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微笑みは変わらない

「あれの必要性はわかった。だけど、私たちは必要ないはず。さっさと出せ」


クロさんがラズライさんを睨む。

しかし、彼女の微笑みは変わらなかった。


「駄目よ。貴方達は売り先が決まってるんだから」


「は?」


口を開けて驚くクロさん。

その後ろで似たような顔で驚いているニナさんが見える。いや、檻にいれられた時点で薄々気がついていたが、売り先が決まっているとは驚きだ。

ラズライさんは仕事がとても早い。


「帝国貴族に伝があるの。その人の飼っていた奴隷が最近減ったらしくて探していたの。可愛い子が見つかって良かったわ。ああ、猫ちゃんも安心してね。帝国では獣人でも可愛ければ優遇されるから、可愛がってもらいなさい」


彼女の言う可愛がるが、どんなものかは知らないが。こんな経緯だ。ろくなものじゃないだろう。


「ふざけるなよ…………!」


「あら、真面目よ。クロちゃん。貴女みたいな子も全然いける人だし。シロちゃんになんて、大喜びして逢いたがってたんだから」


なにそれ、怖い。

ラズライさんの言葉に僕は震え上がる。

もはや、第六感がヤバイと伝えていた。


クロさんがラズライさんを焼き殺さんばかりに睨み付ける。

それに応じず、ラズライさんは胸元から、僕たちの見覚えのあるものを取り出した。


「おめかしもしてあげたのだから、感謝してね。ああ、クロちゃんのこれ。気になったから貰うわね。代わりに高ーい髪飾りと交換してあげたから許して」


イタズラを成功させたように、ラズライさんは僕がクロさんにあげた髪止めを手でふった。


「なっ!ふざけるな!返せ!」


突然大きな声をあげて、クロさんが檻へとしがみつく。髪が檻の隙間からラズライさんへと向かった。


寒気がした。


「お転婆さんね」


その声がしたと思うと、向かっていた髪の先が消える。

僕がクロさんを抱えて後ろに下がったのは、ほぼ同時だった。


「なっ、え」


驚いているクロさんの前に立つ。

クロさんの髪は毛先が刈り取られていた。

断面は少しだけ焦げている。


「殺すぞ、ガキ」


そう言ったのは、光る石を持っていなかったほうの女性だ。

手には炎を纏った剣を持ち、僕らを睨み付けている。そして、その中に僕らに対する明確な殺意を感じることが出来た。


まずい、たぶん、死ぬ。


直感が働く。


全神経を尖らせて、クロさんとニナさんを守るために前に出る。


そして。


「ジェナ、ハウス」


声と共に女が後方へと吹き飛んだ。

転がって、暗闇の先で見えなくなる。


「商品に傷をつけないようにしていたのに、馬鹿なのかしら」


穏やかな声で、一切変わらない顔でラズライさんは言った。


「死んだかしら?ねえ、フィレ」


「罰を受けて死なない愚か者でしたら、私が排除しておきます」


「あらあら、まあ黒髪は魔法の触媒になるし。生きてたら許してあげましょう」


「承知いたしました」


光る石を持ったフィレと呼ばれた女性は、吹き飛んだジェナと呼ばれた女性の方を一度も見ることはなかった。

ただ淡々とラズライさんの言葉にこたえる。

当然のように、今起こったことを受け入れていた。


純粋な恐怖。

それが僕の中に生まれ始める。


だが。


「…………ふざけんな。この年増、髪止めを返せ!」


クロさんは退かなかった。

自慢の髪を焼かれながら、まっすぐにラズライさんたちを睨み付けていた。


それでも、穏やかな微笑みはかわらない。


「ごめんね。これは貰うから、じゃあまたね」


そうして二人は、僕たちの前から姿を消し。


物語は先の話に戻る。







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