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間話~三人の来訪者~

馬に跨がった。

正確には、馬のような生き物に跨がった三人の男女がある廃村に来ていた。

場所はサーレン国家連合の端。

ディオニス王国の国境にあたる国家防衛の要である。

国境側の湖近くには砲弾虫と呼ばれる非常にやっかいな魔物が生息。さらに、それを餌にする竜が湖を巣にしており、天然の防衛力となり王国の侵攻を防いでいた。


「それにあまんじて、砦を少し遠くに作ったのは間違いだったのかも知れんな」


丸刈りの偉丈夫が馬上で怒りをあらわにしていた。隣では金髪を編み込んだ女性が返答に困っている。

ひとり辺りを探っていた獣人のディルゴ・マクティンが戻って来るまで、女性、カルヴィナ・アデリナの気が休まることはなかった。


丸刈りの男、ドラム・ハン・サルロは怒り出すと手がつけられないのだ。沸点が高いのが救いだが、彼の部下であるカルヴィナは気が気でない。

ご機嫌とりの仕事ではないが、ドラムには機嫌良く帰って貰わなくてはならない。

そうでなくては、訓練が2倍に増えるだけでは話が終わらない。彼女は部下に恨まれたくはなかった。


なにしろ、今回はすべて終わった事案なのだ。


世界協定で禁じられているリコの花が栽培がされている。

そんな情報が得られたのは三週間前。

カルヴィナとディルゴが仕事をほっぽりだして、姿を消した上司を連れ戻しに出たのは二週間前。

ようやく追いついて、村へ向かったのが一週間前だ。


そして今、その村が廃村となっている現状を見て三人は驚きを隠せなかった。

ディルゴが村の周辺の探索を行っている場合、カルヴィナが村の内部を見て回ったが、どうにも暴れたのが人間のようには見えなかった。


廃村の入口で待機して貰ったドラムに村の状況を報告したのだが、そこですでに彼は機嫌が悪くなっていた。

おそらく、悪行を止められなかったことに加えて。悪行を行っていたとはいえ、民を守れなかった怒り。これらを混ぜて、グツグツと煮えたぎらせているようだ。


ディルゴが村の先で、リコの花を見つけ処分したと報告した。


「ただ、気になるんすよ」


「なにがだ?」


「いえ、サリーが一緒に咲いてたんすけどね。どうみても魔物が近づくように思えないんすよ」


ディルゴは狼の獣人だ。

臭いには敏感で部隊でも斥候を勤める。


「ですが、村は魔物に襲われたようにみえます


「そうだな」


カルヴィナとドラムは同時に村の奥にある、魔物の死体に目をやった。

僅かに萎れていたが、それは砲弾虫と呼ばれる魔物だ。

行動パターンは単純で、獲物を見つけると体内でガスを生成して膨らみ、突撃を繰り返して相手を圧殺しようとする。

それだけならいいのだが、表皮の硬度が高く通常装備では歯が立たず、肉食で攻撃性も高い。

またガスも可燃性で、火をつけると爆散するため周辺に被害を及ぼす。

特に数が集まったりすると討伐に手間のかかることで有名で、竜の餌にならない限り中隊から大隊を編成し討伐にあたるような魔物だった。


それが、背中に風穴をあけてたたずんでいる。

この光景も、また異常にみえた。


「とりあえずっすけど。何らかの事態で砲弾虫が入り込み村は全滅。しかし、砲弾虫を倒したやつらは逃亡したってことっすよね?」


「状況を見ればな」


ディルゴの言葉にドラムか答えた。

どこか納得をしていない。そんな様子だ。


「比較的無事な家屋からは、金品が無くなっていました。犯行グループが砲弾虫を討伐後、この場から逃走。それが妥当では?」


「ふーむ」


カルヴィナの言葉に返ってくるのも、どこか身が入っていない。いつの間にか怒りも何処かで処理されたようだと二人は胸を撫で下ろす。

しかし、懸念は残る。


「逃亡したとして、この村の規模から見て、多くて10人か」


「はい」


「砲弾虫を討伐出来るような、犯罪者パーティーが野に放たれたと…………。蛇の目以外にそんなものがいるなど考えたくないな」


それが三人の共通した懸念だ。

小隊程度の人数で、それほどの戦闘力をもつパーティーの数は多くない。

さらにだ、砲弾虫の殺し方が今までにない。

拳の形が額に残っていた。手甲ではなく、明らかな素手の形。サイズはまるで子供だ。


ドワーフか。鼠人とも考えるべきか。

どんな相手だとして、やっかいなことに代わりはしない。


「不安を解消しにきて、より大きな不安が生まれたな」


ドラムの言葉に二人が頷いた。


「足取りを追う。砲弾虫の素材が剥がれていたな。ディルゴは近くのギルド会館を当たれ。カルヴィナは私と本隊に戻り、この情報を精査する」


連合の驚異は排除せねばなるまい。

そう呟いたのは誰だったか。

しかし、三人の思いは一緒だ。


未知なる驚異に向かい三人の騎士が歩を進めた。


向かわれている驚異は、それを知らない。



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