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彼女は鉄

魔物の襲撃から2日。

今は花畑で野営をしている。

ニナさんとクロさんの判断で、明日魔物が出ないなら大丈夫だろうとの話だった。


「花も撒いたし、たぶんねー」


「あんなところに出るのが異常」


今は今後についての話し合いだ。

クロさんが自力で立てるようになったのは昨日だ。そこから、彼女は1日。黙って何かを考えてる様子だった。

魔物を倒した時、這いずりながら向かってきたことを考えると奇妙にも思えた。


「ところで、みんな、これからどうする?」


クロさんが言った。


「わたしは共和国にいくよー。ちょっとはやくなったけど逃亡奴隷なんてわけじゃないからー」


ニナさんは素早く答えた。

当然だ。彼女はそこにいくのが目標なのだ。


「シロ、あなたは?」


「それは……」


何も決まってない。

逃げようなんて考えておいて、行き先なんて考えていなかったのだ。


「考えてないんでしょ?」


クロさんが続けた。

もちろん図星なので、首を縦に振る。


「なら、私のために生きなさい」


「へ?」


言葉が、理解できない。

そのまま、彼女が続けた。


「あなた、普通じゃない」


言葉にされると、なかなかキツい。

普通ではないと言われることに、僕はあまり喜びを感じない。特に今は。


「でも、それは私も一緒」


クロさんが僕の目を見た。

そして、そのまま、離さない。


「私はね。死んでるはずの人間なの。それが、延期になって、ゆっくり、ここで死ぬはずだった。私も受け入れてた。でも、あなたの姿を見て馬鹿馬鹿しくなった」


「僕をみて?」


「ええ、だから、あなたは私を生かした責任がある」


彼女の瞳が、まっすぐに僕を見ていた。

責任と言われて、僕は頭を殴られたような気分になる。鈍器で殴られた時よりも、なぜか痛む。

彼女の瞳を遮るものは、何もない。

僕が、彼女のカーテンを開けたのだ。


「話がー、かたーい」


ニナさんがクロさんを後ろから抱き締めた。

猫耳に抱き締められる美少女。


「ニナ、私は真面目」


「普通に魔力をわけて欲しいでいいじゃなーい。シロちゃん、お子様なんだよー。やりたいこともあるでしょー?」


二人が僕をみた。

ゆっくりと答える。


「僕は、なぜ、ここにいるのかわかりません」


なぜ、この世界に来て、こんな姿になったのか。

考えても、考えても、わからない。

現実を受け入れたなんて言いながら、僕はこの現実を遠くから見ていた。

まるでゲームでもしてるみたいに。

だが、違った。

ここは紛れもなく、僕がいる現実で。

仮想現実じゃなかった。

魔物を殴り飛ばした右腕の。

痛みをしっかりと思い出せる。


「でも、家に帰りたいです」


「それはどこにあるの?」


「わかりません」


そう、わからない。

僕はどうやってここに来たのか。

どうして、来たのか。

でも、帰りたい。

母が、父が、祖父が、祖母が、妹がいる。

友達も、尊敬できる先生もいた。


元の世界へ、帰りたい。


「私が手伝う。あなたを家に返す方法を探すのを。だから、私の、生きる手伝いをしてほしい」


クロさんの言葉を、僕はようやく飲み込む。

彼女も探したいのだ。

帰る場所を。


「わかりました。お願い、します」


彼女は、笑った。

笑顔が、眩しい。


「クロガネ」


「え?」


「クロガネ・ミサキ。私の名前、変わってるの」


その名前を聞けただけで、不思議と力が出た。

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