空気は読みたい
聞いた覚えのある声に振り向けば、ラズライさんがいた。
それからもう二人、綺麗な女性が両脇に控え、一人が光る石を持っている。
それに照らされたラズライの顔は穏やかな微笑みだった。
「おい、年増。これはなんの真似?」
クロさんが標的を変える。
揺らめく髪はそのままに檻の側に歩き出す。
一応、僕はクロさんの前に出ておく。
クロさんに何かあれば困る。
少しだけクロさんは嫌そうな顔をしたが、ラズライさんへの興味が勝ったようだった。
「あら、私まだ27なのに酷いわ」
ラズライさんの表情は変わらない。
そのかわりに両脇の二人がピリピリとしはじめる。なにこれ、怖い。
もの応じしないのはクロさんだけだ。
「年増、答えろ」
「もう、私は仕事をしただけよ」
少しだけ、ラズライさんが溜め息をついた。
「なに?」
「帝国についたのよ」
「え?」
最後のは僕の声だ。
僕の顔をクロさんが見る。
それに頷いてみせる。ラズライさんは、嘘をついていなかった。
「仕事はしっかりこなすほうなの。貴方たちの荷物も全部持ってきてるから安心して」
「つまり、これが仕事のやりかただと?」
「ええ、そう」
ラズライさんの表情に対して、どこか納得いかない顔をみせるクロさん。それも仕方がないことだろう。明らかに不純物がある。
「ねー、ラズライ。私は、いらなくない?」
壁にへばりついていたはずのカルディナさんがうんざりした顔で言う。
それに対するラズライさんの表情は変わらない。
ずっと、穏やかな微笑み。
何一つ、間違えていない。
そんな顔をしている。
そして、カルディナさんに向けて言う。
「必要よ。連合公爵家のアルディナ・カデリナさん」
「……そりゃ、誰よ。ラズライ」
「あなたのことよ。ああ、妹さんが最近騎士なったらしいわよ。おめでとう」
ラズライさんが一人手を叩く。
静かな空間に乾いた音だけがなる。
カルディナ、いや、アルディナと呼ばれた彼女は苦々しい表情で下を向いた。
「おかげで帝国に借りが作れそうよ。本当にありがとう」
どうにも二人の間の会話が読みきれないが、カルディナ改めアルディナさんは、どうやら貴族様らしい。それも連合国的には偉い身分のようだ。
土下座女子として、そんな様子は微塵も感じさせなかったが、それも何かを欺く演技だったとすれば大したものだ。
「そんな女はどうでもいい。私たちは関係ないから、ここから出せ」
流れをぶったぎってクロさんが言った。
本当、カッコいいです。真似できない。
「えっと、クロちゃん?私、意外とシリアスだったんだけど」
寂しげにアルディナが言うと、すかさずクロさんは彼女を睨む。
「クロちゃんだと?私のことは様をつけて呼びなさい」
「え?」
「様だ」
「あの」
「様だ」
「……クロ様」
「はんっ」
蔑むような眼で息をするクロさん。
下を向いてしまうアルディナ。
いやあ、クロさん。
カッコいいです。




