馬車馬のように働く
観光地で人力車を見かけるとテンションがあがった。
地元の観光協会がやっているものと思っていたのだが、人力車をネットで検索すると株式会社が最初に出てくる。これには複雑な気分になったの覚えている。そうしないと伝統を守れないということなのかも知れない。
そして、今。
僕もそんな伝統を担う人間の一人として、馬車をひいている。
「きりきり歩きなさい。シロ」
荷台から鈍器をかまえて、クロさんがいう。
ピラミッド建設ですら、もう少し慈悲があっただろう。いや、あれも自由労働者が雇用されていたんだったか。
自由とは何か。生きるとはなんだ。
まあ、軽いからいいんだけど。
基本指針を決めた翌日に僕らは旅に出た。
目的地は共和国。ティラーナだ。
これはニナさんの「で、君たちはどこでにゃにするの?」の発言により決定した。
クロさんもよく考えてなかったらしく。
とりあえず、ニナさんと目的地を一緒にして行動の指針を探すことになった。
あれだけ胸をはっていたのに。
いや、胸はなかったか?
鈍器が振り落とされる。
痛い。
なぜわかった。
「シロちゃん、大丈夫ー?本当に君なにものー?」
ニナさんが荷台から僕に話しかけてきた。
僕もよくは知らないので返答に困る。
旅をするにいたって、僕たちは村からお金になりそうなものや、食料などを持ち出した。
その中で僕はオッサン達が使っていた馬車を見つけたのだが、肝心の馬が魔物の餌食になっていたため使用出来ないことに気がついた。
荷物が多く積めるかと思い、喜んで二人の前に引っ張っていったのにだ。
残念な気持ちで馬車をひき、元の場所に戻そうした時、クロさんが淡々と言った。
「馬を買うまで、あなたがひきなさい」
そして、現在にいたるのだが。
自分自身でもびっくりするほどしっくりしている。この様子を見て、クロさんが馬の購入をやめないかが心配だ。
「ところで、道はあってますよね?」
「ええ、信じなさい」
なぜだろう、クロさんがいうと胡散臭い。
「大丈夫ー。この先にドロテアって街があるのー。そこに行けばお馬さんもあるからねー。シロちゃん、がんばってー」
ニナさんの言葉に安心して馬車をひいた。
何かおいしいものでもあればいいのだが。
「ドロテアはお野菜がおいしいよー。後は砦があって兵隊さんいっぱいだから安全だしー。ちょっとゆっくり出来るよー」
やはり、この国の情報や地理について、ニナさんは非常によく知っていて頼りになる。
「騎士団なんかも来てるかも知れない」
「騎士団?」
クロさんの言葉に反応する。
そんなカッコいいものもいるらしい。
「連合騎士団にゃんて来ないよー。こんな田舎にー」
ニナさんの話では連合が結成されたのは50年程前、それと同時に統合戦力として『女王』に忠誠を誓う騎士団が編成されたらしい。意外と歴史が深いようだ。
「それにしても、連合なのに女王がいるんですか?色んな国が集まってるんですよね?」
「元々、君主は一緒だったの。それぞれ政府が違っただけで。だからこそ連合として成立して、成立し続けている」
同君連合というやつだったか、僕の世界にも似たような国があったような気がする。そんなものだろうか。
あれこれと考えているうちに、石の壁に囲まれた街が見える。外周にはサリーが咲いていた。
ニナさんの指示で街道に出ると門が見える。
だが、そこに銀色の甲冑に身を包んだ集団が見えた。深紅の旗を掲げ、真ん中に黄金の鳥が羽ばたいている。
僕以外の二人も気がついたようで、ニナさんがボソリと言った。
「うわー、まじで騎士団だー。ありえねー」
なんとなくだが、ひと波乱ありそうな気がした。




