選択と対峙
僕が振り返るのを見て、先に気がついたのはニナさんだった。
「行って」
言葉は短く、わかりやすかった。
「わたしはここに隠れるよ。きみらは走りなさい」
クロさんはその言葉の意味にすぐに気がついた。
「ふざけないで!あれは、目と熱で獲物を探す!隠れたって無事に済むかわからない!」
「今まで見つからにゃかったよー。安心してー」
ニナさんは笑顔だ。
その笑顔に、僕はなぜか諦めが見えた。
「それに足をやられてる獣人はお荷物よー。助かったって意味にゃいよー」
彼女の言葉、その意味に肌がざわめいた。
彼女は言っているのだ、安心して、自分を見捨てろと。本当に足を怪我しているかはわからない。
だが、僕と同い年くらいの。14、5の少女が下した決断とするなら、それはあまりに辛く、悲しい。
その中で虫は膨張していた。
先程の虫はもう少し大きくなってから、突撃してきた。まだ、猶予はある。だが、それもあまりに短い。
「シロ!ニナを抱えて行きなさい!あなたならやれる!」
「むちゃいったらダメよー。わたしは平気だからいきにゃー」
決断は僕に委ねられていた。
ニナさんか、クロさんか。
それとも、どちらも。
『どちらも助けない』
それが僕の選択肢としてあった。
しかし、僕は出来ない。
誰かを選ぶことも、選ばないことも。
僕は何も知らない。
だから、僕は、考えを捨てることにした。
「シロ!」
「シロちゃん!」
「大丈夫ですよ」
二人に答える。
そして、虫へ。
魔物へと僕は向き直った。
僕には二人が必要だ。
僕はこの世界を何も知らない。
だから、僕は僕を捨てて、シロになることを。
ようやく、決めた。