今度は買い取りで揉める
作業場に入ると顔の赤いままのクロさんが、窓口らしき場所に進んでいく。
荷物を持った僕とニナさんがそれに続いた。
窓口にはたっぷりと太ったおじさんがいた。
「魔物の素材を売りたい」
混乱が続いているのか、クロさんは外交モードに切り替わらなかった。
「はいはい、じゃあここ置いて」
顔も見ずに太ったおじさんがいう。
態度悪いな。
前の世界ならネットに晒されて、叩かれそうだ。
僕やニナさんが鞄から魔物の素材を取り出す。
とりあえず、乗り切らないので半分。
この砲弾虫の外殻など、これらはニナさんいわく高く売れるらしい。熱を加えて金属と混ぜると良い鎧が出来るのだという。
その情報の通り、素材をみた太ったおじさんが顔色を変えた。
「砲弾虫か!?あっ、いや。なんで、どうやって」
「運がよくて、おいくらですか?」
いつの間にか半分社交モードのクロさんが答えた。しかし、まだ100%は皮を被れていない。
太ったおじさんが唸るようにいう。
「マルス金貨2枚」
この世界の貨幣価値はわかりにくい。
僕も最近教わったのだが、マルス、リヨン、オルニアと代表的な三種類の硬貨がある。
それ以外にもあるらしいが、ひとまず。
主にこの世界で使われるお金は上記の三種類だ。
一応、僕の感覚では。
マルス金貨=100000円
リヨン金貨=10000円
オルニア金貨=5000円
マルス銀貨=1000円
リヨン銀貨=500円
オルニア銀貨=100円
マルス銅貨=50円
リヨン銅貨=5円
オルニア銅貨=1円
多少、相場に変動はあるらしいが感覚としてこんな感じだ。
一般的な四人家族が1ヶ月生活にマルス銀貨3枚あれば足りるとのことなので、マルス金貨2枚というのは大金である。
しかし、何となくだが。
「嘘ですよね、それ?」
と言葉が出てしまった。
言うつもりはなかったのだが、自然と出てしまう。クロさんもニナさんも驚いた顔をして、こちらをみた。
「なっ、なんだと!クソガキ、俺が嘘ついてるってか!?」
太ったおじさんが声を荒げた。
細い目でこちらを睨むが不思議と怖くなかった。
「あっ、いや、なんとなく。すいません」
とりあえず、謝る。
その様子を見て、クロさんがいった。
「やはり、やめておきます。シロ、ニナ、素材を仕舞って」
「なっ!ガキども!おちょくってるのか!」
「この子、不思議と勘が鋭いの。商会ギルドにも持っていってみることにします」
途端、太ったおじさんは情けない声を出した。
「まて、マルス金貨3枚だ!」
「あらあら、凄く値段が上がりましたね。シロ、ニナはやく」
太ったおじさんは素材を抱えるようにして、前に出た。
「くっ、リヨン金貨も7枚つける!」
「9枚」
「なっ…………!8枚だ…………」
「では、それで」
交渉してみるものだ。
最初の値段から、かなり上がったように思う。
リュックサックから残りも出そうとすると、ニナさんが、それを止めた。
「これで全部だよー」
「本当だろうな…………」
うらめしそうな顔でニナさんにおじさんがいう。
「嘘はつかないよー」
大嘘だが、はじめに嘘をついたのは向こうなので何も言わずにリュックサックを背負い直した。
おじさんは素材をしまい、奥から袋を持ってきた。
「ほらよ」
それを目の前で開けて、クロさんが確かめる。
「リヨンが一枚足りなくて、オルニアが一枚入ってますね」
「手数料だ!さっさと行け!」
クロさんが溜め息をついて、袋を閉じるとそれをニナさんの渡した。
「お願い」
「はーい」
そのまま、僕たちは窓口から立ち去る。
太ったおじさんは地面に唾を吐いている。
なんだ、あれ、すごく態度が悪い。
冒険者ギルドというのは、こんな人間の集まりなのだろうか?
嫌な気分になりながら、外に出るとニナさんが正面から抱きついてきた。そのまま、頭を撫でられた。
「シロちゃん、おてがらー」
クロさんにはない、大きな柔らかいのが僕の目の前に広がる。これは凄い。幸せで死ねる。
そのまま、鈍器もふってきた。
痛い、このまま死ぬ。
「褒めようとすれば、このガキ。死にたいのか」
社交モードの反動か、普段よりクロさんの口が悪い。しかし、複雑な表情を見る限り本気ではないようだ。痛いけど。
とりあえず、名残惜しいがニナさんから逃れた。
「これ、どうしますか?」
リュックサックを見て、残り半分の素材をどうするのか聞く。
「とりあえず、次の街で売りましょう。相場はわからないけど、ここよりは高く売れる」
「さんせーい。今でも信じりゃれにゃいくらいお金持ちだしー。お馬さん買いましょー」
二人の意思決定に僕も従う。
とりあえず、いったん、宿屋に戻ることにした。