管理能力とは
本当、この世界の危機管理能力は穴だらけだ。
どこぞの街のギルドのように、見張りもなく、牢を何とかしてしまえば脱走は容易かった。
荷馬車から飛び降りた時も、なんの反応も無く。
むしろ逃げろと言わんばかりの状況にヒヤヒヤしている。
しかし、そんな事を考えているのは僕だけのようで、僕が抱えている二人に関しては逃げきれることに疑いは無いようだ。
「シロちゃん、すごいねー。本当に出来るこねー」
「……まあ、当然」
ニナさんの言葉にクロさんが続いたが、やはり少々元気がない。そんなにヘアピンを気に入っているとは思わなかった。しかし、今つけてる髪止めも似合うのだから、気にしないで欲しいものだ。
「ねぇ……ちょ……待って……」
「はい?」
苦しそうな声に振り向けば、アルディナが肩で息をしていた。
脇腹を押さえて、信じられないといった顔をしている。
「いや……、何者、君?古代種族か何か?」
「いや、よくわかんないです」
またなにやら、おかしな単語を耳にしたがスルーしたほうが良い気がする。
しかし、それに反応したのはクロさんだった。
「シロをそんなものと一緒にするな」
まるで、世界から色が抜け落ちたような。
そんな眼をしていた。普段の興味がなさそうな眼ではなく、そのものに対する憎悪さえ感じさせる。
なにか僕は言おうとしたはずだが、何も喉からあがってこない。
アルディナも何か言おうとしていたようだが、その間にニナさんがクロさんの頭を撫でていた。
とても、優しい顔をしている。
ばつが悪そうな顔をして、クロさんが言う。
「ごめん、忘れろ」
「え、あっ、うん」
アルディナが困った様子で返事をして、切り替えたようにクロさんが僕をみた。
「いったん、ここで降ろして」
言われた通りに一旦止まり、開けた場所で二人を降ろす。
「ギンは来ると思う?」
クロさんの言葉に頷くと、少し考えるような動きをして僕をみた。
「よし、このままアルノアに向かおう」
「そうにゃ、ギンちゃん賢いから追って来てくれる」
僕らの中ではギンは無敵キャラ的な扱いである。
なぜか、捕まっていたこともあった彼だが、自身の食料を探しに行き持ってくるものが毎回こちらの想像を越えてくる。
ライオンのような生物を始めとして、とにかくデカイ猪みたいな、角が五本ある牛、片腕が異常に太い熊などを無傷で持ってくる。
白状かも知れないがギンなら大丈夫だろうという思いがあった。
「ギンちゃん、って誰よ?」
ぽかんとした表情でアルディナが言う。
僕が答えようとするが。
「お前には関係ないだろう?」
と、クロさんが心底不思議そうに言った。
ちょっと、冷たくな…………いや、そういえば、そうか。
「え、いや、運命共同体じゃん!?」
「もう、ほぼ逃げきった。明日にはおさらば」
「え!え?マジで、あんなおっかない女から一人で逃げきれと!?」
焦りを見せるアルディナだが、根本として考えれば。
「お前が紹介したんだろう?」
本当に何言ってんの?
という表情でアルディナを見つめるクロさん。
凄く、こう言った表情が似合う。
「あっ、えー。いや、そうだけど。そうですけど」
歯切れ悪く答えるアルディナ。
助けを求めるように僕を見るのはやめてもらいたい。
眼を逸らす。
「んまー。ギンちゃん来るまでくらいならいいんじゃにゃい?」
思わぬ発言は、我らが良心。
猫耳の方であった。
「おお、ニナちゃん!」
「ニナ?」
喜色を浮かべるアルディナに、戸惑うクロさん。
「まあ、世の中は旅の道連れっていうじゃにゃい?」
旅は、と言ってくれないと意味合いが違う気もする。
しかし、よく考えれば、僕らも旅の道連れのようなもの。
そう考えれば、ニナさんがアルディナを見捨てないのも頷ける気がした。
「まあ……、ニナが良いなら」
しぶしぶ、と言った様子でクロさんが頷く。
良心の判断には逆らえないようだ。
「まあ、盾は必要か」
「あっ、その認識は変わらないんだ……」
クロさんとアルディナのやり取りを嬉しそうに眺めるニナさん。
なんとなく、いい雰囲気になり。
穏やかな空気の中で、唐突に、寒気が走った。
「わたしも、まーぜーて」
声と共に、地面が割れた。




