正面衝突
学生ズボンを履いていたはずだったが、今はネズミ色の半ズボンになっている。
靴も履いていない、素足だ。
上半身も制服ではなく、半袖のTシャツみたいなものに変わっている。
誰かが僕を着替えさせたのか?
自然に脱げたり、無意識で着替えたなんてことも考えるが有り得ないだろう。
僕は地力で岸へと這い上がった。
びしょ濡れでだ。
そこで新たに気がつく。
足が小さくなっている。短くなった。明らかに。
腕も、手も小さいし、短い。
身体を触る。
小さい。
身体が小さくなっている。
衝撃に重なるように違和感に気づく。
磯の香りがしない。
海に、いや、海だと思っていたものに近づいた。
水が澄んでいる。まっさらで、姿を写すほどに綺麗な水だ。
そして、そこに写し出された姿に驚愕した。
違う人がいる。
違う子の姿がそこにはあった。
綺麗な顔だ。
すっきりとパーツが並べられ、ひとつひとつ整っている。肌は白く、眼は赤みのある茶色。高めの鼻に、綺麗な唇。女子かと見間違う。
でも、髪真っ白。
というか、全体的に幼い。
よくて七、八歳といったところだ。
体のサイズも、そんな感じだろうか。
それが、自分の体として写し出されている。
おかしい。明らかに、絶対に。
海には、人を幼くする作用があったのか。
違うな、そもそも顔違う。
顔面の構成が違った。
月とゴキブリの裏側くらい差がある。
夢か?
夢だとすれば、明晰夢か。
しかし、僕が望んだのが美少年顔だと思うと恥ずかしい気もする。
しかし、あれだけ苦しく、痛かったのに夢だと思うと悲しい。現実が追ってくるのだ。
気分が重い。
重く感じていると、見ていた水面が揺れた。
顔をあげると水の上を丸いボールが走っていた。
デカイ。
遠くにみえるのに、デカイ。
まっすぐにこちらに向かってくる。
なんだが、風を切る音まで聞こえてくる。
夢だよね?
夢?
だよね?
「だよね?」
言葉には誰も返してくれない。
そのまま、まっすぐ向かってきた。
球体は、そのまま、僕に向かい。
そのまま、僕を弾き飛ばした。