村へと
この体はやはり目が良い。
その証拠にクロさんは村の様子に気がついていない。村は孤児院以外に、数件あばら屋のようなものが建っていて、何人か老人が住んでいるようだった。
しかし、今ではそのあばら屋も、昨日まで寝床になっていた孤児院もみる影もなく倒壊していた。人の姿は見えないが、それでも村は凄惨な状態だ。
何が起きている?
わからないが、これ以上近づくのは危険だ。
クロさんを止めよう。
彼女の前に手を出す。
「なにあれ、村が…………」
そうするよりも先に彼女も気がついたようだ。
だが、僕より見えていることはないだろう。
そんな自信がなぜかあった。
「クロさん、ここで待ってて」
「何言って……?」
「様子みるだけです。すぐ戻りますから、隠れてて」
言って走り出す。
自分でもビックリする。
自分にこんなに行動力があったとは思わなかった。だが、やはり心配なものは心配なのだ。
ニナさんは勿論、殴られたりしたとはいえオッサン達にも世話になった恩だってある。
走って村に向かう、思っていたより速く走れる。
すぐに村に着いた。辺りを見る。
そこにひとつ何かが転がっていた。
女性だ。
ただし、上半身だけ。
腰より下が、ない。
気持ちが悪くなり、堪える。
目が良すぎるのも考えものだ。
しかも、あれは見覚えがある顔だ。
孤児院にいた女性、ニナさんでは無い方だ。
顔見知りだが、名前も知らない。
ニナさんで無かったことに安堵する。
自分はこんなに白状だったろうか?
そんな考えを振り払い頭を切り替える。
この状況は自然災害とは考えられなくなった。
何かに襲われた。死体を見る限り、そう考えるべきだろう。辺りをさらに探索する。
血だ。血の痕が多い。
体のパーツのようなものが見える。
気持ちが悪い。だが、堪えられる。不思議だ。
恐怖や興奮でハイになっているのかも知れない。
辺りを警戒しながら、孤児院の前についた。
遠くから見えたように、孤児院は崩れていた。
まるで、何かが衝突したように側面が崩れていた。中は崩れた瓦礫が重なっている。人影もみえたが、首があらぬ方向へ曲がっている。
オッサングループで初日に見かけた小さいオッサンだ。
例え異世界でも、あれで助かるとは思えない。
オッサンは鎧を着ている。フル装備で盾まで持っていたが、それも身体と一緒にバキバキにやられていた。
嫌な予感がした。
これはどうしても人間技に見えない。
すると、まだこの世界ではっきりと出会っていないもの。それの仕業ではないか。
寒気。
第六感。
僕は振り返る。
恐れていたものが迫っていた。