだろうと軽い気持ちもあった。
とりあえず、お礼でも言っておこう。
「ええと、ありが…………」
「そんなんはいいから、ついて来い」
冷たい。
フレンドリーに接していたつもりだったんだが、何がいけなかったのだろう。
二人が僕を挟むように前後について歩き出す。
髭さんが前、槍のオッサンが後ろだ。
二人とも話しかけるなという雰囲気で、何も言えなくなる。そのまま、結構な時間を歩いていくと家が見えた。どうやら、森を抜けて人里に降りたようだ。
そこは、凄く寂れていた。
ただ、人里の様子はどうみても日本の農村ではない。
修学旅行二日目で行った大阪のテーマパークにこんなエリアがあった。海外の小説をイメージしていたはずだ。そんな感じ。
特に会話もないまま、わりと大きな家の前についた。入れと指示され、誘導の通りに家に入る。
なんか怖い。
入った先には女性が二人、男性四人。
女性が若いわりに男性陣は老けてみえるのは僕の偏見だろうか。
なぜか、女性のひとりは猫耳をつけていてしっぽをつけている。男性の趣味だろうか。こういうのは隠れて楽しむべきだと思うのだが、特に周囲は気にしていないようだ。
首輪までしているのに、寛大な友人たちだ。
そうこう考えていると部屋にいた男性陣から声があがった。
「なんだ、えらいもん連れてきたな」
「森の花畑のとこにいたんだ」
「なに?」
「なんも知らないみたいだし。とりあえず、薬も飲ませてるから安心だろうよ」
短い会話をして「ふうむ」と考え込む様子を見せたのは、椅子に座っている小さなおじさんだ。
ただ、顔には傷がたくさんついていて、なかなか痛々しい。
ていうか、薬で安心てなんなんだろう。
「ニナ、部屋につれてけ」
「うへ、わたし?」
次に話したのは槍のおっさんで、反応したのは猫の人だった。僕と同い年、十四、五歳くらいにみえるが、今の姿では歳上?なので大人の女性に見えるから不思議だ。
「そうだよ。お前の仲間になるかもしれんし」
「あー、はい。シロちゃんおいで」
と言われた猫の人。ニナさんが僕に手招きした。
シロちゃんとは僕のことらしい。
名前がちょっと気になったが、ついていくことにした。ようやくオッサンからの解放である。拒否の選択はない。
ニナさんはそのまま家の奥のほうに進んでいくのでついていく。ようやく場面転換かと思ったが、特に劇的な変化もなく。
下に向かう小さな階段に通された。
「はい、おりて。おねーちゃんもはやくしないと殴られちゃう」
そんなドメスティックな事を言われては仕方がない。短く返事をして階段をくだると藁が敷かれた狭い空間があった。
「ここの部屋で生活するからねー。わたしと君と三人でつかうから」
マジかこれ部屋っていうのか。
ていうか、三人?
驚くと同時に疑問が顔に出たのか、ニナさんが部屋の隅を指差す。
何か黒いものが部屋の隅にいた。
暗いのになぜかよく見える。
あれは小さな人だ。
というか、子供。
髪の黒い女の子がいた。