不法入国をしよう
野営地から二週間。
すでに異世界に来てから1ヶ月程が経過したことになる。いったい、僕は家に帰ることが出来るのだろうか。だが、今は不安を置き去りにしてでも前に進むよりない。
現状の目標を確認する。
「不法入国。ですか?」
「それしか方法はない」
「だにゃー」
話し合いにギンの姿はない。
現在、僕たちは国境の街アープラグにいる。
ギンは街の外で荷物と留守番。
帝国と連合の間には、正式な入国経路として三つの街が存在しているようだ。
最北のムリスハ、中央のカガリナ、そして最南アープラグ。
基本的に、ここを通ることで帝国と連合は各々の出入国を管理しているらしい。
もちろん、正式ではないルートも存在するらしいが、それは事と次第では犯罪者扱いとなってしまうらしい。戦時中でない今、そこまで厳しい管理はされていないとの事だが。
「私たちには前科がある」
「前科って……、一応僕達は被害者だったじゃないですか」
ドロテアの街での出来事を思い出す。
ハッキリとあの街には良い思い出がない。
「騎士をぶん殴った」
「あー、でも、そんなこと気にする人とは思いませんけど…………」
「へえ、私はそこまであいつを知らない」
「ええとぉ、はい、すいません」
「はんっ」
ここ最近、クロさんの言葉には棘がある。
薔薇なんて可愛い棘ならいいが、もはや千枚通しが乱立しているような状態だ。
だいたい、ディルゴと別れてからこの様子だ。
機嫌を直す方法もわからないので棘の折りようがない。
普段はあまり気にならないのだが、突然にょきにょき生えてくるので困っている。
ニナさんに相談したが、
「うーん、乙女心かにゃ?」
と、あてにならない答えしか返って来なかった。
まあ、それは今は置いておくとして。
問題は僕達が帝国に渡れるかどうか。
そして、その中でも大きな問題はギンをどうするかだ。
ドロテアでは普通に竜を連れて歩いていたが、やはり普通じゃないとの結論になった。
前回は悪目立ちをしたことで、厄介な事に巻き込まれた。まずは目立たず行動して、最善の手を考える。
しかし、その最善の手が。
「不法入国かぁ………」
「竜を入国させて、私たちが安全に帝国に渡るならそれしかない。みんな、やっている」
みんな、やっている。
こんな風に言われては、日本人の気質として受け入れてしまいそうだ。
しかし、不法と言われると罪の意識が芽生えてしまう。前の世界の気質はどうにも抜けない。
「まず、仲介人を探しましょう。この街になら、必ずいる」
「にゃー」
二人がさっさと結論を出して歩き出す。
僕は、仕方無しに納得して後に続いた。
帰るには帝国のアルノアに向かわなければいけない。ギンにも愛着がわいていて、別れるというのも考えられないことだ。
とりあえず情報を集めるには冒険者ギルドとの事だったので、嫌な感じはするが向かうことにする。
冒険者ギルドと言っても、この街のギルドは同事業の別会社みたいなものらしいので、二人は気にしていないようだった。
そうして、ギルド会館を見つける。
「ん?」
そのギルド会館の前で、誰かが両手をついて地に伏している。
いや、あれは、違う。
「土下座?」
金髪の人物が一人。
見事な体勢で土下座を決めていた。




