閑話~ドロテア事件~
カルディナ・アデリナがディルゴ・マクティンを発見できたのは、半分は幸運だった。
彼女は魔力を放出し、それを探索に要いることを得意としていた。しかし、今回。探索の相手となるディルゴの魔力を感じることが出来ず、内心酷い焦燥にかられていた。
「焦るな、やつは簡単にくたばる男じゃあるまい」
同じく捜索に出ていたアルゴ・ポヌはこう言ったが、事態はそう甘くないようにカルディナには感じられた。
3日前、ウィーグ・ジェルマン率いる騎士中隊が騎士団長であるドラム・ハン・サルロと合流した。これは予期せぬことであったが帰還予定だったドラムは手間が省けたとして、近くにあるドロテアへ行き、先の調査の情報を精査しようとした。
しかし、いざドロテア着けば。街は魔物の集団に襲われたが如くの荒れ方をしていた。
道は抉れ、家屋には穴が開き、痛々しい傷跡がいたるところにあったのだ。
医療所にも怪我人が溢れ、人手が足りない。
地獄絵図だ。
何よりもその惨状に怒ったのはドラムだった。
直ぐ様に街の復興の援助と、事件の仔細の調査が言い渡され、騎士団は各々奮闘することになったのだが、そこで予想外の事が起こった。
「これを起こしたのは、魔狼、尻尾つきのディルゴだ」
街の冒険者ギルドの長である男が、そう発言したのだ。騎士団としては、信じられない話だった。
魔狼のディルゴは、騎士団の中でも特に愛国心が強く。女王、アル・カーディナルへの忠誠心も誰よりも厚いと言われていたのである。
もちろん、ドラムをはじめとした騎士団の誰もが信じなかった。しかし、ディルゴが使用していた銘の入った剣が血をつけた状態で見つかっており。街の兵士にも、そう証言するものが現れては調査するより無くなった。
「一度は捕らえたものの、逃げられたのだ」
ディルゴに弟を殺されたと、嘆いたギルド長は証言した。
そして、即日。その詮索は騎士団の実力者であるカルディナとアルゴが任されることになった。
これは万が一の事態を想定しての配置だったが、カルディナとしては、ドラムがディルゴを疑っていると感ぜざる負えない状況だった。
カルディナとディルゴの付き合いは長い。
11年前、彼女は姉とともにディルゴに助けられた。その時ディルゴは騎士では無かったが、ドラムとともに、ならず者から彼女達を守り。父親を目の前で殺された彼女達を、優しく慰めてくれた
。
騎士団に入ってからは、良き先輩として常に身を案じ、指導をしてくれていた。
そんなディルゴが罪もない市民に剣を向けることなど、カルディナには絶対に考えられないことだった。
ほんの僅かな魔力のうごきに注意しながら、探索を続けるが、ディルゴの気配が見つからない。
これは、カルディナにとって初めての経験だった。マナに呼び掛ければ、必ずオドに辿り着いてきた。見つからないのは、例外として、相手が死んでいた時。それだけだった。
だからこそ、茂みから満身創痍のディルゴが現れたときはグールへとディルゴが反転したのかと思い気が気でなくなった。
「おお、カルディナか。助かった」
「よっ、良かった!ディルゴ、生きていたか!?それより、なんだその怪我は!?座れ、治療する!!」
「話すと長い。というか、騒がしいぞ。落ち着け」
カルディナは普段と変わらぬディルゴの様子に安堵しながら、魔法で治療を始めた。
「なんだ、魔力回路がめちゃくちゃではないか!?」
「リコにやられたんだよ。ドロテアは薬にやられているな。もしかしたら、王国とも通じている可能性がある」
また、急速に事態が動くことになった。
同じく探索をしていたアルゴを呼び、ディルゴから状況と至った経緯を聞くことになった。
彼の話では、顛末は先の証言と異なり、街に入るなり殺されそうになった。そう言った。
リコの匂いを辿り、宿屋を調べようとした際に複数の人間に襲われ、リコの粉末をかけられ力を奪われ、魔道具で縛り上げられ、地下牢に幽閉されそうになったのだという。
「だが、その状況でどう逃げ出したのだ?」
アルゴが聞く。それはカルディナも気になっていたことだった。
「竜を連れた少年達に助けられた。今、生きているのは彼らのおかげだ」




